TARZEN 「Madrid + 3」'25 70年代に活躍したブリティッシュHRバンド HEAVY METAL KIDS結成メンバーで、その後UFOの1976年作『No Heavy Petting』にバンド史上初キーボード奏者としてレコーディングに参加した事でHRファンにその名が広く知られる南米アルゼンチン生まれの英国人ヴォーカリスト&キーボーディスト Danny Peyronelは、UFO脱退後THE BLUE MAXを結成しアルバムを1978年にリリース、同時期に彼の弟でドラマーの Michel Peyronel主導のバンドEXTRABALLEをフランスで結成しEPをリリース(その後、Michel Peyronelはアルゼンチンへ戻りHMバンドRIFFを結成し80年代に大成功を収める)する、一方 Danny Peyronelは正統派スパニッシュHMバンドBANZAIの1984年リリース2ndアルバム『Duro Y Potente』から鍵盤奏者として参加、バンド解散後に弟の Michel Peyronel、BANZAIのオリジナル・ギタリスト Salvador Dominguez (ex:CANARIOS、ex:LOS PEKENIKES)の3人で1984年にSpainはMadrid州にてTARZENを結成、最後にIRON MAIDENの Nicko Mcbrainの紹介でGRAND PRIXの元ベーシスト Ralph Hood を迎えた4人で編成が完成し、1984年にデヴュー作『Tarzen (今回の再発に際しタイトルを『Taboo』へ変更)』を、1989年に本作2nd『Madrid』をリリースしたスパニッシュ・メロディアスHMバンドの遺したアルバムが、マニア御用達米国レーベル Metallic Blue Recordsより最新リマスター&ボーナストラック追加で2枚同時にオフィシャル初CD化されたのを即GET! UFOの5thアルバム『No Heavy Petting』収録の人気曲〝Natural Thing”で聴ける、小気味よく刻まれるホンキートンクっぽい華やかなシンセ・サウンドを覚えておられる方も多いだろう、あのキーボードを操っていたのが Danny Peyronelで、本バンドのフロントマンであります。 両親が軍関係者だった為にアルゼンチンを転々と移動する生活を送り、お陰でスペイン語と英語が堪能になった Danny Peyronelは、BANZAIのリードシンガーで後にMANNZANO、NAIAGARA、EMERGENCY等でも活躍もする Antonio Jose Manzanoに英語の発音等ヴォーカルの手解きをしていた関係でBANZAIのテクニカル・ギタリスト Salvador Dominguezとも縁が生まれ本バンド結成の切っ掛けとなったと言う、何気にTARZENは80年代英国ロックシーンだけでなくフランスやスペイン、そしてアルゼンチンHMシーンの著名な人脈も交差している重要バンドであると言えよう。 因みに本作制作前にベーシスト Ralph Hoodは脱退してトリオ編成のままアルバム制作が行われたが、アルバム完成後に新ベーシスト Victor〝Vitiko”Bereciartuaが迎えられて元の4人編成へと戻っている。 デヴュー作でNWOBHMの無骨さやワイルドな残り香を纏ったハードエッヂでスピーディ、それでいてAC/DCの Bon Scottを彷彿とさせる荒々しくもキャッチーな Danny Peyronelのヴォーカルとフックあるコーラスワークを活かしたコンパクトな楽曲と Salvador Dominguezの音数多い速弾きギターをフィーチャーした切れ味鋭くエネルギッシュな欧米折衷型HMサウンドを披露していたが、TWISTED SISTER、DOKKEN、UFO、Alice Cooper、JETHRO TULL、ZZ TOP、J-Geils Band、Peter Frampton、FLEETWOOD MAC、FOGHAT等との過酷な米国ツアーを経験し、更なるUSメジャー・シーンでの成功を目論んで、メインストリームを席捲するバブリーでゴージャスなアリーナロック・サウンドやラジオフレンドリーな産業ロック等の影響を巧みに取り入れた、よりメロディアスなアプローチを強めビッグなバック・コーラスやグリッターなシンセ・サウンドを前面に押し出し洗練度を上げたUSメロディアス路線へ大きく舵を切った2ndアルバム『Madrid』を1989年にリリースする。 あの Yngwie MalmsteenがALCATRAZZで華々しくメジャー・デヴューしたのが1983年で、その後に全世界で勃発したギターヒーロー・ブームを思うとTARZENはしっかりとメジャー・シーンの動向を注視し巧みに自身のバンドサウンドをアジャストさせてデヴューしたのが分かり、それ故かベーシスト Ralph Hoodが抜け Danny Peyronelがベースも兼任してレコーディングされた続く本作で1stアルバムで魅せた路線から大胆に音楽性を変えたのは、当時の爛熟を極めんとするシーンの盛り上がり具合を知る者ならば当然の帰結と納得でしょうが、その後のグランジー・ブーム到来で90年代メインストリームが呆気なく一変するを思うと、もし右へ倣えで音楽性を変えずに愚直に1st路線を突き進み地道なアンダーグラウンド活動をその後も継続させていたならば、またバンドには違った未来が待っていたのかも、と今更ながらに思ってしまいます… とまれ一気に垢抜けた軽めのハードポップへ大接近したメロディアス・サウンドへ鞍替えした本作、1stの如何にもHMサウンドという無骨な男臭さ漂うブリティッシュHR由来のメタリック・サウンドを好んでいたファンにとっては裏切りにも等しかったでしょうし、逆にメジャー路線の朗らかでバブリーなキャッチー・サウンドを好む大衆には受け入れられ易かったのは想像に難くなく、大きく Danny Peyronelが弾くキーボード・サウンドが楽曲の割合を占め、ツボを心得たフレーズやここぞの速弾きでテクニカルなプレイを聴かせはするものの明らかにデヴュー作と比べてバンド・サウンドに居場所が減ったギタリスト Salvador Dominguez的には不満は無かったのかと危惧しますが、実は2ndリリース前にマネジメント等のゴタゴタで Salvador Dominguezが脱退し、ベーシストの Ralph Hoodの提案でPhil Lynott's GRAND SLAM、STAMPEDE、UFOでの活躍でも知られる英国人ギタリスト Laurence Archerが代役でバンドに迎えられ、急遽決まっていたスペインでのギグを凌ぐが最終的に Salvador Dominguezがバンドへ復帰、今度は Ralph Hoodが脱退、替わって英国人ベーシスト Gary Liedeman (THIN LIZZY、ASIA、ROCK OF AGES、etc...)が迎えられたが短期間で脱退、今度はアルゼンチン人ベーシストで Michel PeyronelのRIFFでの元バンドメイト Victor〝Vitiko”Bereciartua (LOS CRISS CROSS、VITIKEN、VITICUS)が加入し編成は落ち着くというアクシデントがあったが、幸か不幸か90年代に突入してバンドは自然消滅してしまうので、続く3rdでの音楽性を巡ってメンバー間での衝突とか脱退劇や解散は迎えなかったのがファン的には救いかもしれません。 ただバンド消滅は時節の変化だけが原因ではなく、契約を交わしていたマイナー・レーベルの資金力が衰えた事も要因の一つだったのは確かな模様で、バンドは2ndアルバムのチリ盤とメキシコ盤をリリースしアルバムのプロモート南米ツアーを敢行し、ツアー要員として新たにバッキングシンガーやキーボーディスト、セカンド・ギタリスト等を迎え、アルゼンチン公演ではBON JOVIの前座を務めるなど衰え行くレコード会社のプロモート力をカヴァーするかのように果敢にツアー活動を続けたのだが、残念な事にそれがTARZENの最後のLIVEとなってしまった… それにしても本作の軽めな音楽性やウェットさが残るコーラスワーク等を聴くにつけ、妙にURIAH HEEPが米国での成功の足掛かりを掴もうともがき『Raging Silence』'89 をリリースした際に聴けたアメリカナイズされたメロディアスUKロックサウンドと似通っており、音楽的バックグラウンドが違うにしても同じ英国人が意識してアメリカナイズしたサウンドを演ろうとすると近似したサウンドへ皆接近するものなんだろうか、それとも90年代初頭に求められていた平均的なサウンドがそうだったからなのだろうか、とちょっと不思議であります(汗 80年代メインストリームの教科書に忠実に倣い、更にコンパクトさとキャッチーさに磨きをかけラジオフレンドリーなハードポップ・サウンドを極めた本作はマイナー・レーベルからのリリース作なのにケチの付けようが全く無く、唯一の文句は余りにアルバムが無駄無く纏まり過ぎてアッという間に終ってしまう事くらいでしょうか? バンド消滅後、Danny PeyronelはMEAT LOAF等のソングライター業で成功し、ソロアルバムも複数枚リリースするなど未だに創作意欲は衰えておらず、半自伝的本の執筆や元UFOメンバー達とX-UFOなるバンドを結成し、バンド名をHOUSE OF Xへ変え、Laurence ArcherやLIONHEARTの Rocky Newton(B)、Clive Edwards(Ds)等と合流し現在も鋭意活動中な模様だ。 Michel Peyronelもソロアルバムを2枚リリースし、ハリウッド映画にも出演するなどアルゼンチンを拠点に今も幅広い活動を続けている模様で、Salvador Dominguezはその後もソロ・アルバムを複数枚リリースし、いくつかの教育本や音楽史の教材やビデオも出版と、今も音楽関係の仕事を続けている模様だ。 デヴュー作『Taboo』にボーナス・トラック4曲を追加し2025年リマスター&オフィシャル初CD化と、2ndである本作『Madrid』も同じくボーナス・トラックとして2ndのアルゼンチン盤『Es Una Selva Ahi Fuera』に収録されていたスペイン語ヴァージョンによる3曲を追加し2025年リマスター&オフィシャル初CD化となっていますので、オリジナルのアナログ盤をお持ちの方でも今一度購入しても決して損はしない本リイシュー作となっております。 ただ、リマスターが謳われている1stではノイズ等は目立たないが、同じくリマスターされた2ndでは明らかにノイズや音割れが聴き取れるので、恐らくオリジナル・マスターは消失したか所在不明で板起こしリマスター盤となったのが少々残念なものの、比較的上質なリマスター作業が施された模様でアルバムのクリアーなサウンドを楽しむのにさほど苦にはならぬのがせめてもの救いでありましょうか? 『スパニッシュスHMバンド作だからどうせ巻き舌のスペイン語でしょ?』と勘違いして英語詞なのにスルーしてしまうのは惜し過ぎる、80年代メジャー・シーンに倣ったドキャッチーなメロディアス・ロック作がお好みな方なら間違いなく気に入る一作ですので、彼等のデヴュー作も合わせて一度ご自身お耳でチェックしてみて下さい。 Track listing: 01. Inmediate Obedience 02. Victim Of Pleasure 03. Glad All Over 04. Walls And Rivers 05. Madrid 06. Mother Night 07. Let's Do It 08. Black And Blue 09. Always A Faster Gun 10. Go Through The Flame Bonus Tracks: 11. Romance En La Linea 12. Es Una Selva Ahi Fuera 13. Frente Al Muro, Frente Al Rio TARZEN Line-up: Danny Peyronel : Lead & Backing Vocals、Keyboards、Bass Michel Peyronel : Drums、Backing Vocals Salvador Dominguez : Lead Guitar、Backing Vocals
by malilion
| 2025-02-24 23:57
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