PRESENCE 「Them」'24 近年はイタリアン・プログレの大御所OSANNAとのコラボレートや女性ミュージシャンのみで結成されたイタリアン・ダーク・シンフォ・ロックバンドSophya Baccini's ARADIAでの活躍、そしてソロ活動でも知られ、ユーロ圏で絶大な人気と知名度を誇るナポリの歌姫こと Sophya Baccini嬢を擁し、1988年に結成されナポリを拠点に活動する3人組イタリアン・ゴシック・シンフォ・バンドの8年振りとな7th (EP、LIVE含まず)アルバムを少々遅れてご紹介。 元々キーボード入り5人組でインディ活動を開始したが2nd時にジェノヴァのBlack Widow Recordsと契約した後、3rd『Black Opera』'96 時点でバンドメンツが3人になってしまい、本作でも固定メンツはヴォーカリスト兼ピアニストの Sophya Baccini、イタリアン・ミュージックシーンでも著名なセッション・ギタリストで本の執筆やギター講師、映画音楽や舞台音楽等々の数知れぬコラボレート活動中なマルチ・インストゥルメンタリストの名手 Sergio Casamassima、イタリア人ソロ・アーテイストのアルバム制作やサントラ制作等、多岐に渡るセッション活動で有名なマルチ・インストゥルメンタリストの Enrico Iglioの3名のみで、前作『Masters and Following』'16 ではリズム・セクションはゲスト奏者(オリジナル・ドラマー Sergio Quagliarellaが参加)で賄っていたが今回はゲスト奏者を迎えず全てバンド内でリズム・パートを補完している。 本作も前作と同じく8年のインターバルが空いた事からも本バンドは既に各メンバーにとってメインの音楽活動の場ではなく、銘々の活動と並行しつつ断続的活動を行なうサイド・プロジェクトへとプライオリティが低下した“著名ミュージシャンがかって在籍した名だけ知られるマイナーな古巣バンド”といったポジションでとっくに解散してもおかしくない状況なものの、それ故にユーロ圏シーンでの成功や売り上げ等諸々のプレッシャーから解放され、各自が課外活動で培った成果や経験を持ち寄って自由で気ままな趣味全開の創作の場だからこそ今も存続しているのではないのだろうか? Sophya Baccini嬢はソロ活動やイタリア大物ミュージシャンやビッグネーム・バンドとのコラボ、そしてSophya Baccini's ARADIAを率いて2023年10月に10年ぶりとなる3rdアルバムをリリースしたばかりと一時も休む間もなく活動し、Sergio Casamassimaは各セッションのみならず、ANDJ(Associazione Napoletana Diffusione Jazz)のロック・フュージョン部門の講師に招かれたり、個人レッスンやギター・ワークショップを開催したり、2002年からは幼馴染の Alfredo Imparato(キーボーディスト兼プログラマー)と共に『AKASHA musical contaminations 360°』というプロジェクトを展開するだけでなく、2018年3月にはSIR JOE PROJECT名義で環境破壊を憂うコンセプトの初ソロ作『Letze Baum』をリリースと同じく絶え間なく創作活動をしてミュージックシーンを賑わしている。 2人に比べ Enrico Iglioは裏方作業がメインで余りその名がシーンでクローズアップされる事は無いが、キーボードをはじめドラムも巧みに操れ一人何役もこなせる事からバジェットを圧縮したい録音作業にうってつけの人材な事もあってか手広くポップシンガーのアルバム制作等に協力したりサントラ作業等にも参加し、恐らく2人よりも数多くのスタジオワークをこなしているものと思われる。 そんな3人が久しぶりに届けてくれた本作は、Igor Stravinskyや Alban Berg、さらには Chopinといった古典から近代クラシックまで広くインスピレーションを得て作曲されたという20分を超す複雑に入り組むロック・オペラ的シンフォニック組曲となった表題曲『Them』をはじめ、カンタベリー流のプログレやJAZZ要素に加え、BLACK WIDOWやVAN DER GRAAF GENERATOR風なダークでミステリアスな謎めいた曲調や、前作でも聴かれたサスペンスかホラー映画のサントラの様な物憂げなストリングス、不穏な乱れ踊るピアノや不気味なSE、不安を煽る環境音等が散りばめられ、GENTLE GIANTを彷彿とさせる目まぐるしいリズムチェンジやテクニカルな変拍子、予測不可能なフックを多用した難解な楽曲構成や精緻なアンサンブルとブレイクを交えて緩急を織り成し、重厚で華麗なキーボードが活躍する壮大なEL&P風オーケストレーションも顔を出しつつスリリングに展開していく、大雑把に言って前作『Masters and Following』の延長戦上なサウンド(前作ジャケは不気味な館、そして本作はモノトーンのカラス、だもんなぁ…)の作品と言えるだろう。 呪術めいた密やかな囁きや啜り泣き、時に天使のように穏やかに、また時に悪魔のような邪な狂気を孕んで、正に変幻自在に七変化する妖艶な Sophya Baccini嬢の幅広い表現力と美声で楽曲を完全に支配するエモーショナルなヴォーカルを主軸に据え展開するダークなゴシック・ロック調のシンフォニックな音楽性の楽曲は、70年代プログレ調の重く歪んだオルガンの音色がヴィンテージ色を強調し、幾分HMタッチが残るギターをはじめアタック感の強いロック・サウンドだけでなくピアノやストリングス、フルート等でクラシカルな優雅さを演出するドラマチックな美旋律も交え、陰影色濃く落差の激しいシアトリカルな叙情性とメランコリックな耽美サウンドが中世音楽色やオペラ、ホラー映画のサントラ臭と渾然一体となって聴く者を魅了する、芸術の本場イタリアン人ミュージシャンにしか成し得ぬ味わい深く癖の強い取摩訶不思議なアルバムだ。 正直、心地良さと対局にあるダークで難解な聴き難い作品で万人向けとはとても言えないが、そもそも70年代ホラー風なんてハナから商業的な売り上げを見込めぬマニアックな方向性だし、ベテラン・ミュージシャンのアイデアとインスピレーションの赴くままに奏でられた、それ故に古の巨人達が遺したプログレッシヴ・サウンドの伝統や模範から大きく逸脱する、イタリアン・プログレの過去と未来を繋ぐだけでなくアヴァンギャルドでシアトリカルな稀に見る独創性がシンフォ&ゴシック・ロックの地平を押し進める事になった一作と、後になって語られる事になるかもしれないそんな冒険作でもあります。 Tracks Listing: 01. The Undead 02. Aftermath 03. Dance Macabre 04. To Each Other 05. Them 06. Drawbridge 07. Stige 08. If You Dare PRESENCE Line-up: Sophya Baccini (Lead & Backing Vocals) Sergio Casamassima (Guitars & Bass) Enrico Iglio (Keyboards、Synthesizer、Percussions)
by malilion
| 2024-09-04 17:33
| 音楽
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