GLASS HAMMER 「Arise」'23 YESのフロントマン Jon Davisonが在籍していたインディ・バンドとして一躍メジャー・シーンにその名を知らしめ、Fred Schendel (G、Key、Ds)と Steve Babb (B、Key)を中心にテネシー州で1992年結成され90年代以降の米国産シンフォニック・ロックを代表するバンドの一つとなった彼等が『Dreaming City』'20、『Skallagrim - Into The Breach』'21、『At The Gate』'22 で千年に及ぶ放浪物語『叫ぶ剣を持つ盗賊スカラグリム』三部作を描ききったのに続き、22枚目のスタジオ・アルバムとして今度はSFコンセプト作がリリースされたのを少々遅れてご紹介。 前三部作は Steve Babb執筆による小説がベースとなった剣と魔法の世界が織り成すダーク・ファンタジー物語だったが、本作は心機一転銀河の謎を解明する為に熱狂的な科学者によって派遣されたアンドロイドの深宇宙探査に置ける驚異的な旅を描いており、映画『Blade Runner』の一コマや John Mitchellのソロ・プロジェクト LONELY ROBOT作を連想させるSFチックな物語を、旧来からのシンセサイザーやメロトロンを駆使した重厚で壮大なサウンドと近作で顕著なハード・エッヂで攻撃的なHMテイストを絡めドラマティックなストーリー仕立てで描く一大コンセプト・アルバムとなっている。 本作タイトルの『Arise』とは、Android Research Initiative for Space Exploration (宇宙探査の為のアンドロイド研究イニシアティブ)の頭文字をとったもので、歌詞やブックレットの注釈で語られるストーリーには Deadalusという名の深宇宙探査艇のオペレーターであるアンドロイドが登場し、その探査中に Deadalusは意識を内側に向けると自分に呼びかけて来る存在を感じ…と自我が無いハズのアンドロイドが己の存在という内的な問いかけを喚起され、広大な宇宙空間をバックに Deadalusの内側で繰り広げられる『2001年宇宙の旅』や『ALIEN』等でも描かれた人工知能やアンドロイドの葛藤というSF作お馴染みなネタをベースにしつつ独自の物語を綴った意欲作だ。 『今まで散々コンセプト作を出して、挙句に三年続けてコンセプト作をリリースしたのにまたコンセプト作かよ!』という声がどこからか聞こえて来そうですが元々彼等は J.R. R.TolkienやC.S.Lewis等の著作にインスパイアされたゲームのBGMを創作する為に音楽活動を開始した訳ですから…多少は、ネ?(汗 30年以上の活動を続けてきたGLASS HAMMERは Fred Schendelと Steve Babbの2人のマルチ・インストゥルメンタリストが演奏パートの殆どを担当して来たが、その過程でプログレ界のSTEELY DANの如くその都度に様々な音楽性に最も適した有能なミュージシャン達を迎え入れそして去って行ったにも関わらず、長年に渡って大手メディアに頼らずアンダーグラウンドな流通を主としてマイペースな自主リリースを続けてきた作品のクオリティは驚く程に一定レベルを保ち続けているだけでなく、他のどのプログレ・バンド達よりも長い年月をかけて大きく幅広く、下手をすると長年かけて築いてきたファンベースさえ失いかねない劇的な音楽性の拡張と転換を恐れずに挑み変化し続けてきた、その意味で本当にプログレッシヴな音楽ユニットと言えるだろう。 ゲーム・ミュージックを出発点に、YES + EL&Pなフォロワー・サウンド丸出しだった野暮ったい鍵盤弾き倒し初期インスト・プログレ期、フィメール・ヴォーカルをフィーチャーし歌パートにも気を使ったプログレ期、アコースティカルでアイリッシュ風味もある軽やかなアコギ・サウンド期、男女ツイン・ヴォーカルなシンフォ期、男女三声のヴォーカルに拘ったゴス風味なコンテンポラリー・ミュージック期、モロにYESのフォロワーを思わす男女三声ヴォーカル・シンフォ期、JAZZとコンテンポラリー風味も加えたバランス重視なモダン・シンフォ期、そしてある意味で初期作風への回帰である剣と魔法の世界が織り成すダーク・ファンタジー三部作期と、YES、GENESIS、VDGG、KING CRIMSON、PINK FLOYD、GENTLE GIANT、TANGERINE DREAM等の70年代プログレ・バンドへのトリビュートを感じさせる、壮大で重厚、旋律的で叙情的な“これぞプログレ”と言わんばかりに複雑なアレンジと構成から成る楽曲が詰め込まれた野心的な意欲作が本格的なバンド始動作であった事を考えると、よくもコレだけ雑多な音楽性を取り込んで同一ユニット作としてリリースしてきたものだなぁと、妙な音楽的拘束や商業的責任と無縁な自主制作環境故の〝自由”の恩恵をありありと物語っていて実に感慨深いですね。 さて、そんな彼等が本作で披露するのは、宇宙探査がコンセプトだからか意図的に広大な音空間を創出するシンセサイザーによるスペーシーな感覚と初期PINK FLOYDや70年代初期サイケデリック・バンドへのオマージュも随所で交え、全編で艶やかなフィメール・ヴォーカルをフィーチャーしつつ期待と不安が入り混じるサスペンス風な様相が漂うシンフォニック・ロックと、ヘヴィ・ギターによるスリリングなHM色など前三部作で培ってきた要素を全て融合した、70年代や80年代への憧憬がモザイクの様に見え隠れ交差する圧巻のハード・シンフォニック作となっている。 メンツは三部作からフロントマンに迎えられた可憐で伸びやかな歌声が麗しい Hannah Pryor嬢、ドラムスには"YESエミュレート期"の『If』'10、『Cor Cordium』'11、そしてゲスト扱いになった『Perilous』'12 で叩いていた Randall Williamsが復帰し、『Chronomonaut』'18 からゲスト参加し『Skallagrim』三部作ではリード・ヴォーカルも披露していたのが記憶に新しい Reece Boydがギターで参加している他、アルバム・コンセプトの立案だけでなく、全曲の作曲、録音、プロデュースと名実共にバンドを率いる Steve Babbがベーシストとして本作でも大活躍しており、長年の相棒 Fred Schendelは1曲のみでドラムスとギターをプレイするに留まっていて三部作は Steve Babb執筆の小説ベースなので遠慮して手控えたのかと思っていたが、本作で更にバンドへ関与が少なくなっているのが些か心配で…向こうの本作紹介で〝実質的な Steve Babbのソロ・アルバム”とまで言われており、もしかしたらプライベートな問題や健康状態が思わしくないのかもしれず、最悪 Fred Schendelが脱退なんて事にならなければいいケド…(汗 また『Chronomonaut』'18 の時に彼等のトレードマークであった Emersonや Wakemanを彷彿とさせる伝統的プログレ作お馴染みの派手に鳴り響く音数の多い鍵盤サウンドが影を潜めていた様に感じたが、本作ではそれがさらに一層に進んだ印象で、キーボードの使われ方がSF映画を思わすSE的な使われ方やサイケデリックな視覚要素を織り交ぜつつスペーシーな雰囲気重視のBGM的鳴らされ方をしており、メロトロン、シンセ、オルガン等が壮大な熱いウネリを生み出しつつもメインで鳴り響いているのはメタリックでヘヴィなギターとソリッドでエッヂの効いた疾走する邪悪に歪んだベース・サウンドが全体に大きな影響を与えている事もあって、これまでに無くダークで硬質な雰囲気と図太いトーンの70年代風ヴィンテージ・サウンドが所せましと唸りを上げており、典型的なGLASS HAMMER作に無いテイストとサウンドを構築しているのも見逃せない注目点だ。 SFコンセプト作だから意図的なのか、そもそも米国ミュージシャンだから不思議でもなんでも無いが、いつになくドライ・サウンドな印象な為か英国プログレ・サウンドへの憧憬故に常に漂っていた叙情的な美旋律の深みに欠けて感じ、逆にこれまで余り感じなかったサイケ・ロックや80年代の影響、そして緊張感とスリルを積み重ねてゆくドゥーム・メタルを思わすトレブリーで過激なテイストが新たな魅力となってクッキリと刻まれた、実に米国産モダン・ハード・シンフォらしい一作なのかもしれないが、所謂定番のシンフォ作を求める向きからすると少々いただけないかも? 面白いのはアンドロイドを思わす Steve Babbのイマサンなヴォーカルをデジタル処理して美しい Hannah Pryor嬢の歌声と対比しコンセプトに巧く絡めて活用している点と、Deadalusが回想に耽って別の存在を体験し、自我を発見する瞑想的な流れなど、未来的なスーペース・オペラ作に思えて妙に宗教臭く、Deadalusが自身の充足感を探求し始め、覚醒を経験するタイトル曲で語られる"神の手を感じた事が有るだろうか/それは貴方を変えるだろう"、そして "天を仰ぎ、すべてを見渡せ/彼は見つけるのは難しくない、決してそうではなかったからだ"という下りなど明らかに狙っているのが分かり、物語の中心人物はアンドロイドだが、これは宇宙探査と同じくらい精神的な探求をテーマにしたアルバムなのだ。 メロトロンが怪し気に浮遊感あるメロディを奏で、無機質に繰り返すシーケンサー、破綻一歩手前なギターのフィードバック、そしてハード・サイケ然としたワウ・ギターやヴィンテージなオルガンが炸裂し、図太くソリッドなベースがブンブン唸りダークに蠢く様だけ聴くととてもシンフォ・ロック作とは思えないが、逆に言えばマンネリ化したシンフォ・ロックの模範を破壊し再構築を挑んでいる、非常にプログレッシヴ作らしいサウンド・アプローチとも言える、かな? (゚~゚) ウーン 『ARISEは、スペース・ロックをプログレッシヴ・ロックのテイストを加えアレンジしたものだ』 『前2作でやったように、2、3曲はまだドゥーム・メタルに傾倒しているけど、サイケ・ロックや80年代の影響もある。それでもこのアルバムはプログレ・アルバムであり、他のスタイルにも触れているんだ』 『私達は常に最終曲に拘ってきた。でも『Arise』の最後のトラックは、これまでにやった事の無い様なものだ。壮大な長さのインストゥルメンタル・プログレ・ジャムで、ファンの顎を床に落とすような内容なんだ!』 熱く Steve Babbが語るだけはある、ラスト2曲の大作連発でのダイナミックな盛り上がりは正に圧巻で、70年代の巨人達にもう少しで手が届きそうな勢いとスリリングな喜びで胸躍らせてくれるのは間違いない。 GLASS HAMMERが次なる頂きの足がかりを得た作品、きっと後年そういう評価がされそうな挑戦的な意欲作であります。 美しい美旋律満載な典型的シンフォ作をお求めの方には強くお薦め出来ないが、飽くなき挑戦を続ける真にプログレスなサウンドを楽しみたい好奇心旺盛な方やどこまでも彼等に着いていくダイハードなGLASS HAMMERファンにはマストなアイテムだ。 Tracks Listing: 01. Launch of the Deadalus 02. Wolf 359 03. Arion (18 Delphini b) 04. Mare Sirenum 05. Lost 06. Rift At WASP-12 07. Proxima Centauri B 08. Arise 09. The Return Of Deadalus Part 1) Battle At MARS-WRM-001 Part 2) Reentry Part 3) The Doom Of The World GLASS HAMMER Line-up: Steve Babb (Bass、Keyboards、Rhythm & Lead Guitars、Percussion、Vocals) Hannah Pryor (Lead Vocals) Reese Boyd (Lead & Rhythm Guitars) Randall Williams (Drums) With Fred Schendel (Guitars & Drums on Track 06) Composed、Recorded & Produced by Steve Babb
by malilion
| 2024-02-13 19:14
| 音楽
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