REBEL KINGS 「Enchantress」'23 今年5月にデジタルで先行リリースされ、10月にフィジカル盤も遅れてリリースされていたイングランド北西部 Lancashire州を拠点に活動する初期TEN、初期DARE風なキーボード入り5人組英国メロディアス・ロックバンドのデヴュー作をご紹介。 重苦しい暗雲が立ち込めた寒々しいジャケット・アートや〝REBEL KINGS = 反逆の王達”というバンド名から連想される『デス系? ブラックメタル? それとも勇壮なバイキングメタル?』という予想を裏切ってアルバムから飛び出して来たのは、AOR寄りのしごくベーシックで王道な80~90年代初期風の英国産メロディアス・ロックサウンドで驚かされたが、元THIN LIZZYのキーボーディスト Darren Wharton率いる英国メロハー・バンドDAREのデヴュー時メンバーであったドラマー James Rossが本バンドに参加しているのみで他のメンバー全員シーンのベテランらしいが、これといった有名バンドに参加してきた経歴は無い殆ど無名と言っていい新人インディ・バンドだ。 一聴して連想するのはキーボードが印象的なフレーズで楽曲を主導する所などDAREっぽく、ミドルレンジ主体でシャウトせず浪々と歌い上げるディープ・ヴォイス系シンガーの声質や歌い方がTENのシンガー Gary Hughesを強く思わせ、英国風味ある叙情的メロディ、無駄なヘヴィさも無く速さやトリックに頼らない正統派な楽曲、80~90年代初期風のストレートなクラシック・ロックとメロディアス・ロック、そしてAOR要素をMIXさせ、所々にプログレッシヴなタッチの楽曲展開を効かせた、オールドスクールでありながら同時に現代的でモダンなロック・サウンドを紡いでいる、勢いやノリ重視でない手堅く普遍的で幅広い聴衆に受け入れられ易い、新人バンド作にしては渋く安定感あるサウンドと言えるだろう。 実際それなりにキャリアあるミュージシャン集団なのだろうし、そういう安定志向や人脈の影響でか本作は自主制作盤ではなく英国Nightmare Recordsからのリリースとなった訳だが、折角のデヴュー作故もう少し冒険というか個性的な実験や試みをしても良かったように思います。 後はDAREやTENっぽさを感じるサウンドなのにケルトフレーバーがないのが独自性と言えばそうかもしれないが、後発バンドなのに引き算で個性は余り生まれないんじゃないかと… それ以外にも無視出来ぬ大きな問題点が実はあって、シンガーの歌唱力に些か問題があり Gary Hughesより実は音域は広い歌声を披露しているもののどうにも歌メロがイマサンなのと随所でメロディを歌いきれていない危なっかしい場面が散見し、如何にもインディ・バンドというレベルのヴォーカル・スキルなのが声質自体は悪くないのにちょっと勿体ない…('A`) アノ手コノ手でリリカルな雰囲気を紡ぎ出す印象的で華やかな音色を響かせるキーボード主導な楽曲も総じてメロディの扇動力が弱く盛り上がりに欠け、耳を惹きつける劇的な展開ももう一つと凡庸な印象は覆し難く、また些かアレンジや楽曲展開が類型的過ぎ、さらに特に下手でもないし楽曲をスポイルする事なく即したプレイで手堅い印象なのは良いけれどギター・リフやソロ等が余り印象に残らぬのも大きなマイナスポイントでそこは早急に改善するべき点だ。 尚、本作リリース後にギタリストがチェンジしている模様なので、ギターの存在感やプレイに関しての問題は次作でアッサリ解決されるかもしれない。期待して待とう。 なんて言うか、本作を聴いて近作の出来に不満タラタラだったTENのアルバムの方がメロディの質の高さ、ヴォーカルの歌唱力と表現力、そして英国風味ある美旋律の数々が素晴らしく、アルバムの仕上がり具合の良さに改めて気づかされた次第でして…ゴメンよ、Gary Hughes(汗 とは言え何もかも全てがフォロワー臭いのかと言うとそうでは無く、キャッチーでブライトな雰囲気ある楽曲やワイルドでパワフルな勢いあるヴォーカルが炸裂する縦乗りロックンロール風味ある楽曲のブライトなタッチはTENと言うより初期DAREに近いイメージで、スケール感あるサウンドを演出しようとするキーボード・サウンドやミステリアスなシンセが活躍しない楽曲の方がより独自性を感じさせ、その路線のサウンド要素を強めればDAREでもないTENでもない彼等だけのオリジナルで唯一無二なバンドサウンドが構築出来そうで期待してしまいます。 まぁ、終始鍵盤奏者 Ian Schofieldが紡ぐピアノやシンセの美旋律が楽曲を主導し本作のサウンドに気品と艶やかさを生み出しているのは紛れもない事実なので、中々そっち路線へ進化するのは難しいのかもしれませんけど… まだまだ粗削りで野暮ったいが終始英国らしい叙情感ある旋律と魅力的な展開を紡ごうと心血を注いでいるのは十分に伝わってくるので、この路線のままヴォーカルの歌唱力共々バンドの演奏力も研鑽を詰んで洗練さを増した新作を是非とも届けて欲しいものであります。 Track listing: 01. Senshi 02. The Warrior 03. Beautiful Nightmare 04. Where Have You Gone 05. Shine On Me 06. The Scarlet To The Black 07. Garnets Rainbows & Tears 08. The Enchantress 09. Tear Me Apart 10. Guns A Blazin 11. Destiny REBEL KINGS Line-Up: Gaz King (Vocals) Nick Kariotis (Guitars、2023-Present) Ian Schofield (Keyboards) Bill Thomas (Bass) James Ross (Drums) With: Lee Pickett (Guitars、?-2023) #
by malilion
| 2023-11-12 16:20
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NITRATE 「Feel The Heat」'23 英国Nottinghamを拠点に活動するミュージシャン Nick Hogg (Bass & Keyboards)が2015年に結成したキーボード入りツインギター6人組メロハー・バンドが、前作『Renegade』から約2年ぶりに4thアルバムをリリースしたので即GET! これまではアルバム毎にシンガーを変えてきた Nick Hoggだが、本作は初めて前作に引き続きフロントマンに Alexander Strandell (ART NATION、CROWNE)を据え、さらに前作からプロジェクト初期からの相棒 Rob Wylde (MIDNITE CITY、TIGERTAILZ、TEENAGE CASKET COMPANY)に代わり新たな相棒となった元VEGAの Tom & JamesのMartin兄弟も引き続き参加と、これまで本プロジェクトに参加するミュージシャンが欧米を股にかけて多岐に渡っていた訳だが初めて中核メンバーを固定しての作品となった注目作だ。 デヴュー作、2ndと Nick Hoggが影響を受けて来たであろうBON JOVI、JOURNEY、BAD ENGLISH、DEF LEPPARD、MOTLEY CRUE、EUROPE等の80年代ヘア・メタルをはじめ80年代にチャートを賑わしたアリーナ・ロックや80年代産業ロックの特徴であるキャッチーでフックあるサウンドが4割り、残り6割りを欧州らしい哀愁感と透明感を湛えたウェットなメロディや英国バンドらしい叙情感あるアレンジ等の要素を上手くMIXした、ブリティッシュ・バンドらしいエッジも保ちつつ派手さ抑え目の聴き心地抜群なメロハー・サウンドであったが、前作でシンガー Alexander Strandellが持ち込んだであろう叙情感と透明感ある北欧テイストや楽曲創作の中核を成す Tom & JamesのMartin兄弟が持ち込んだアーバンテイストなAOR要素が強くサウンドに反映された80年代風サウンドから一歩進んだモダンなタッチが活かされたメロディアス・サウンドへ進化した姿を提示した訳だが、モダンでスムースな洒落たAORタッチはそのままに前作で示したモダン化に逆行するかのように80年代テイストを強めた初期の作風が強く感じられるメロディアスなアルバムとなっている。 無論、単なる原点回帰作ではなく、昨今流行りのシンセウェヴ風な80年代UKポップを思わすメカニカルで華やかなシンセ・ワーク等も随所で活かされており、前作と同一路線ながらUSA要素に加える6割りの英国要素の中身が80年代UKポップ等へ変わり、さらに北欧テイストが幾分か弱まった、基本スタンスは変化させずアレンジや表現するサウンドのタッチを絶妙に変化させただけ、とも捉える事が出来ると思うので初期の作風や前作が気に入っていた方でもきっと満面の笑みを浮かべる事だろう、これまで同様に80年代的アリーナ・ロック志向な細部までバランスを考慮し練り上げられた極上のメロハー作に仕上がっているように思う。 この手の特に奇をてらった驚きの要素や最先端のモダンサウンドでない、ベーシックで王道なメロディアス作となると楽曲の出来具合やサウンドのマンネリ化が心配される訳だが、本プロジェクトはこれまで頻繁に参加ミュージシャンをチェンジする事で音楽性の新鮮味を保っているのでマンネリ化について問題は一切無く、後は楽曲の出来具合のみが注目点と成る訳だが Nick Hoggをはじめ Tom & JamesのMartin兄弟、そしてシンガー Alexander Strandellのバックグラウンドである80年代メジャー・アクト達の披露してきた楽曲にも決して引けを取らぬ、ゴージャス且つキャッチーでフックある美旋律と洒落たアレンジが効いたコンパクトでブライトな素晴らしい楽曲ばかりでアルバムが埋め尽くされているのを、本作のスタイリッシュな高品質サウンドを耳にした方ならば誰にでも納得して頂けるに違いない。 また、初期の相棒 Rob Wyldeも本作の楽曲制作に加わっており、さらに前作のデモ・ヴォーカルを務めた James Martinの奥方 Issaが本作では Alexander Strandellとデュエットを披露するなど初めてその美声を聴く事が出来るだけでなく、前作からFrontiers Recordsと契約した事から同レーベルを中心に表に裏にと八面六臂の活躍をしているワーカホリック・イタ公(笑) Alessandro Del Vecchioがマスタリングを手掛けていた縁で彼がバッキングヴォーカルで全面的に参加していたが、本作のバッキングヴォーカルには元DANGER DANGERで現在はTHE DEFIANTSのフロントマンとして活躍している Paul Laineが参加と、メロディアス愛好家ならニンマリしてしまうメンツが参加しているのも見逃せぬポイントだ。 Nick Hoggを筆頭にコア・メンバーは継続して参加しているのはお伝えしたが、本作から無名のリードギタリスト Richard Jacquesが迎えいれられ、ラップバンドやジャズ、クロスオーバー・エレクトロ・ポップなど無数のセッションやプロジェクトに参加してきた英国人マルチ・インストゥルメンタリストで、前作でキーボードやギターもプレイしミックスも手掛けてサウンドのモダン化に一役買ったドラマー Mikey Wilsonが姿を消し、代わって以前ここでアルバムを紹介したブリティッシュHRバンドDEVILFIREを率いる元HANGING DOLLSのドラマーであり、SHY、Spike Of The QUIREBOYS、GINGER等のアーティスト達のプロデュースも務めて来た英国人ベテラン・ミュージシャンでシンガーの Alex Cooperが本作からドラムを叩いており、デヴュー作からアンダーグラウンドで活動を続ける英国ミュージシャンを中心に参加させるスタンスに変わりはないようで、この手のプロジェクトを簡単に売ろうと有名ミュージシャンを安直に参加させる愚策を犯していない点でも安心でき、英国人 Nick Hoggの矜持を感じるバンド・プロジェクトと言えよう。 ちょっと心配になってくるのはNITRATEが余りに素晴らしいアルバムをリリースしたので、本作で伸びやかで透明感ある見事なハイトーン・ヴォーカルを聴かせる Alexander Strandellがこのままこっちに軸足置いたらどうしよう、ART NATIONは開店休業みたいな状況になり易いしなぁ、とか勝手な事を考えてしまいます(汗 HR風味が強いメロハー・サウンドがお好きな方には本作は少々軽めであっさりしたポップス要素やAORテイストを強く感じてお気に召さないかもしれませんが、キャッチーでフックあるメロディアス・サウンドの仕上がり具合は前作以上に優れているのは疑いの余地がありませんので、あと一歩でA級に迫る勢いな彼等の新作のサウンドを是非一度ご自身の耳で確かめてみてください。 Track List: 01. Feel the Heat 02. All the Right Moves 03. Wild in the City 04. Needs a Little Love 05. One Kiss (To Save My Heart) (featuring Issa) 06. Live Fast, Die Young 07. Haven't Got Time For Heartache 08. Satellite 09. Strike Like a Hurricane 10. Big Time 11. Stay 12.One Kiss (Acoustic Version = Bonus Track for Japan) NITRATE Musiciens: Nick Hogg (Bass Guitar) Alexander Strandell (Lead Vocals) Tom Martin (Rhythm Guitars) James Martin (Keyboards) Alex Cooper (Drums) Richard Jacques (Lead Guitars) Produced By Tom & James Martin Mixed By Tom & James Martin P.S. サイバーなイメージのアルバムジャケットのデザインが本プロジェクトの基本イメージな模様ですが、正式採用されたアルバムジャケは少々暗めな彩色にされており、一時期新作情報でインフォされていた時の明る目なアメコミ風の色合いでも良かったのにな、とは個人的には思います。 またSpotify等の配信用画像でメチャ Alexander Strandellがイケメンで中心人物のように表現されているのを見て爆笑してしまいました。 イヤ、フロントマンだしシンガーだからピックアップされるのは不自然じゃないんですけど、余りにボーイズグループみたいなキメ顔だったんで(w #
by malilion
| 2023-11-07 15:34
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![]() 80年代英国ポンプ・ムーヴメントを代表するバンドの1つであるTWELFTH NIGHTのオリジナルメンバーで2014年に脱退した Clive Mitten (Bass、Keyboards、Classical Guitar)の3ndソロ・アルバムが去年年末に2枚組CD-Rで自主盤リリースされたのを今頃遅れてご紹介。 TWELFTH NIGHTの元ベーシストである Clive Mittenが遂に本格的なクラシック音楽作品をリリース、というインフォを見た時は前ソロ作『Tales From A Misspent Youth - Volume 1』'22 のプログレッシヴ・ロック界を代表するバンドやアーティスト達の名曲の数々を完全なオーケストラ・スタイルで美しく解釈し直したカヴァー・アルバムの方向性からも、近い将来クラッシック音楽のリアレンジ作をリリースするのではと予想していましたが、思いの他に早く本作が届けられ驚きました。 今回は、バッハ、モーツァルト、シューベルト、ハイドン等のクラッシック音楽に詳しくない方でも一度はその名を耳にした事があるだろうメジャーな音楽家で主に古典派と呼ばれる作曲家達の作品を自身の手によってリアレンジした楽曲が、プログラミングと2台のピアノ(Garritan Yamaha CFX Concert Grand、Synthology Ivory II Italian Grand)、時折ミニモーグも駆使した演奏によって、原曲の良さを生かしつつもピアノの魅力を最大限に追求した『ピアノ協奏曲』へと曲想を変化させた音楽性が特徴で、ロックからは離れた内容ながらも彼のアレンジ能力と技巧的なプレイが遺憾なく発揮された作品となっており、シンフォニック作がお好きな方ならば一聴の価値はあるかと存じます。 ただ、前ソロ作の時にも感じていたのですがプログラミングの弊害かリズムの緩急が弱く単調で無機質な印象は拭い難く、ピアノの小気味よく軽快で艶やかな音色は終始心地よいものの、私にクラッシック音楽の教養が足りていないからなのは重々承知なのですが通して聴く(しかも二枚組!)には些か苦痛で、音の揺らぎや響きの深みといった観点から見ると大きく魅力の欠けた作品のように思えますね・・・ウーン 前作のその辺りの問題が気になって購入を後回しにしまくっていて入手が今頃になったのは内緒だ(汗 技巧的な問題やプロフダクションに問題がある訳ではないし、英国情緒薫るクラシカルな音色の数々はスーパーマーケットのBGMにまで成り下がってはいないけれど、やっぱり単調で聴いていて辛いデス…orz しっかりしたバジェットを得てフルオーケストラで迫力満点の重厚な録音を行っていれば私が感じている不満点は殆ど解消されるのでしょうが、独力で全で制作している自主盤だし、そもそもオーケストラでの生演奏リアレンジ作だったらこれまでに山程数々の音楽家が作品をリリースしてきた訳で、打ち込み利用の小規模作と比べるべきではないし本作の意味も無くなってしまいますから、本作はこの路線を選択した事が独創性ある事なのでしょう。 とまれピアノ大活躍のクラシカルなオーケストレーション・サウンドがお好きな方や元曲の作家のファンな方は本作のアレンジ具合を楽しめるでしょうからご興味あるようでしたら一度チェックしてみて下さい。 #
by malilion
| 2023-11-06 10:45
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FOREVER TWELVE 「Neighborhood Of Spirits」'23 前作『Home』'17 から6年ぶりの新作となった米国カルフォルニア州ロサンゼルスを拠点に活動するキーボード入り4人組USシンフォ・バンドの5thアルバムがリリースされたので即GET! 7年ぶりの新作となった前作は、それまでフロントを務めてきたフィメール・ヴォーカリスト Cat Ellen嬢からYESへの憧憬を隠さぬサウンドを聴かせたUSAプログレ・バンドMARS HOLLOWに在籍し、他にもコマーシャルやドラマへの楽曲提供、数多くのソングライターのデモのエンジニアリングもこなす John Baker (2KX、etc...)を新たなフロントマンへと招き、ベーシスト不在でオリジナル・ギタリストでリーダーの Tom Grahamがベースも兼ねる専任ベーシスト不在の4人組編成で制作されていたが、久しぶりの新作となる本作でも引き続き専任ベーシストは招かれておらず前作同様 Tom Grahamがベースも兼ねる4人編成で制作されている。 メンバーチェンジが数多く起こるのがプログレ・バンドの常で本バンドもその例に漏れないのだが、残念ながら本作から長らくドラマーを務めオリジナル・メンバーでもあった Fernando Martinezが抜け、代わってMARS HOLLOWの元ドラマーであった Robert Craft (ex:UNDER THE SUN、ex:MAGELLAN'S GHOST、etc...)が新ドラマーとして迎え入れられた新編成で初となるアルバムでもあります。 元々YES系フォロワー・バンドであったが、フィメール・ヴォーカリストの歌声と穏やかなシンフォ系のサウンドなのも幸いしてYES臭をそれ程強く感じさせていなかったのに前作から男性フロントマンになりサウンドにロック的なパワフルさとダイナミクスが加えられた事によって一気に米国に多い典型的YESフォロワー・インディ・シンフォ・バンドになり旧来からのファンにとってバンド復活は嬉しいけれど痛し痒しだったかもしれないが、久しぶりの本作ではそういった露骨なフォロワー臭は随分と弱まり、MARS HOLLOWで聴かせた歌声以上にYES寄りな歌唱スタイルで中性的な声質のハイトーンと分厚い多重コーラスを一人でこなしていた John Bakerのヴォーカル・アプローチにも明確な変化が今回は見て取れ、無理にハイトーンを張り上げる事は無くなり、爽快なYES風コーラスも止め、ミドルレンジ主体でよりエモーショナルで気怠げな雰囲気あるロートンも多用する、YESでもないMARS HOLLOWでもない、FOREVER TWELVEにアジャストしたオリジナルな歌声と歌唱スタイルを披露し、2002年アルバム・デヴュー以来ずっと感じて来たYES系フォロワーな臭気をキャリア30年超えにしてやっと完全に払拭する事に成功している。 とは言えサウンドの根幹にはYESの影響が脈々と受け継がれているのはプログレ・ファンならばすぐ気が付くだろうが彼等は70年代よりも80年代の影響が強く、MARILLION、CLEPSYDRA、FLAMBOROUGH HEAD等の近年のシンフォ系バンドもチラつくモダン・サウンドが特徴で、USAシンフォ・バンドらしいスピード感と、テクニカルでエモーショナルなギターと繊細で華麗な音色を響かせるキーボードが絡み合いながら屈折した意表を突く展開を見せる複雑な構成の楽曲、そして妙なヘヴィさの無いアメリカ産らしい抜けの良い透明感あるクリアサウンドを披露しつつ、今回は特にPINK FLOYDやGENESISを思わす奇妙な浮遊感あるメロディやミステリアスな雰囲気が全編に色濃く漂っていて、米国産バンドらしからぬリリカルな響きと哀愁も醸し出しながら、メランコリックで伸びやかな歌メロがふんわりと全てを包み込んで駆け抜けていく、大雑把に言って英米折衷モダン・シンフォ・スタイルなサウンドながら英国風味の方が強めな印象に仕上げられており、どちらかと言えばユーロ系シンフォ・バンドを好むファンに強く訴求する新スタイルを提示していると言っていいだろう。 ギターとベースが複雑に絡み合いアグレッシヴなメロディとハーモニーを奏で、ドラムは変拍子も交えて忙しなくビートを叩き出し、Steve Howeを思わす引っ掛かりのある線の細く甲高いトーンのギターやメロディアスなヴォーカル、華やかなシンセワーク等に未だにYESの影響が色濃く感じられるが、繊細でより深みあるリリカルなユーロ系バンド風の艶やかな音色とメランコリックで柔和な旋律で全編が埋め尽くされている点がこれまでとは決定的に違う点で、前作での米国バンドが演るYESフォロワー・サウンドに対するモダン・アプローチな分かり易くキャッチーな方向性が気に入っていた方からすると少々残念な方向へ進化したかもしれないですが、よりバンドとしてオリジナリィを増し、完成度と創作性を上げ独自のスタイルを構築した本作での彼等の哀愁漂う翳りある新路線サウンドを個人的には歓迎したいですね。 前作ではリードヴォーカルとして求められる仕事を精一杯こなしYESカラーを強める役割を果たした John Bakerですが、本作ではよりバンドに馴染んだのか細かな音像の細工や音響加工等のエンジニアリング面で大きくサウンドを革新させるのに尽力しており、前作時点ではギタリストとして今後貢献するのかも、と述べていましたが全く別アプローチで新たなクリエイティヴィティをもたらしているのと、他の活動でギタリストとしての能力は発揮しているからか本バンドではあくまでシンガーというスタンスで参加している為なのか、リーダー Tom Grahamに演奏面は全て委ねているからなのかギター等楽器は一切演奏していない模様だ。 まぁ、John Bakerはベースもプレイ出来るのでLIVEでは彼がベースを弾いているのかもしれないケド、まだLIVEの様子を見た事がないので分からない。 モダン・シンフォ系ではありますがプログHM系とは距離感あるサウンドなので一聴すると刺激と派手さに乏しく感じるかもしれないが、聴けば聴く程に奏でられる旋律の豊かな深みと陰影が生み出す美しさ、そして隠されたトリックやお遊び等いくつもの楽しさや驚きを発見させてくれ、妙な癖の強さやプログレお得意の難解さは無いので聴き易いが決して凡庸ではなくイージーリスニングにも成り得ない、インディ作ながら現代的でモダンな高品質な音像で構成された、シンフォ&プログレッシヴ・ロック歴の長いリスナーな方程に気に入るだろうお薦めな一作であります(*´ω` *) 因みにアルバム・ジャケットは John Bakerの奥方 Lisa LaRue-Bakerがデザインしている。 Track List: 01. Mankind 02. August In September 03. Eight Billion Heartbeats 04. New Man 05. Neighborhood Of Spirits 06. Peaceful Planet 07. A Thousand Men FOREVER TWELVE Line-Up: John Baker (Lead Vocals) Steve Barberic (Keyboards) Tom Graham (Guitars、Keyboards、Bass、Imaginetion & Delirium) Robert Craft (Drums) Produced by FOREVER TWELVE Mixed & by Tom Graham & John Baker Mastered by John Baker #
by malilion
| 2023-10-26 17:47
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先日、ステージで体調不良を訴えLIVEを中止していたBUCK-TICKの櫻井敦司が亡くなった。57歳だった。 ていうか、新譜をコンスタンスにリリースし忠誠心の高いファンベースを地盤に今なお盛んに活動続行中だったBUCK-TICKが…あぁ… 80年代のトンがったバンドの象徴的存在だったのも今は昔の話だし、最近のロック・ファンには馴染みの薄いバンドかもしれないけれど、あの髪の毛を逆立てた出で立ちはデヴュー当時非常にセンセーショナルで彼等の音楽を知らない人でもあの姿は誰でも知っていたくらい知名度があったバンドなんですよねぇ… 今夜はBUCK-TICKのアルバムを引っ張り出して聴いてみますかね…最近、旧譜が一斉にリマスターされ再発されてたのをちょこちょこ買い直してたけど、こんな風にもう一度耳を傾けたくはなかったなぁ… #
by malilion
| 2023-10-24 15:56
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