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ロシアの暴走バカテク野郎 LOST WORLD BANDがデヴュー前の未発音源を交えて再録リリース!

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LOST WORLD BAND 「The Dawn」'24

現在は米国NY在住の天才的ヴァイオリン奏者にしてマルチ・プレイヤー Andy Didorenko率いるロシアン・シンフォニックの最高峰バンドLOST WORLD BANDが、バンド初期の1996年に作曲されデモテープのみ残されていた未レコーディング楽曲を、旧音源の一部を交え新規アレンジで新録したリメイク作が早くもリリースされたのをちょい遅れてGET!

2002年デヴュー・アルバム『Trajectories』以前の1992年3月から6月頃にかけて録音されたバンド初期音源のカセットテープ作品2本を新録にてリメイクしたアルバム『Lost World 1992』が2021年に既にリリース済だが、今回はそのリメイク作に続く時期である1996年頃に作曲された楽曲を、冒頭の短いオープニングとフルート・パートのみ当時の録音から復刻採用し、ヴァイオリン、ギター、キーボード、ベース、ドラムス、ヴォーカル・パート等は、全て28年越しに新録した作品となっている。

前作『A Moment Of Peace』は一部ゲストを除き Andy Didorenkoの多重録音によるワンマン・プロジェクト作で、米国に拠点を置いた影響でかロシアならではの冷ややかな寂寞感を交えた従来のテクニカル・シンフォからフュージョンをはじめ様々な要素が混在するミクスチャー・ロックへ傾倒した、KING CRIMSONの影響も更に強まった為か今までで最もメタリックでヘヴィな鈍色テイストが強まって以前のクラシカルな優美さや艶やかな美旋律が掻き消された印象が強く、従来作を聴き込んで来たファン程にダーティ且つアグレッシヴな音像と多様な音楽性を巧みに取り込み更なる高みへと昇華したモダン・サウンドに驚かされる作風であったが、本作はデヴュー前の古い楽曲のリメイク作と言う事もあってか現在の癖の強いミクスチャー系サウンドでない、新人プログレ・バンドらしいフォロワー成分が露骨に感じられる事もあってか独創性に劣るが反面大変聴き易く、ソリッドでヘヴィな後期クリムゾン要素と優美で気品あるクラッシック音楽要素を組み合わせた如何にもロシア産シンフォ・バンドらしいそのシリアス・サウンドはデヴュー前時点で既に後の飛躍を予感させる魅力を放っているのに驚きだ。

『Lost World 1992』時点の編成は Andy Didorenkoと彼の長年の相棒であり惜しくも早逝したフルート奏者の Vassili Soloviev、そしてドラマー Matt Brownというトリオ編成でしたが、本作制作前の時点でドラマーが脱退しており、代わってデヴュー作『Trajectories』及び2nd『Awakening Of The Elements』にも参加しそのテクニカルな鍵盤捌きを披露するキーボーディスト Alexander Akimovを迎えたトリオ編成にヴォーカリスト、複数のドラマー、サックス、トランペット奏者らゲスト・プレイヤー達を迎えて制作されており、よりデヴュー作で披露する事になる華麗で切れ味鋭いヒステリックなヴァイオリンとダークでハードエッヂな攻撃的ギターを軸に展開する後期クリムゾン的な音楽性へ近づいたシンフォ・サウンドを聴かせているのが分かり実に興味深い一作と言えるだろう。

クリムゾン風な攻撃的ナンバーを始め、スリリングなキーボードが活躍するイタリアン・シンフォ風、ファンタジックなフルートとエモーショナルなサックスがリリカルな叙情を響かせるロマンティックな英詞ヴォーカル・ナンバー、色彩感あふれる管弦楽曲や民族色豊かなオペラを数多く残した『ロシア5人組』の1人 Nikolai Andreyevich Rimsky-Korsakovの『熊蜂の飛行』へのオマージュを思わす硬質なリズムに乗って小気味よいピアノと流麗なギターが疾走する超速弾きナンバー、だけでなくアコースティック・ギターやピアノにオーケストレーションを加え、フォーク調のヴォーカル・ナンバーやトランペットやサックスのジャジーなプレイが効いた楽曲等々、トレードマークのヒステリックでスリリングなヴァイオリンを主軸に圧倒的テクニックとスピードで繰り出される一筋縄ではいかぬアグレッシヴなプログレ・サウンドにクラシック由来の気品を漂わすスタイルが実に彼等らしく、超絶技巧で聴衆を魅了した若き日の Al Di Meolaや、テクニカルなインタープレイ飛び交う初期MAHAVISHNU ORCHESTRAを思わす本作のサウンドは、寒々しいロシアで鬱屈した焦燥感を抱えて燻っていた若かりし頃の Andy Didorenkoの抑えきれぬ創造性が火花を散らして煌めいているかのようだ。

また、しっかりと歌える専任ヴォーカリストを招いた効果は大きく、アヴァンギャルドで暴力的なバックのテンション高いサウンドだけでなく、しっとり歌い上げるパートや涼やかなフルートの音色が奏でられるパートなどにユーロ系ミュージシャン特有の叙情感が隠しようもなく漂っており、結果的に楽曲の陰影を色濃くし、パワフルでスリリングなサウンドと優美な美旋律が生み出すメリハリを際立たせているように思う。

ただ個人的には折角ゲスト・ヴォーカリストを招いたのならジェントリー・ヴォイスの穏やかな歌声のシンガーでなく、もっと上から下まで出せるバックのテンション高いサウンドにも張り合えるくらいの歌唱力とパワーあるシンガーを招いても良いと思うのですが、あくまで自身の奏でる楽器と盟友 Vassili Solovievのフルートの音色がメインと捉えているからなのか、ユーロ・シンフォ・サウンドを邪魔せぬヴォーカル、という印象が強く、最後まで添え物的な扱いに思えてしまいそこだけは些か残念ではありました。

ダークで攻撃的な硬質サウンドばかりでなく、しっかりと優美なヴァイオリンと軽やかなフルートの格調高く美麗なコンビネーションが随所にフィーチャーされている本作を聴くにつけ、Andy Didorenkoにとってやはり亡き Vassili Solovievの存在は大きかったのだなぁと再確認でき、もし彼が今も存命で Andy Didorenkoと一緒に渡米し活動していたならば、きっと前作『A Moment Of Peace』で聴けたような優美で気品あるクラシカルさ香るサウンドから大きく逸脱した音楽性の作品を創作していなかったんではないかと思え、再び Vassili Solovievのフルート・サウンドを流用したリメイク作『The Dawn = 始まり』をリリースした事を見るまでもなく、未だに亡き友への想いが強いのが分かって切なくなりますね…

彼等のファンは無論の事、硬質でクラシカルなユーロ・シンフォがお好みな方やKING CRIMSONの遺伝子を受け継ぐモダンな鈍色シンフォ作がお好きな方、そして90年代初頭の世界的な音楽の流行やメジャー・ミュージック・シーンとは一切無関係な、真に芸術的で冒険的な若きロシア人音楽家がピュアな創作活動で生み出したアート・ロック作にご興味ある方は一度本作をチェックしてみても決して損はしないだろう。

Tracks Listing:
01. Majesticloud
02. So Close To Sunlight
03. Cogs Of Memory
04. Train To Paradise
05. The Flight Of The Metal Bumblebee
06. Forevermore
07. Pterodactyl Hunt
08. Let It Pass
09. Paganini Blues
10. The Dawn

LOST WORLD BAND Line-Up:
Vassili Soloviev : Flute
Andy Didorenko : Violin、Guitars、Bass、Backing Vocals、Percussion
Alexander Akimov : Keyboards

With:
Brian Paley : Lead Vocals
Francesca Pratt : Drums on Tracks 1、5、7
Glenn Welman : Drums on Tracks 2、9
Jordan Mcqueen : Drums on Tracks 3、4、6、8
Kelly O : Trumpet
Manuel Trabucco : Saxophone


by malilion | 2025-01-01 11:49 | 音楽 | Trackback
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