RAINMAKER 「Same」'00 北欧スウェーデンきってのワーカホリック・AOR&メロハー職人&プロデューサー Tommy Denanderが、Geir Ronning (SAYIT、DEACON STREET PROJEC)、Tony Franklin (ex:THE FIRM、ex:BLUE MURDER、etc..) 等と結成したHRバンドが2000年にZ RECORDからリリースした唯一作が2023年度リマスター、新アートワーク、一般卸販売を行わないPride & Joy Musicショップ限定販売、さらに500枚限定プレスでPride & Joy Music Classixx第二弾作としてリリースされたのを即GET! オリジナル盤はマイナー・レーベル Z RECORDからのリリースと言う事もあって長らく市場から姿を消していた、ミュージシャン Tommy Denanderを後から追いかける事になったメロハー・マニア泣かせだった一枚が今回限定の弱流通盤とはいえ遂にリイシューされその筋の方は喜んでいる事だろう。 Tommy DenanderはTOTOリスペクト感の強いプログレ・ハ ード・バンドREDIOACTIVEや、REDIOACTIVEやSAYIT、SPIN GALLERY、HOUSTON等への楽曲提供や演奏でその後も長らく活動を共にする盟友である鍵盤奏者 Rickey B Delinと組んだメロハー・バンド PRISONORをはじめ、AOR、メロハー、HM、プログレ・ハード、各種セッション等とその活動は欧米のみならず全世界を股にかけ多彩なジャンルで多岐に渡り、恐らく彼自身もどこで何に関わり誰と録音したのか正確に把握していないんじゃないかと思う程大量の音源を同時期に数多く提供していた頃に結成したメロディアス・バンド(結果として単発に終ったのでプロジェクト扱いか?)がRAINMAKERであります。 REDIOACTIVEやSPIN GALLERY、PRISONOR、Tommy Denander主導ではないがHEARTBREAK RADIOなど、彼の関わって来たバンドやプロジェクトはリリース期間が開いても大抵好評を博していた為か複数枚アルバムがリリースされて来た訳だが、今回リイシューされた本作RAINMAKERはアルバムを一枚しか(2nd制作の情報が流れた事があったが結局消滅した模様…)残していないのを見ても分かるように余り良い評価を下されなかったバンドで、粗雑乱造ではないが悪くはないものの他のプロジェクトやバンド作と比較すると強烈な個性が有る訳でもなく、特に酷い出来でもないけれども中庸で凡作といったイメージの一作で、私自身も今回のリシュー・インフォを見るまでその存在を完全に忘れておりました(汗 リリースした時期が時期だったしグランジーの嵐吹き荒れる00年代はメロディアス作にとって宜しくない状況故に内容どうこう以前に市場にアピール出来なかったのも大きいかったかもしれませんが… レコードラックの奥から引っ張り出して今回久しぶりにオリオジナル盤を聴き直してみても当時の印象は変わらず、一般卸販売を行わないPride & Joy Musicショップ500枚限定販売と言う事や今回のリイシューに際してこの手のアイテムに付き物のボーナストラック等の類いが一切収録されていない事実を見てもレーベル側も然して売り上げが見込めぬ、余り制作に金を掛けたくないコレクター向き作品と思っているのが伺えるマニアックで不遇な一枚なのは間違いない。 まぁ、逆に言うと良くぞリイシューしてくれたとも言え、恐らくもう二度とリイシューされぬ可能性も高いので、Tommy Denanderファンな方は早々に入手しておいた方が無難な一枚とも言えるだろう。 散々にネガティヴな事を書き連ねましたが今回のリイシューで嬉しい事もあり、オリジナル盤のマスタリングは Tommy Denander自身も『凄く悪い』と語っていたサウンド(バジェット的な問題? でも自身がミックスとプロデュースしたのに…)でしたので、今回の最新リマスターでその問題が幾分か改善されたのはオリジナル盤をお持ちだったファンの方に嬉しいニュースでしょう。 売りだった Tony Franklin のベース・プレイを際立たせる為かボトムのサウンドの芯がハッキリしてパワフルでクリアな印象が強まり、各楽器の分離もより立体的で奥行が増し、少々前に出過ぎていたギター・サウンドを幾らか控え目にしつつヴォーカルとコーラスにより重点を置いた、ポップネスをより強く感じられるバランスを意図したリマスタリングになっている様に思えます。 内容的にTOTOリスペクトな Tommy Denanderの嗜好が大きくクローズアップされた作風で、彼のテクニカルでエモーショナルなギター・プレイをタップリとフィーチャーしたキャッチーな80年代風メロディアスHR作なイメージを主軸に、随所で産業ロック風なタッチや仄かに香るプログレッシヴなテイスト、そしてお約束のアコースティカルなバラードやブルージーな渇いたギターの官能的な音色やスリリングな速弾きプレイが楽しめたりと、ちょっと灰汁のある苦り声でパワフルな熱唱を轟かす Geir Ronningのヴォーカルと爽快で分厚いコーラスが効いたバランス重視のソツないギター・オリエンテッド・アルバムに仕上がっており、殊更に悪評を下される様な作品ではないと思うのですが、やはり同時期にリリースされた作品や彼がその後にリリースしてきた多彩な作品群と比べると些か普通、ベーシックで刺激の弱いアルバムと捉えられたのと、弱小レーベル故にアルバムへのフォローアップやバックアップが弱かったのが災いしたのかその存在を今日まで長らく忘れられて来た幻の一作と言えるのではないでしょうか? とは言え00年代のメインストリームの状況を横目で確認していたのか幾分がダークなテイストも漂っているし、能天気な80年代USヘア・メタル風味はそこまで強烈でなく、かといってバリバリ売れ線狙いのドキャッチーでラジオフレンドリーなAOR風のガッチリ創り込まれた作風でもない、オールドスクール寄りでもなく最新トレンドに接近した訳でもない中途半端な路線とも言えますので話題にならなかったのもむべなるかなであります。 名手 Tony Franklin のベース・プレイが余り耳に入ってこない点はちょっと残念ながら、本作の音楽スタイル的に合わせてか派手なリードプレイやファンキーなソロ・プレイなんぞを無理にゴリ押しせず、メロディアスなバッキングを構成する要素やさり気ない洒落たプレイでサウンドの彩りを増やすのに徹しているベテランらしいソツないプレイがらしいと言えばらしい? また、今回リニューアルされたジャケットアートワークですが、バンド名を現わすネイティヴ・アメリカンの祈祷師を描いた本リイシュー盤の直接的な表現(Tommy Denanderのデザインなんだよなぁ…)よりもオリジナルの示唆に富んだ洒落たセンスあるデザインのジャケの方が本作のモダンでキャッチーなメロディアス・サウンドにマッチしていたと思うので個人的には改悪にしか思えませんが、そもそも今やオリジナル盤を殆どの人が所有してない状況なので大した問題ではないかもしれませんね…(汗 後はクレジットが改められていて当初ちゃんとメンバーであったドラマー Walter Degoが今回のリマスター盤ではヘルプ要員へ格下げされちゃったのは如何なものかと思うんですが、今さらセールスに繋がらないとデザインを変更したの? ウーン、なんだかちょっと不条理じゃありません? とまれ Tommy Denanderファンは勿論、既述のバンド作を気に入っている方も一度は本作のサウンドをチェックしてみて欲しい、そんな幻のメロディアス・アルバムであります。 Track List: 01. Rainmaker 02. Father Of Your Sins 03. Nancy Hold On 04. Kay 05. Seriously 06. The Sound Of My Heart 07. Going Insane 08. Blood Brother Run 09. Passion Again 10. Bad Call 11. King Of Fools RAINMAKER Line-Up: Geir Roenning (Lead & Backing Vocals) Tommy Denander (Guitars、Keyboards、Bass & Programming) Tony Franklin (Bass) Walter Dego (Drums、Percussion) Produced by Tommy Denander #
by malilion
| 2023-10-18 14:59
| 音楽
|
Trackback
GALAHAD 「The Long Goodbye」'23 かってネオプログレ・バンドLAHOSTのフロントマンであり、現在はサウンドエンジニア、プログラマー、アレンジャー、もこなす裏方作業メインなマルチ・ミュージシャンでTWELFTH NIGHTの7代目フロントマンでもある Mark Spencerを新ベーシストに迎えた前作と同じ編成でリリースされた、英国第二世代ポンプ勢の筆頭バンドGALAHADのオリジナル・フルアルバムとしては前作『The Last Great Adventure』'22 以来1年ぶりとなる13thアルバムを即GET! この最新作はコロナの緊急事態で全世界が騒然とする前、最中、そしてその後に、前作『The Last Great Adventurer』と同様にここ2、3年の間にレコーディングされたもので、オフ・シュート・プロジェクト GALAHAD ELECTRIC COMPANYの3rdアルバム『Soul Therapy』'21 はシンガー Stuart Nicholsonが長い闘病の末に最愛の母を亡くした心情を切々と歌い上げた、心に響く、感情的な作品であったが、本作ではなんと彼の父親が最近認知症と診断され、家族が父親の衰えという難題に直面するパーソナルな事柄を赤裸々に題材とし、立て続けに両親を襲った不幸がもたらした心痛がミュージシャンとしてシンガーとして創作意欲を加速させたのか、加齢のプロセスと、早期認知症という困難で厄介なテーマとした表題曲を筆頭に、人間関係における誤解がもたらす問題や20世紀初頭に中東を切り刻み、今日まで続く恨み、分裂、戦争の種をまいた旧帝国イギリス、フランス、ロシア等への糾弾など、何時にも増して深い考察と幅広い観察に満ちたディープでシリアスなトピックが取り上げられたアルバムで、成熟した感覚を特徴とし、ロックの持つパワフルさと芸術性、そして想像力豊かで繊細なテーマを探求している彼等のカタログ中でも一、二を争うエモーショナルでアーティスティックな力作だろう。 Stuart Nicholsonの気持ちを代弁するかの様な切なく物悲しい歌詞とデジタリーでダンサンブルな打ち込み要素も織り込んだ独自のポップ・センスが活かされたキャッチーな定番のポンプ・ロックと、メランコリックな浮遊感ある美旋律が醸し出す極上のプログレ・テイストを取り入れた意欲的で独創性高いスタイリッシュなシンフォニックHMサウンドは、メイン・テーマがテーマなので覚悟していたが思いの他に鎮痛で重苦しい雰囲気は感じられず、所々で空虚な残響や陰鬱な旋律は聴こえるものの総じてクリアなコンテンポラリーサウンドで彩られており、特に Stuart Nicholsonのエレガントなヴォーカルに導かれ描き出されるイマジネーションは圧巻で、当然だが彼の私小説でないので意外な程にエンターテイメント性に富んだ魅力的な楽曲が表題曲以外に詰め込まれており、GALAHADらしい重厚なアンサンブルと際立ったシンフォニック・アレンジが実に聴き応えあるアルバムに仕上がっている。 英国バンドらしいエレガントさも漂わせつつ、時にシネマティックで、ある時は瞑想的でメランコリックな、またある時にはファンキーにと、楽曲によって様々に表情を変える美旋律に Stuart Nicholsonの意外な程に飄々とした歌声がミステリーとサスペンスなタッチも加え、グルーヴィで複雑なリズムに導かれてスムースに流れゆく瑞々しい感性の輝きがあるダイナミックな鍵盤サウンドと前作以上に魅力を増した Lee Abrahamnの巧みでエモーショナルなギター・リフは聴く者の心を惹き付け、メンバー全員が一丸となって最高のパフォーマンスを披露しているのは無論の事、所々でGENESISやMARILLION、そして Peter Gabrielの楽曲のよく知られた歌詞の一節が顔を出したりと旧来からのプログレ&ポンプ・ファンをニヤリとさせるお遊びや影響を伺わせる瞬間があったりと、最初から最後まで聴衆を魅了し、幻惑し、所々で斬新な驚きも与える、キャリア38年を迎えたGALAHADが前作に引き続き今まさに創作意欲に燃え上がり更なる進化を魅せているのは、全くもって驚くべき事と言えるだろう。 エッヂあるエモーショナルでフィーリングたっぷりな伸びやかなギター、歯切れ良くテクニカルに叩きつけるソリッドなドラム、ファンキーで流麗なベース、そしてオーケストレーションも交えたシンフォニックでエレガントな美しいキーボード、当事者だからこそ真摯に語れる説得力あるハートフルなヴォーカルと印象的なコーラスも加わって、英国らしい気品、プログレ伝統のインテリジェンス、アーティスティツクな独創性と、様々な影響やスタイルを取り入れた魅力的なロック・ミュージックが鳴り響く様はGALAHADが未だに境界線を押し広げ、高品質で意義深い音楽を生み出し続けていると分かり、一級品のバンドに必要とされるモノが全て揃っているのは間違いない。 個人的に身内に痴呆症を患った者がいた身としては、本作で綴られる『お湯を沸かすヤツにお湯を入れているんだ、別の部屋に居る名前も分からない人達に飲み物を作っているんだ、知っているハズなのに、顔が分からない…』という、記憶もあやふやで物の名称さえ言葉に出来ない、認知症と向き合おうとする人物の気持ちを想像しながら一人称で書かれた歌詞が途方もなく絶大なインパクトを与え、平凡で慣れ親しんだモノさえも崩れ去り、遠ざかっていく独特の不安感が奇妙に混在したノスタルジックでどこかセンチメンタルなタッチの切ないメロディと物悲しく綴られる言葉がまるで心に突き刺さるように痛かった… 華麗にオーケストレーションされた感動的なフィナーレの後、最後の曲は優しく消え去り、Stuart Nicholsonの悲しげな呟きが『さようなら』とだけ告げ終える、この曲はGALAHAD史上最高の感動的な曲の一つであり、個人的には2023年最高のロック・ソングの一つだと感じています。 ボーナストラックの方はアルバム前半の楽曲と同じイメージのサウンドで、本作のシリアスなテーマから外れると思ってボーナス扱いなのか前半曲と同じイメージの楽曲が多過ぎると判断した為外されたのか、表題曲の印象を際立たせる為に敢えてアルバムの構成から除外し完成度を高めようという意図があったのかは不明ですが、楽曲単体で聴けば従来のファンに十分以上にアピールするポンプ風味ある如何にもGALAHADらしいちょっと物悲しく幻想的なプログHMサウンドが楽しめる佳曲だ。 何時もの様にプロデュース、ミックス、マスタリングは、00年代に消えかけていた彼等を華麗に復活させたお馴染みTHRESHOLDの Karl Groomが手がけているので品質に些かの疑いもないのでご安心を。 表題曲がディープな題材を扱った楽曲ではありますが、全体的にはキャッチーでモダンなサウンドと巧妙でスペクタクルな展開が融合した明朗で鮮やかなシンフォニック・ロック作でありますので、英国プログHM好きな方にもなんの問題もなくお薦めできますからご興味あるようでしたら一度ご自身の耳でチェックしてみて下さい。 Track List: 01. Behind The Veil Of A Smile 02. Everything's Changed 03. Shadow In The Corner 04. The Righteous And The Damned 05. The Long Goodbye 06. Darker Days [Bonus Track] 07. Open Water [Bonus Track] GALAHAD Line-Up: Stuart Nicholson (Lead & Backing Vocals) Dean Baker (Keyboards、Orchestration、Programming、Backing Vocals) Spencer Luckman (Drums、Percussion) Lee Abraham (Electric & Acoustic Guitars、Backing Vocals) Mark Spencer (Bass、、Backing Vocals) Karl Groom Engineer、Producer、Editor、Mixer、Masterer #
by malilion
| 2023-10-14 20:21
| 音楽
|
Trackback
Various Artists 「ROCK OF NORWAY presents Norwegian Melodic Hard Rock and AOR Volume 2 Rare Singles」'23 80年代末期から90年代初頭にかけての北欧ノルウェーの無名HR&AORバンド達が残したシングル集の第二弾が早くもリリースされたので即GET! 第一弾の時も述べた様に北欧ノルウェーで80年代後期~90年代初頭の間に短期間だけ活動していたメロディアス・ロック&AORバンド達が残したレア・シングル音源を集め初CD化した、ROCK OF NORWAY、C+C Records、Norske albumklassikereがクラウドファンディングで企画したコンピレーション盤の第二弾で、第一弾が余りに好評だった為に急遽続編盤の発売が決定したマニアックながら人気企画盤であります。 収録されているバンドはほぼ無名な存在で、本作収録の貴重7インチシングルかEPしか音源を残していないバンドばかりながら、STAGE DOLLS、RETURN、DA VINCI、ALIEN、TREAT、TALK OF THE TOWN、SKAGARACK、MINDLESS等に続く北欧メロディアス・バンドとなるかもしれなかったポテンシャルを十分に感じさせる貴重音源オンパレードとなっており北欧メロディアス・ハード&北欧ハード・ポップ・マニアには見逃せぬコンピ盤だ。 一聴した印象では第一弾がメロディアスHRに大きく傾いた音楽性のバンドを数多く収録していたが、今回はロックンロール系の縦ノリ重視なスリージーでグラムっぽさも感じさせるサウンドなバンド音源が数多く収録されており、00年以降にSKID ROWの影響色濃いワイルド・サウンドを引っ提げて登場してくる北欧ロックンロール&バッドボーイズ系バンドの源流とも言えるバンド達が今回は多めにチョイスされている様に思えます。 なので第一弾の様なキーボードのフィーチャー具合は低く、ハード・ドライヴィンなギター・サウンドが大きくフィーチャーされている音源が多く、北欧メロハー&ハードポップに通じる軽めのメロディアスでキャッチーな楽曲は少なく感じますね。 一応、名の知れている一定の知名度がある参加バンドの音源と言うと、80年代北欧ノルウェー産HMバンドの代名詞、TNTのオリジナル・シンガーであった Dag Ingebrigtsen (ex:TNT、ex:TINDRUM、ex:THE KIDS、ex:SUBWAY SUCK etc...)のソロ音源(バックはTNTの面々なので実質、初期TNT! Ronni Le Tekroの癖有りまくりなギターが鳴りまくっとります)と80年代ノルウェー産メロディアス・ハードポップ・バンドの代表格で未だに根強い人気を誇るDA VINCIが1990年にリリースした最終音源である7インチEPの音源が収録されているくらいで、後は一般的にはほぼ無名な存在のバンドばかりではあるものの、北欧バンド特有の叙情感あるウェットな美旋律はどの音源にもしっかりと息づいており、アメリカナイズされたサウンドを鳴らすバンドであっても完全に能天気に成り切れぬ湿ったメロディを奏でている所など実に北欧産バンドらしく、だからこそ80年代にワールドワイドな成功を収められなかったんだと納得しきりではありますが、日本人的にはそれ故にマイナーで無名なインディ・バンドな彼等の遺した市場的に成功しなかった音楽に未だに心惹かれる訳でして、もう決して二度と聴く事が叶わぬ米国市場を夢見ながら北欧ミュージシャン特有の音楽性がしっかりと感じられる唯一無二の80年代北欧ピュア・メロディアス・サウンドを楽しませてくれる好盤だ。 そうそう、キャッチーで如何にも80年代風のビッグコーラスがフィーチャーされたオーバープロデュース気味な北欧メロディアス・サウンド、DA VINCIファンはこの音源目当てで購入しても決して損はしないと思いますよ? 第一弾が気に入ったメロハー好きな方の為に言っておくと、縦ノリ重視なロックンロール系音源が多いもののしっかり第一弾と同じ如何にも北欧メロハー&ハードポップな音楽性のバンド音源も収録されており、フィメール・シンガー Trine Arentz嬢をフィーチャーした5人組バンドTAKE OFFなどは第一弾に収録されていてもおかしくない軽やかでキャッチーな北欧ハードポップ・サウンド(シングルのジャケデザインはもうちょっとどうにかならんかったんか…)を聴かせてくれている他、小柄な見た目に反してHMシンガーにも通じるパワフルでドスの効いた歌声でグイグイ楽曲を引っ張る Lone Grefsrud嬢をフィーチャーしたLIMELIGHTは華やかなキーボードが鳴り響くモロにメロディアスな80年代北欧ハードポップ・サウンドなので、メロハー好きな第一弾が気に入った方も完全にスルーする訳にもいかない第二弾は、ROCK OF NORWAYの Per Erik Jansen氏と Terje Hoiland氏が中々心憎いチョイスを行ったと言えますね。 第一弾に続き全てがオリジナル・マスター・テープからのリマスターと言う訳ではなく幾らかは板起こしと思しき音源も収録されていますが、それで本作収録音源の価値が些かも損なわれる事はなく、80年代末~90年代初頭の北欧ノルウェー産メロディアス・ロックがお好みな方は一度幻の音源盛りだくさんな本コンピレーション盤をチェックして見ても決して損する事はないでしょう。 もし第三弾がリリースされるなら、今度は北欧プログレの流れを汲むテクニカル系HRバンドやハードポップ・バンドなんかのドマイナー・バンド音源を多数収録した激レア盤をお願いしたいですね(w 昔から北欧プログレ系でシングルやEPしか残してない優良バンド、結構存在してるんスよねぇ~ CD-1:The A-Sides Track List: 01. Dag Ingebrigtsen - Tor With The Hammer (1984) 02. Torpedoes - Bail Me Out (1992) 03. Bangkok Babes - Last Day (Of My Life) (1991) 04. Da Vinci - Ain't No Goodbyes (1990) 05. Sons Of Angels - Queen Of All Queens (1991) 06. Ammunition - Taxi Driver (1991) 07. Merry Go Round - Tonite (1991) 08. Blackout - Listen To The Earth (1988) 09. Eternity - Cry For The Innocents (1991) 10. Tight-P. - Heat Beat (1987) 11. Take Off - New Life City (1986) 12. Heartline - Nightfall (1988) 13. Fury - Paradize (1989) 14. Limelight - Floating Away (Part Of My Dreams) (1987) 15. Whiplash - Without You (1987) 16. Lord Percy - Take My Hands (1988) 17. Crank It Up! - Heart On The Line (1989) 18. Wild Child - Give Me One Good Reason (1991) CD-2:The B-Sides Track List: 01. Dag Ingebrigtsen - I'm In Love With R & R (1984) 02. Torpedoes - More Than Memories (1992) 03. Bangkok Babes - Nothing Last Forever (1991) 04. Da Vinci - Blame It On The Radio (1990) 05. Sons Of Angels - Baby Wanna Ride (1991) 06. Ammunition - Dance (1991) 07. Merry Go Round - Ride (1991) 08. Blackout - When Will They Ever Learn (1988) 09. Eternity - I Want Out (1991) 10. Tight-P. - Flying High (1987) 11. Take Off - Mrs. Blue (1986) 12. Heartline - I Wanna Rock (1988) 13. Fury - Game Like War (1989) 14. Limelight - Fire And Ice (1987) 15. Whiplash - Tears In The Night (1987) 16. Lord Percy - Take My Chains (1988) 17. Crank It Up! - Innocent (1989) 18. Wild Child - Sweet Sweet Rosalin (1991) #
by malilion
| 2023-09-26 17:08
| 音楽
|
Trackback
ARC ANGEL 「Arc Angel + 3」'23 マルチ・ミュージシャン Jeff Cannata (Christopher Hawke名義でJASPER WRATHに在籍)とキーボーディスト Michael Soldanの元JASPER WRATH&元ZOLDAR & CLARKメンバーによって1982年に結成され米国コネチカット州ニュー・ヘヴンを拠点に活動していたプログレ・ハード・バンドが1983年にPortrait/CBSレコードからリリースしたデヴュー・アルバムがフランスのマニア御用達レーベル BAD REPUTATIONから2023年度リマスターを施されボーナストラックを3曲追加して待望のオフィシャル・リイシューが成されたので即GET! 因みに Christopher Hawkeは Jeff Cannataが最初に結成したトリオ・バンドの名前で、アルバム・プロデュース名義に使用したりしていた愛着ある名なのだろう。 既に何度かリイシューが繰り返されている80年代USプログレ・ハードの名盤でありますが、後に自身のソロ・プログHMバンドCANNATAを率いる Jeff Cannataや後にUSメロディアスHMバンドHOUSE OF LORDSへ加入し今もバンドを率いて活動中なシンガー James Christian、そして後にBON JOVIでも活動するセッション・ベーシスト Hugh John McDonaldがアルバム制作にセッション参加した事で有名な一枚で、意外と最近HMを聴き始めた若いリスナーは彼等のキャッチーで素晴らしい80年代USプログレ・ハードに通じるメロディアス・サウンドを耳にした事の無い方も多いのではないだろうか? 米コネチカット州ニュー・ヘヴンをホームに活動していたプログレッシヴ・ロック・バンドJASPER WRATHは1969年に結成され、メンバーは Michael Soldan (Mellotron、Synthesizer、Vocals)、Christopher Hawke (= Jeff Cannata、Drums、Guitars、Winds、Vocals)、Robert Giannotti (Vocals、Flute、Guitars)、Phil Stone (Bass、Flute、Vocals)の4人がオリジナルメンバーで1971年にデヴュー・アルバムをリリースし1976年まで活動を続けローカルバンドながら地元で人気を博した。 1976年にJASPER WRATHにリード・ヴォーカリスト James Christianが加入し、他に Scott Zito (Guitars、Vocals)、Jeff Batter (Piano、Synthesizer、Vocals)の2名の新メンバーも加わって7人所帯の大編成バンドへ生まれ変わると、ニュー・ヨークへ活動拠点を移したのに合わせてバンド名をZOLDAR & CLARKへ改名する。 1977年にUSA Dellwood Recordsからリリースされた唯一作のオリジナルLPはメジャー・クオリティーを誇る隠れた名盤として有名で高額コレクターズ・アイテムとしても知られており、フルートを活かした穏やかなアート・ロックという些か野暮ったさが隠せなかったJASPER WRATHの60年代風味も香るサウンドから、一気にYESタイプのテクニカルでパワフルにハードドライヴィンする70年代プログレッシヴ・ロックへ様変わりしており、Chris Squire張りのブイブイ唸る硬質なベースと手数が多くアタック感の強いドラムのリズム隊が生み出す疾走感あるアグレッシヴなボトムの上で、STYX風の分厚く伸びやかなコーラスが乱舞し、メロトロンを筆頭にシンセやピアノが絡み合うツイン・キーボードが生み出す重厚で華麗な、時に野太く不愛想に畳みかける音数多い濃厚で暑苦しい鍵盤サウンド、ワイルドでハードエッヂな癖の強いギター・プレイ、イタリアン・プログレ風に屈折した楽曲展開を強引なパワー圧しで突き進む所などは独特で、同時に米国バンドらしい抜けの良い爽快さも持ち合わせつつ、メロトロン、そしてフルートが楽曲を彩るセクションは欧州的な叙情感を醸し出しており、煌びやかなキーボード・サウンドも相まって硬質で疾走感ある進化したアートロックとでも言うハード・サウンドは終始バタついていて完成度的には70年代英国のプログレ・バンドの巨人達に大きく劣るが、なんとも言えぬ個性的な味わいのある美旋律の数々は実に興味深く、混沌とした70年代初期ヘヴィUSプログレ好きな方は是非チェックしてみて欲しい。 非常に残念なのは音楽形態的にリード・ヴォーカルの James Christianの歌声が聴けるパートが少なく『あんなに上手いヴォーカリストを迎えておいて、なんて宝の持ち腐れなんだ!』と本作を初めて耳にした時は憤慨しましたが、よく考えてみればこの時点ではまだまだキャリアも浅い新人シンガーな James Christianでしたから、現在のような絶品の歌唱力がまだ覚醒していなかったのかも、と思い直し、この時点では典型的プログレ・バンド的なヴォーカルの起用方法が丁度良かったのかもしれません… アルバムは力作であったものの70年代英国プログレの後追いサウンドでは頭角を現わす事は叶わず、残念ながらZOLDAR & CLARKは成功する事なく解散し、Jeff Cannataと Michael Soldanは当時のUSメジャー・シーンの流れ(KANSAS『Point Of Know Return』'77、STYX『The Grand Illusion』'77、BOSTON『Don't Look Back』'78)を鑑みて、よりメジャー受けす音楽の作曲を開始する。 1980年代初頭、Jeff Cannataと Michael SoldanはCBSレコードのスタッフに新曲をいくつか披露すると、CBSはこのデュオ『ARC ANGEL』を気に入り、レコーディング契約を結ぶ。 契約を手に入れたのはいいが折角の楽曲を演奏しレコーディングするバンドが存在しなかった為、2人はTHE ALAN PARSONS PROJECTと同様に大勢のセッション・ミュージシャンを集めてアルバムをレコーディングする選択をする事に。 Jeff Cannataが遂にリード・ヴォーカルとギター、ベース、ドラムを担当し、Michael Soldanがキーボードとバッキング・ヴォーカルを務め、元JJASPER WRATHのバンドメイトである Robert Giannottiがアコギ、エレキ・ギター、フルートで参加し、元ZOLDAR & CLARKの James Christianはバッキング・ヴォーカルで参加、同じく元ZOLDAR & CLARKの Jeff Batterがピアノ、さらにセッション・キーボーディストの Jeff Bovaと セッション・ベーシストの Hugh McDonald等をはじめ数多くのセッション・ミュージシャンがアルバム制作に参加している。 本作からは、80年代を象徴するMTV用のビデオクリップが制作され、ビデオ用のバンド編成は Jeff Cannataと Michael Soldanに加え、バックバンドとして地元コネチカット州のロックバンドCRYER(Jay Jesse Johnson [G]、Steve Shore [B]、Jeff Zajac [Ds])が登場しパフォーマンスを披露した。 ZOLDAR & CLARKの混沌としたパワフル・サウンドから想像もつかぬ、洗練されたアレンジとキャッチーでメロディアスな商業的成功が目論まれている事が容易に分かるフック満載でラジオフレンドリーなARC ANGELのそのコンパクト・サウンドは、全編で鳴り響く煌びやかなキーボードとハードエッヂでメロディアスなギターをフィーチャーしつつ、ハイ・センスな洒落たヴォーカル・メロディと爽快なハイトーン・ヴォーカル、そして分厚くキャッチーなコーラスを主軸にテクニカル且つシンフォニックなセンスも活かして展開する、メインストリームを賑わすお手本バンドをかなり研究したのが良く分かる隙無い創りで、NEW ENGLANDやSAGA、Jon Ellefante在籍時の後期KANSASやメガヒットを連発するBOSTON等にも通じる北米プログレ・ハードをベースにコマーシャリズムを強く意識して磨き抜いた、80年代ポップスのスタイリッシュさと伝統的プログレ・テイスト香る技巧的メロディが絶妙に溶け合った美旋律の数々が実に印象深くいつまでも心で眩く響き渡る、80年代USメロディアス・ロック愛好家なら必聴の一作と言えるでしょう。 当時は最新だったシンセのサプリングやSFチックなSEが今やとんでもなく古臭く、逆に新鮮に聴こえてしまうのはご愛敬だ(w ただ、ユーロ圏では本作は評価が高く好セールスを記録したものの米国ではBOSTONやKANSASのフォロワー・サウンドと否定的に捉えられて不評に終ってしまう。 確かにBOSTONやKANSASを思わすサウンドも聴こえるが、より洗練されたスムースでアーバンな雰囲気は両バンドからは余り感じられないし、もっとポピュラー・ミュージック寄りな感触のAORにも接近したメロディアスでキャッチーなサウンドだったのだが、一体本作の何がご不満だったのか評論家の方々は理解に苦しみます(´A`) 残念ながら Jeff Cannataは本作のみでこの路線を止め、ARC ANGELというバンド名も使用するのを止め、CANNATAとして以降長らく活動する事になってしまう訳ですね… 本作に招かれたミュージシャン達は誰もが素晴らしい仕事ぶりで2人を盛り立てており、もしARC ANGELのデヴュー作が成功を収めていたならばひょっとして参加していたセッションマンの誰かがパーマネント・メンバーとして招かれ、以降のミュージシャン人生も大きく変わっていたかもしれないと思うと残念で仕方がありません。 因みにギタリスト Jay Jesse JohnsonはCRYER解散後も Jeff Cannataのアルバム制作に関わっており、現在ではソロ・アルバムをリリースしつつブルーズ・ギタリストとして米国を中心に活躍を続けている。 面白いのは当時のメインストリーム・バンドの多くがそうだったからなのか、お手本バンドの多くがそうだったからなのか、Jeff Cannataがかなりハイトーン・ヴォーカルで歌っており、その後のアルバムはもっとミドルレンジ主体で彼本来の穏やかでスムースな味わい深い歌声を披露する事になるのですが、本作の時点では頑張って高いレンジの歌声を聴かせてくれており、その点だけとっても本作は彼の残してきたカタログ内でも異色の一作と言えるだろう。 まぁ、ARC ANGELのデヴュー作が不評だったのと経年でもう高い声が出ないので二度と本作の様な方向性のサウンドを創作しなくなってしまったのかもしれませんけど…出来る事ならばもう一度、本作のメチャクチャにキャッチーでコマーシャリズムが際立ったコンパクトサウンド作を聴かせて欲しいものであります。 近年になって再びARC ANGELとしてのアルバムをリリースするようには成りましたが、もうそこには Michael Soldanの名は無く、CANNATAと同じく Jeff Cannataのワンマン・プロジェクト・バンド(本人的にはCANNATAはプログレ、ARC ANGELはメロディアスロックと区別してる模様)となってしまったのでした…orz 今回追加されたボートラは以前にも収録された事のあるKING CRIMSONの”In The Court Of The Crimson King”のカヴァーを含む3曲がボーナス収録されており、リマスター効果でシャープでクリア、そしてパワフルに蘇った説明不要の傑作メロディアス作を是非ご自身の耳でお確かめください。 キャッチーな80年代USプログレ・ハード・バンド作やBOSTON、KANSAS、TOTO、ASIA等がお好きな方ならきっと気に入る事請け合いであります♪ (゚∀゚) Track List: 01. Stars 02. Tragedy 03. Wanted : Dead Or Alive 04. Used To Think I'd Never Fall In Love 05. Rock Me Tonight 06. Before The Storm 07. Sidelines 08. Confession 09. Just Another Romance 10. King Of The Mountain Bonus Tracks: 11.In The Court Of The Crimson King 12.Big Life 13.Space Oddity ARC ANGEL Line-Up: Jeff Cannata (Lead & Backing Vocals、Electric & Acoustic Guitars、Bass、Mellotron、Synthesizer、Drums) Michael Soldan (Keyboards & Backing Vocals) with: James Christian (Backing Vocals) Jeff Batter (Acoustic Piano) Robert Giannotti (Lead Guitars、Electric & Acoustic Guitars、Flute) Jeff Bova (Oberheim Electronics [OBX]) Doug Katsaros (Piano) Jay Rowe (Piano) Brent Diamond (Synthesizer) David Wolff (Synthesizer) Scott Spray (Bass、Bass Synthesizer) Jim Gregory (Bass) Chuck Brugi Ill (Bass) Hugh McDonald (Bass) Brian Wise (Guitar) Kevin Nugent (Guitar Solo on Tracks 1、3、7) David Coe (Electric & Acoustic Guitars) Jay Johnson (Lead & Rhythm Guitars、Guitar Solo on Tracks 10) Jay Jesse Johnson (Lead & Rhythm Guitars、Guitar Solo on Tracks 5、6) lennie Petze (Electric Harp on Track 8) Ron Bacchiocchi (Drum Programming on Track 1) Frank Simms (Backing Vocals) Tony Aiardo (Backing Vocals) Jayeanne Sartoretto (Backing Vocals) Produced & Arranged by Jeff Cannata #
by malilion
| 2023-09-23 17:55
| 音楽
|
Trackback
SLAM 「Same」'23 Yngwie Malmsteen Band脱退後、経済的問題から様々なHMバンドやプロジェクト等でその見事な歌声を披露していた頃の Jeff Scott Sotoが、カナディアンHRバンドHANOVER FIST、HANOVER、ヘア・メタルのBEAU NASTY、Lee Aaron、Rick Springfield等との仕事で知られるカナダ人ギタリスト George Bernhardtと1990年初頭に結成した幻のファンクHMバンドSLAMが1991年から1993年までに残したデモ、スタジオ・セッション音源等を、レコーディングから30年後に当時残されていたアナログ音源を全て掘り起こしてデジタル・データ化し、Jeff Scott Sotoと George Bernhardtの協力の元にリマスタリングを施してリイシュー専門レーベル 20th Century Musicが限定リリースした未発音源コンピレーション盤を即GET! 一時はJOURNEYのフロントマンも務め、今や人気実力共に米国HMシーンのトップヴォーカリストの一人にまで昇り詰めた感のあるアメリカ人シンガー Jeff Scott Sotoだが、それまでの道のりは御多分に漏れず長く険しいものであったのはHMファンな諸兄なら良くご存じな事と思う。 1984年のメジャーシーン・デヴューこそ時代の寵児 Yngwie Malmsteenに見いだされた華々しいものであったが早々に首を切られ、以降長きに渡って様々な世界中のプロジェクトやバンドに参加してきたUSロック界きっての超多忙ヴォーカリスト Jeff Scott Soto (現SONS OF APOLLO、ex:Yngwie Malmsteen Band、ex:EYES、ex:TALISMAN、ex:JOURNEY、ex:Axel Rudi Pell、etc…)が、TALISMANのデヴュー作リリースの後の空白期間、インディ・メロディアスHMバンド EYESでの活動もまだ軌道に乗らず暗中模索な90年代初頭、アンダーグラウンドを中心にグランジー・ブームがシーンを席捲しつつある中、メジャー・レーベルはヘア・メタルに代わるHMの次なるトレンドとしてファンク・メタルに注目し、EXTREME、DAN REED NETWORK、LIVING COLOUR、KINGOFTHEHILL、KING'S X等のバンドがマスコミに取り上げられ持て囃されていた事から、ファンクやPrinceの音楽をMIXし、そこへヘア・メタル要素を加えた前記のバンド達からの影響が色濃いファンク・メタル・バンドSLAMを Jeff Scott Sotoはギタリスト George Bernhardtとカリフォルニア州ロサンゼルスで結成する。 90年代初頭に録音されたものの長らく失われていた、正式リリースされなかったSLAMのセッション音源は、これまでにブート等を始め様々なメディアで広く出回っており、その名だけは Jeff Scott Sotoの活動を追っている熱心なファンなら何度か出くわす幻のバンドとして有名で、実際デモ曲の幾つかは Jeff Scott Sotoのファースト・ソロ作『Love Parade』'94 やTALISMANのアルバム『Humanimal』'94、そして Jeff Scott Sotoの5曲入EP『Believe In Me』'04 にもリメイク収録されていたので、ロサンゼルスを拠点に短期間だけ活動していたSLAMのラップも取り入れたファンキーでグルーヴィなそのサウンドの片鱗は伝わっていた知る人ぞ知るファンク・メタル・バンドでもありました。 今回の未発音源の殆どは古いカスタムの8トラック・レコーダーで制作されたデモテープが元になっているものの、当時ミキシング、プロデュース、エンジニアリングを担当した George Bernhardtの優れた作業手腕と適切に保管されていたマスター・テープの状態が良好だった為か今回のリイシューに際して行われたデジタル・リマスター作業によって正式リリース作と少しも遜色ない発掘音源に付き物なノイズや音ヨレ等が皆無な磨き抜かれた美しく瑞々しいファンキー&グルヴィー・サウンドへと生まれ変わっており、これまでブート等で彼等の非公式音源を入手していたマニアックなファンにこそ本作の高品質なオリジナル・サウンドを是非耳にして欲しい、当時のサウンドをそのままに何も足さず変えもせずリマスターしただけなのにクリーンでスムースな実に素晴らしい仕上がり具合に驚かされます。 Jeff Scott Sotoファンにはお馴染みなSLAMですが、一般的には無名な存在でありますので、まずは簡単なバイオから。 1990年にTALISMANはデヴュー作をリリースするが、その時点ではまだTALISMANの活動が継続する予定はなく、同時期に在籍していたEYESもまだアルバムは制作しておらず、Jeff Scott Sotoはバンド、プロジェクト、デモのガイドヴォーカル、サントラ等々で歌う様々なセッション活動を平行して行う事で糊口をしのいでいた。 結局、その後も中々経済的な問題は解決せず、HMからプログレ、ポップスにAOR、ファンク、果ては子供向けアニメのサントラ参加に至るまで、様々な音楽スタイルを器用に歌いこなす抜群の歌唱力を活かし、数え切れぬほどのバンドやプロジェクト、世界中の有名無名ミュージシャン達のセッション等に参加して生活の糧を得て来た結果、85枚以上(!?)のアルバムにその歌声を残す事になってしまうとは、この時の彼も流石に予想していなかったでしょうけどね…(汗 BEAU NASTYのメンバー達と親交のあった Jeff Scott Sotoは、唯一余り親しくなかった(笑)BEAU NASTYのギタリスト George Bernhardtの誘いで1990年に曲作りを始める。 最初は2人のプロジェクト体勢でデモ制作を進めるが、LIVE活動にはバンドが必要な為メンバーを補充し、ボストン出身のドラマー Mark Bistanyを加え、続いてコネチカット出身のギタリスト Craig Polivkaと彼の親友のベーシスト Chris McCarvillを迎え入れ、ツインギター編成5人組バンドとしてロサンゼルスで活動を開始。 すぐこのラインナップは崩壊し、コネチカットから来た2人が抜け、新たなギタリスト Gary Schuttと新ベーシスト Ricky Wolkingがバンドに加わる。 因みに脱退したベーシスト Chris McCarvillはその後、James Christian率いる再結成HOUSE OF LORDS(!)に加入し、現在はDOKKEN(!!)のベーシストを務めている。 Gary Schuttと音楽的な相違が発覚し、Gary Schuttは脱退し、以降シングルギター編成4人組バンドとして活動を継続。 ナイトクラブだけでなくロサンゼルス中のライヴハウスを巡り、あらゆる場所でプレイし、DAN REED NETWORKのオープニングも務め、コロラド州やユタ州でもプレイし、1991年、1992年の間にあちこちでショーケース・ギグを披露し、Princeとグラム・メタルを組み合わせ、Jeff Scott SotoのバックボーンであるファンクやR&B、ソウル、ラップ等の様々なテイストが渦巻くファンキーでダンサンブルなビートが詰め込まれた独創的なデモテープとキャッチーでリズミックなステージングで数々のレコード会社に向けプロモーションを行うもののシーン全てが恐ろしいスピードで移り変わっていた時期であった事もあって結局どこのレーベルとも契約を交わすに至らなかった… そうこうする1993年頃には誰も彼もがシアトルのグランジ・サウンドへ向かっていて、既にファンク・メタルのブームも終わりSLAMには全く居場所が無くなっていた。 レーベルはリスクや賭けに出たがらず、80年代の音楽性を受け継ぐメロディアスで華やかなバンド達は揃って『古臭い音楽』のバンドと烙印を押されてメジャー・レーベルから姿を消し、無限の可能性を秘めたユニークなバンドSLAMの活動も頓挫してしまう。 その後、メンバーは各自の道を歩き出し…と、いう90年代初頭にグランジーの煽りを受け解散したメロディアスUSバンドの典型的な流れでSLAMの歴史は幕を閉じる事に。 改めて本作のサウンドに耳を傾けると、ファンク・メタルと言うには少しメロディアスでキャッチー過ぎる(主に Jeff Scott Sotoの分厚く爽快なヴォーカルハーモニーのせいで)きらいはあるものの音楽形態的にリズム隊のプレイが大きく前に押しだされており、特に Ricky Wolkingのタイトでソリッド、ファンキーにブインブイン唸りを上げるチョッパー・ベース等が際立って良く聴こえるが、80年代ヘア・メタルの流れを汲むテクニカルでメロディアスなベースプレイもかなりの量フィーチャーされたゴージャスなイメージも強いので、後期TALISMANのサウンドにも通じるその多彩な音楽性にはゴリゴリのファンク・メタルという感触は弱いようにも思えます。 AORっポイ雰囲気のある Jeff Scott Sotoの絶品の歌唱力をしっとりと堪能できる楽曲なんかもあって、どちらかと言えば騒がしいファンク・メタルのイメージから外れる楽曲も数多く収録されているのが本音源が一筋縄でいかぬ複雑で味わい深いサウンドに聴こえる要因だろう。 サンバが飛び出してくるノリノリで陽気なダンサンブル曲はご愛敬♪ 無論、モロにラップ・ヴォーカル等がフイーチャーされた楽曲やメロディは殆ど無くリズムアプローチだけで構成されている楽曲等もあるのですが、やはり本バンドのもう一人の主人公であるギタリスト George Bernhardtのテクニカルでフラッシー、伸びやかで煌びやかな音数多いリード・プレイが大きく80年代風味を楽曲に与えており、そういった面からも90年代初頭に流行ったミクスチャー系の流れを汲むファンク・メタルとは微妙に毛色が違う、だからこそオリジナリティがあるのですが80年代メインストリームからのファンク・アプローチなサウンドといった範囲で収まる、強烈な冒険や実験を果敢に挑んだ新世代サウンドと呼べないのは確実で、この辺りは既にキャリアを築いていたミュージシャン主導のバンドなので仕方がないのですが、当時として考えればやはり隠しようもなく『古臭い』イメージが強く、結果的にメジャー・レーベルが手を出さなかったのも納得な方向性と言えるのではないでしょうか? まぁ、妙に当時流行りの音楽に阿って自身のバックボーンにある音楽性を全て捨てた巷に溢れかえるポーザーと化してオリジナリティの欠片も無い劣化コピー・サウンドを披露していたなら、今こうして再びデモ音源が正式リリースされる事もなかった訳で、Jeff Scott Sotoと George Bernhardtの強い信念が30年の時を経てこうして今日のSLAM音源リイシューへ繋がったのは間違いないですから、時流に安直に流され無様を晒さなかった2人の矜持と自らの音楽への揺るぎない信念を賞賛したいですね。 後は本作リイシューのインタビューで Jeff Scott Sotoが語っている今後の予定が気になります。 『残念ながら、このインタビューで話すには早すぎる。まだ話せない事が有るんだ。唯一言えるのは9月という事』 『俺が何を話しているのかハッキリ分かるはずだ。言ったように、話せないのは残念だ』 『でも、本当に、本当にクールな事なんだ。本当に誇りに思う。早く世界中の人に聴いてもらいたいし、見てもらいたい』 『SONS OF APOLLOとは違う。僕にとっては全く新しいものなんだ。聞く所によると、来年は世界中で爆発するらしい』 『だから、俺達はこのプロジェクトに全力で取り組んでいて、このプロジェクトの為に来年は色々な事を断ろうと思っているんだ』 『9月までに、これが何であるか発表され、音楽とビデオがリリースされるのと同じ日にリリースされる予定だ』 『全てが実現するんだ。誰もこの事を知らない。おっと、もう言い過ぎた』 SLAMの再結成は無い、と断言しているので George Bernhardtと再び新たなバンドを立ち上げるのか、それとも全くロスの人脈と関係ない新バンドなのか、このタイミングで Jeff Scott Sotoが自身で嬉しそうにリークしてきたのが気になります(w とまれ Jeff Scott Sotoファンな方や80年代のバブリーなヘア・メタル好きな方、90年代初頭のファンク・メタル、そして既述したバンドのファンな方なんかにもお薦めな、ファンキーでノリノリの本作のグルーヴィー・サウンドを是非一度チェックしてみて下さい。 15曲のオリジナル・ナンバーの中には、カナダのSKYLARKによるビルボード・トップ5シングル『Wildflower』の素晴らしいカヴァーも含まれている。 ストリーミングやデジタル・ダウンロードのオプションを好む人のために、アルバムは全てのストリーミング・プラットフォームで5月12日にリリースされ、LP愛好家の為には2023年夏の終わりにダブル・ヴァイナルとして発売される予定だ。 Track Listing: 01. Love Parade 02. Body Language 03. Lonely Shade Of Blue 04. What U Want It 05. Wastin' Our Time 06. Dear God 07. Candy 08. Dance The Body Elektrik 09. Funk Me 10. 4 U 11. B-Jam 12. Wildflower 13. People 14. Y U Doggin' 15. Monogamy & Lust 16. Everybody Want What They Can't Have SLAM Line-up: Jeff Scott Soto (Lead Vocals) George Bernhardt (Guitars) Ricky Wolking (Bass) Mark Bistany (Drums & Percussion) Former Personnel: Craig Polivka (Guitars) Chris McCarvill (Bass) Gary Schutt (Guitars) #
by malilion
| 2023-09-19 19:52
| 音楽
|
Trackback
|
カレンダー
カテゴリ
以前の記事
2023年 12月 2023年 11月 2023年 10月 2023年 09月 2023年 08月 2023年 07月 2023年 06月 2023年 05月 2023年 04月 2023年 03月 more... お気に入りブログ
最新のコメント
メモ帳
検索
最新の記事
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧
|
ファン申請 |
||