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70年代プログレと80年代ポンプをMIXしてモダンに進化させた英国シンフォ・ロックバンドが屈折十数年を経て遂にデヴュー・アルバムをリリース!!

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ZEN ORCHESTRA 「Same」'25

80年代後半に結成され英国London北部に位置する都市Lutonを拠点に活動し1994年に唯一作『No Margin For Error』を米国CYCLOPSレーベルからリリースしているマイナー・UKポンプ・ロック・バンド WALKING ON ICEのオリジナル・メンバーであったキーボーディストの Steve Smithとシンガーの Mark Barrettが中心となって結成されたキーボード入り5人組英国シンフォ・ロックバンドZEN ORCHESTRAの自主制作デヴュー・アルバムがリリースされたのを少々遅れてGETしたのでご紹介。

WALKING ON ICEのアルバムについては以前ここで紹介したので興味がある方はそちらをどうぞ。

と、言ってもキーボーディスト Steve Smithとドラマー Pete Salが1991年にWALKING ON ICEを脱退し、続いてシンガーの Mark Barrettも1992年頃に脱退とWALKING ON ICEのデヴュー作に全く関わっておらず、僅かに1990年のDEMOテープ『More Than Heaven』と『Whitehall Warrior』にその痕跡を残すのみで、その後2人はZEN ORCHESTRAなる新バンドを立ち上げ、ベースの Stewart Milnerとドラマー Steve Rixのリズム隊も加入するとレコーディング・セッションを続け、1996年に一度レコード契約の話が持ち上がるが成立に至らず、メンバーはキャリアと家庭生活という現実的課題に取り組む為にバンドは無期限休止状態となり、その後も目立ったバンド参加歴も無く、英国アンダーグラウンド・シーンに精通している余程のプログレ・マニアでもなければ知る人も居ない殆ど無名なミュージシャン達でありました。

それから18年の年月が流れた2014年半ば、Steve Smithがソロ・プロジェクトの準備を進めていた中で新曲の納められたデモCDを長年の友人である Mark Barrettに聴かせた事から一気に事態は加速し、Mark Barrettの熱意に押される形で2人はZEN ORCHESTRAを再始動させ、リズム隊の2人にも連絡を取るとバンド再加入を快諾し、最後の最後にギタリスト James Stephensonが加入すると Steve Smithと Mark Barrettは新曲の創作へ取り組みつつ以前の既存曲をリメイクするなどアルバム制作は順調に進み、一つタイミングを間違えれば二度と陽の目を見る事がなかったかもしれぬ記念すべき彼等のデヴュー・アルバムがバンド結成の1992年から33年の時を経て遂に我々の元へ届けられたのを素直に祝いたい。

さて、本作の内容についてだが、FROST*をはじめ20年代以降の最新テクノロジーを用いた従来のプログレ的音像から逸脱したデジタリーなモダン・テクニカル系バンド達を連想させるソリッド・サウンドに、初期MARILLION、IQの影響をはじめとするポンプ勢へのリスペクトを随所に垣間見せつつ、80年代のポップスへ傾倒したGENESIS風な明朗で親しみやすいキャッチーさやゆったりしたサントラ風のパノラマチックな壮大さ、英国らしい叙情と気品香るドラマティックな美旋律、そして複雑で奥行きあるシンフォニック・サウンドを21世紀センスで巧みにMIXさせプログレッシヴ・ロック的な音楽形態を志向する、PART ONE& PART TWOの二部に構成された古のプログレ大作を思わすコンセプト・アルバムだ。

残念ながら私はWALKING ON ICEのアルバムしか所持しておらず2人が在籍中の80年代に唸りを上げた英国ポンプ・シーンが衰退し消滅する寸前のWALKING ON ICEがどんなサウンドだったか不明ながら少なくとも本作にその面影は皆無と言え、僅かに鍵盤類の音色にその名残が感じられる程度で、考えてみれば彼等が脱退し数年経過してWALKING ON ICEはアルバムをリリースしたのだし、WALKING ON ICEの独特なバナキュラー・テイストの多くをギタリスト Justin Sabanが担っていたのだしMARILLIONっぽいプレイを聴かせたキーボーディスト Jez Newtonも居ないのだからそれも当然の帰結だろう。

複雑で手の込んだアレンジの施された長めの楽曲で構成されたアルバムは、軽やかに眩しく煌めくシンセ、英国プログレ然とした唸りを上げるダイナミックなオルガン、お約束の幽玄なメロトロン、時に幻惑的で時に優美で甘やかなストリングス、叙情感よりもキャッチーさを強調したメインストリーム寄リのエレピやリリカルなハープシコード等、中心人物が鍵盤奏者なのも納得の多種多様でリッチなキーボード・ワークが最初から最後まで堪能でき、加えてハード且つエモーショナルなギター・ワークや感染力のあるパワフルなリフ、繊細なアコギも交えつつ、フレットレス・ベースの柔らかな響きとスリリングな変拍子も刻むタイトなドラムスがボトム・サウンドを様々に彩り、お世辞にも音域が広く上手いとは言えぬが味のある Billy Sherwoodっぽいハートフルなヴォーカルが刻々と変化し様々な表情を見せる楽曲を巧みに導き、叙情的でドラマチックなシンフォニック・サウンドを勢いと上昇感あるカタルシスへ誘っていく…

無名ながら30年以上の音楽キャリアを誇るベテラン・ミュージシャンならではの熟練した演奏と緻密な構成力は素晴らしく、バックのハイレベルなサウンドに比べヴォーカル・スキル(経年で音域が狭まった?)だけは些か難があるのは否めないが、それ以外はインディ・バンドの自主制作盤に有り勝ちな隙や不備を全く感じさせぬ歴戦の猛者を彷彿とさせる風格を漂わす充実の仕上がり具合な良作と言えましょう。

とびっきり個性的でもないしプログレ的な革新性や独創性がある訳ではないが、70年代プログレ・サウンドを今風へモダン化させポンプ出身メンバー中心のバンドらしいキャッチーさが感じられるゆったりした英国風サウンドは所謂シンフォ愛好家に好まれるだろう作風なのは間違いない。

また英国バンドらしくファンタジックな態を装いつつシニカルな切り口やペシミスティックな心情なんかも伺え、アルバムを通して複雑なテーマを扱いながらイデオロギー的に多様性に富み、現代社会の問題点を提起するシリアスな視点やエレガントな歌詞も実にプログレチックで大変宜しいですね (*´ω`*)

尚、本作制作中の2023年3月、シングル『Circles』がリリースされる直前に長年バンドに関わってきたベーシストの Stewart Milnerが突然亡くなった事はバンドにとって本当に辛い出来事で大きな痛手であったが運良く素晴らしい人材に巡り会え、未収録であった残されたベース・パートは TWINSPIRITS、MISTHERIA、NATURAL BORN MACHINE、VIVALDI METAL PROJECT等の他にも多種多様なバンドやプロジェクトへ参加し、近年は勢力的なソロ活動も続けているイタリア人技巧派ベーシスト Alberto Rigoni が招かれ素晴らしい演奏を披露し故人へのリスペクトを捧げている。

デヴュー・アルバムをリリースするまでに長きに渡る時間と様々な艱難辛苦を乗り越えた彼等、メンバー各自かなりの高齢なのは如何ともし難いが願わくば一度きりのアルバム・リリースではない事を祈るばかりだ。

Track List:
Part One:
01. Minds
02. Faces
03. Time

Part Two:
04. Billionaires
05. Circles
06. Heartless
07. Coda

ZEN ORCHESTRA are:
Mark Barrett : Vocals
Steve Smith : Keyboards
Stewart Milner : Basses
Steve Rix : Drums
James Stephenson : Guitars

Soundscapes、Additional Guitar & Bass : Mark Barrett

With
Alberto Rigoni : Bass
Bass on Tracks 02、03、04、06、07

Charley Foskett : Additional Acoustic Guitar on Track 02
Dan Warwick : Fretless Bass on Track 02

Music & Lyrics by Mark Barrett and Steve Smith
Arranged & Produced by Mark Barrett and Steve Smith
Mixed and Mastered by Mark Barrett

by malilion | 2025-10-04 18:47 | 音楽 | Trackback
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