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ドイツのシンフォ・バンドEVERONが前作から16年振りとなる待望の8thアルバムをリリース!!

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EVERON 「Shells」'25

ドイツのノルトライン=ヴェストファーレン州西端の都市 クレーフェルトで1988年に結成されたキーボード入り4人組シンフォ・バンドEVERONが前作『North』'08 から16年振りとなる待望の8thアルバムをリリースしたのを即GET!!

オランダのポンプ総本山レーベル SIミュージックから1993年にデヴュー作『Paradoxes』をリリースし、最初HR風味も加味した軽やかなキーボードと伸びやかなヴォーカル主導の、RUSH、SAGA、PALLAS等からの影響を感じさせるポンプ風サウンドだったが、次第にプログレッシヴな複雑さが楽曲に増して壮大なシンフォ形態へアルバムの枚数を重ねる毎にサウンドが進化、したまでは良かったが、90年代中頃よりシーンに蔓延するダークなエクストリーム・サウンドやダルでラフなグランジーブームを鑑みた故か、2008年リリースのモノトーンなジャケの7thアルバム『North』ではクラシカルで優美なストリングスを随所でフィーチャーしつつもダーク・テイストを漂わす大仰なキーボードの鳴りを抑えクランチーなギター・サウンドの割合を増した00年代対応鈍色サウンド作へ挑み、けれどそれを最後にバンド活動は止まり、他の大勢の90年代初頭デヴューのシンフォ系バンド達と同じく時流の変化に迎合出来ず解散したものばかりと思っていたが、フロントマンでキーボーディストの Oliver Philipps曰く『EVERONは一度も解散した事は無いし、そんな話をした事も無い』との事で、どうやら単なる長い休止期間だった模様だ。

因みにデヴュー作以来、彼等のアートワークには『水』や『海』といったテーマが一貫して描かれて来たが、途中紆余曲折を経て16年振りに届けられた本作のジャケットアートに『海底都市』らしきものが描かれているのを見て安心しニンマリしたファンは多いのではないだろうか?

長らくシーンからその姿を消していた為に当時のファン・ベースも殆んど既に残っては居ないだろうが、逆にデヴュー以来積み上げて来た音楽性を無理に歪めて00年代以降のシーンで持て囃された荒々しく陰鬱な鈍色サウンドへ阿る事を良しとせず、敢えて中途半端な路線変更作やメンバー・チェンジ等でメインストリームへ迎合したアルバムを発表しなかったその矜持に拍手を送りたいし、16年の時を経る事にはなったが本来の音楽性のかなりを保ったまま90年代初頭に多くのポンプ&プログレ・ファン達を虜にした、美しく壮大で劇的な構成と凝った楽曲展開のある叙情的且つ爽快感ある美旋律サウンドの詰まった新作をこうして再び届けてくれた事を祝いたい。

と言ってもまんま以前のサウンドを再現している訳も無く、しっかりと休止期間の間に00年代以降のギター・オリエンテッド・サウンドを自らの血肉へ昇華せしめたのと、各メンバーが課外事業で培った経験を活かしたのがその哀愁を帯びたメロディアスでコンパクトに纏め上げられたサウンドの端々から伺える、2025年復活に相応しいヘヴィでハードエッヂなギター・サウンドの活躍する場面が増えた、以前のポンプ臭い軟弱さは完全に払拭したモダンでエネルギッシュでドラマチックなユーロ・ハードシンフォを重厚なスケール感と共に堂々と披露しており、さらに経年の影響か歌唱スキルを磨き続けたからなのか以前より Oliver Philippsの歌声が太く力強くなり、更に深みと表現力が増していて、けれど初期より確実にトーンが下って高音域のハイトーン・ヴォーカルが聴けるパートは減ったものの、そこは抜かりなくフィメール・ヴォーカリストを複数ゲストに招いて補完(そもそもLIVEではこれまでもセカンド・キーボーディストやバッキング・シンガーを帯同し活動して来た)済みで、爽快感ある伸びやかなリード・ヴォーカルやキャッチーなコーラス・パートを含めてアルバムの仕上がり具合に些かも悪影響を与えていないので安心して欲しい。

この長いインターバルの間に各メンバーのスキル向上や音楽性の変化の表れか、従来の様なHR風のビートが効いたボトムや勢い任せなヴォーカルとコーラスで畳みかける楽曲構成からゆったりとミッドテンポでじっくりと叙情とメロディを重ね、ハードな展開から静寂パートへと緩急を効かせた陰影色濃いメロディラインや気の利いたアレンジが施された楽曲を主軸にアルバムは落ち着いて進行し、その為か全体のスケール感がアップして音の迫力が大きく増したのと奏でられる美旋律の華やかな音色の煌めきの変化や細やかな音使いの差異が楽しめる、一言でいってベテランの風格を感じさせる大人向けシンフォ・サウンドを鳴らしている。

無論、これまで通りにここぞの場面で劇的な盛り上がりを見せるエモーショナルでセンチメンタルなギターと高らかに鳴り響く華麗なキーボードをフィーチャーしたプログレ・ストラクチャーがメインなのに変わりなく、お得意のオーケストレーションや優美なストリングス、軽やかでリリカルなピアノの音色が美しいクラシカル・アレンジが効いた楽曲もしっかり収められているし、定番のシットリと歌を聴かせるハートフルなヴォーカル・パートもあり、アレンジ、歌詞、キーボード、エレキ&アコースティックギター、ピアノ、ヴォーカル等のテクスチャーが幾重にも交差し聴く者を魅了する、この16年間の空白がまるで何事も無かったかのようにさえ思えてしまえるファンタジックで魔法の様なシンフォニックな音色の数々はきっと貴方の心を喜びで満たす事だろう。

待たされて久しい新譜の中で一番耳を惹いたのはやはりフロントマン Oliver Philippsのヴォーカルで、今まで聴く事が無かったデスヴォイス風の濁り声やエクストリーム・ミュージック風のアグレッシヴな唸り声、そしてメランコリックでミステリアスな旋律にマッチしたくぐもった物憂げなディープ・ヴォイスに挑んでみたりと、様々にヴォーカル・アプローチを変えて表現の幅を広げ楽曲の完成度を上げつつ生来のメロディー・センスを活かしバラエティ豊かな変化を与えているのは見事の一言だ。

2000年以降、Oliver PhilippsはEVERON以外にノルウェー産シンフォニックHMバンドANGELやオランダのDREAMSIDEとドイツのDANCE MACABREが合体して生まれた女性ヴォーカル2人と男性ヴォーカル1人によるトリプル・ヴォーカルスタイルなゴシックHMバンドSATYRIAN、英国人、カナダ人、ノルウェー人、そしてオランダ人等と国際色豊かな混成メンバーで構成されるプログHMバンドTHE ALL、オランダ人、オーストリア人、ドイツ人混成のシンフォニック・プログレハード・プロジェクトPHANTASMA、その他にも数多くのプロジェクトやセッション等に参加し、主に鍵盤奏者としてその手腕を奮い、ワールドワイドな数多くの交流を深めた経験も間違いなく活かされているに違いない。

ソロにバッキングにと Oliver Philippsのヴォーカル・パートに彩りと厚みを生み出すフィメール・ヴォーカリスト達の艶やかな美声が穏やかな影の様に寄り添い綴られる物語のイマジネーションを掻き立てるだけでなく、彼女達の美声の影響かこれまで余り彼等の楽曲で聴く事のなかったケルティックな音使いやフレーズが楽曲のそこここに現れ、クリアーなギター・トーンと透明感あるヴォーカルも相まって少し英国シンフォ・バンドJADISを思わせる瞬間があったりして新鮮な驚きを与えてくれたのが嬉しい。

ユーロ圏での80年代を思わすレトロ・ロックの人気復調や80年代サウンドに映画音楽要素をMIXしてデジタライズしたシンセウェイヴ等の台頭も有り、粗く荒んだ陰鬱なエクストリーム・ミュージックの人気に翳りが見え始めたのを好機と捉えたのか、準備万端で遂に長い眠りから覚め再び活動を開始した彼等、途中でドラマー Christian〝Moschus”Moosと共にバンド立ち上げメンバーだったオリジナル・ギタリスト Ralf Janssenが脱退し Ulli Hoeverへと交代したが、それ以降一度もメンバー・チェンジをせず安定した活動を続けて来たが、今回予期せぬアクシデントに見舞われてしまった。

レコーディングを開始し、12曲中8曲まで作業を進めた所で、なんと共同創設者である Christian〝Moschus”Moosが急逝し、残り4曲のドラムパートを米国人でNYのJAZZ系セッション・ドラマー Jason Gianniが叩きなんとか本作を完成へ漕ぎつけた模様で、バンドの土台を支えるドラマーであっただけでなく長らくアルバムのミキシングやプロデュースにも尽力してきた言わば『バンドの心臓部』とも言える彼を不慮の死で失った事で、期せずして次作で彼等のサウンドやタッチが大きく変化する事が予見されファンならずとも要注目作となるだろう。

本作のプロデュースは Oliver Philippsが務めているが、半ばまで Christian〝Moschus”Moosと作業を進めていた訳なので、彼等のサウンドの変化がハッキリと表面化するのは次作からなのは間違いない。

Jason Gianniはドラム講師をはじめ、数え切れぬ程のTVやラジオのCMソングや有名ミュージカル作、STEELY DANのトリビュート・バンドやアニメの主題歌等でも叩いており、更にNeal Morse BANMDのドラマーで近年DREAM THEATERへ復帰した Mike PortnoyがNeal Morse BANMDへ参加出来ぬ時の代役をステージで務める折り紙付きの実力者なので、プログレッシヴな複雑さ、エモーショナルなメロディ、パワフルなサウンドを兼ね備えた本作の楽曲のレコーディングで披露されたそのプレイやテクニックに些かの不備も無い事はお伝えして置きたい。

現時点では後任は未定な模様で、ツアー要員を臨時で迎えるのか新ドラマーを迎えてツアーを開始するのか続報を待ちたいですね。

今回ゲストに招かれたフィメール・ヴォーカリスト達は既にキャリアを重ねた実力者となっており、ノルウェー人シンガー Helena Iren Michaelsen嬢は北欧シンフォニックHMバンド IMPERIAとソロ・プロジェクト ANGELのフロントマンを務める人気女性ヴォーカリストで、今回彼女がゲストに招かれ数多くの楽曲でその美声を披露しているのはANGELやTHE ALLで Oliver Philippsと活動を共にしている事が理由だろう。

通称 LEAHことカナダ人シンガー Leah McHenry嬢はソロ活動及びUSシンフォニック・ブラックメタル DRAGONLORDにも参加しており、シンフォニックHMやケルト・メタルにフォークやワールド・ミュージックをMIXした音楽作をソロ・リリースしている事から〝HM界のEnya”と呼ばれる事もあるそうだ。

因みに10曲目のアグレッシヴなインスト・トラックのタイトル『OCD』は『Obsessive、Compulsive、Disorder Indeed = 強迫観念』の意味らしく、タイトル通りスリリングで緊張感あるテクニカルなプレイが繰り広げられている。

待ち続けたEVERONファンは無論の事、非常にメロディアスでエネルギッシュな、そして優美で透明感もあるキャッチーなユーロ・プログレッシヴ・ロック作をお好みの方なら本作をチェックしても決して損する事ない、そんなベテランの実力と風格を余すことなく味わえる久方ぶりの彼等の新作を是非お薦めしたい。

Tracklist:
01. No Embrace
02. Broken Angels
03. Travels
04. Pinocchio's Nose
05. Monster
06. Shells
07. Grace
08. Guilty As Charged
09. Children Of The Earth
10. OCD
11. Until We Meet Again
12. Flesh

EVERON Line-up:
Oliver Philipps : Vocals、Piano、Keyboards、Guitars、Orchestrations
Ulli Hoever : Guitars
Schymy : Bass
Christian〝Moschus”Moos : Drums、Percussion

With:
Jason Gianni : Drums on Tracks 02、08、10、11
Helena Iren Michaelsen : Vocals on Tracks 02、06、07、08、09
Leah McHenry : Vocals on Track 04

Produced by Oliver Philipps


by malilion | 2025-03-13 17:52 | 音楽 | Trackback
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