CYAN 「Pictures From The Other Side :CD + DVD Limited Release」'23 00年代以降の英国シンフォ・シーンを代表するメロディアス・シンフォニックのトップ・アクトMAGENTA、そのMAGENTAを率いるイギリス人マルチ・プレイヤー Robert ReedがMAGENTA結成前の90年代初頭に活動していたポンプ・バンドCYANの2ndアルバムが、2021年のデヴュー作のリメイク・アルバム同様に一部の楽曲を書き直し、アレンジも新たに最新のテクノロジーを用いて再構築を行い、さらに全てバンド編成にて新録した殆ど完全新作の別物と言えるセルフ・リメイク・アルバムが自主制作盤で限定リリースされたのを即GETしたのでご紹介。 今は亡きオランダのSI Musicのカタログナンバー54番として1994年にリリースされていたオリジナルの2ndアルバムは、デヴュー作より幾分かマシになったものの相変わらずチープなイラストのジャケな、ヴォーカルとギター・ソロパートにゲストプレイヤーを複数人招いた他は Robert Reedが全ての演奏パートをこなすソロ・ポンプ・プロジェクト作(この時点ではヴォーカリスト Nigel Voyleとの双頭プロジェクトに成りそうだった…)でありました。 デヴュー作は全て Robert Reedが独力で制作した為、お世辞にも褒められたものでない劣悪なヴォーカル・パートのせいでアルバムのクオリティを著しく低下させていたのを本人も痛感していたのか、続く2ndで無名ながら専任ヴォーカリストを迎え入れ問題は一応の解決を見たものの、相変わらずドラム・パートは打ち込みの軽く固いサンプルなのが残念ながら、前作で垣間見せたGENESISやYES、Mike Oldfieldの影響が伺えるストリングス・オーケストラを意識したアレンジを交えた終始鳴り響くシンセ・プレイに後のMAGENTAを彷彿とさせる美しくシンフォニックなプレイやリリカルなピアノの独奏パート、そしてラストのカルミナ・ブラーナも組み込んだ14分超えの壮大な大作など既に後の活躍を予感させる輝きを放っており、美しいフィメール・バッキングヴォーカルも交えて奏でられる叙情感香るウェットでメロディアスな楽曲の出来映え(シンセ・サンプルの軽やかなフルート・パートが美しい!)もまずまずと言え、ゲスト・ギタリスト Andy Edwardsのエモーショナルな泣きのソロ・パートのお陰もあってか確実にデヴュー作以上のクオリティに仕上がっていて、続く新作に期待を抱いたものです。 無論、今の耳で聴くと一人多重録音と自主制作いう創作環境も手伝って古臭いサウンドと安っぽいサンプリングに苦笑しますし、まるで急き立てられるかの様に矢継ぎ早に旋律を紡ぎ、楽曲展開も少々取って付けたような不自然さが些か感じられ、全体的に粗削りで落ち着きが無い印象ではありはしますが、まだまだ無名状態であった Robert Reedの抑え見れぬ創作意欲と成功を夢見てのヒリつくような渇望が垣間見え、今さらながらに大変興味深いですね。 因みに1988年にMARILLIONから Fishが脱退した時、次なるフロントマン選考オーディションをGALAHADのシンガー Stuart Nicholson (!)と Nigel Voyleも受けたらしいが、結果は皆さんご存じの通りで結局 Nigel Voyleはその後、199年リリースの3rdアルバム『The Creeping Vine』に歌声を残してシーンから姿を消し、CYANの活動も潰えてしまう… GENESISチックな劇的な展開のある楽曲にマッチする Peter Gabriel風のシアトリカルな歌唱スタイルを本オリジナル作で Nigel Voyleは披露していましたが、やはり些かパワー不足だったのと癖が少なく様々な楽曲に対応可能な声質と灰汁の無いスマートな歌声だった反面で強烈な個性に欠ける点が、MARILLIONの選考漏れは元よりCYANでも成功出来なかった要因なのかもしれません…(´д⊂) さて、決して満足な仕上がりでなかっただろうCYANの作品に Robert Reedは未だ並々ならぬ想いを残しているのは前作1stリメイク・リリース時にもお伝えしましたが、本作も同様に現在の彼が持てるスキルと人脈と資金を存分に注ぎ込んで再構築に挑んでいるのが見て取れ、オリジナル作が宿していた情熱をそのままに2023年に相応しく殆ど書き直し(タイトルも変更されている)に近い楽曲の手直しや新パート追加、さらに再アレンジを施して当時のGENESISやYES、Mike Oldfield等の影響が透け見えるサウンドを改めるべく、前作に引き続き自身のソロ・シンフォ・プロジェクトTIGER MOTH TALESやCAMELのキーボード奏者としても活躍する英国出身の盲目の天才マルチ・ミュージシャン Peter Jonesをリード・ヴォーカルに、英国シンフォ・バンドTHE TANGENTや自身が率いるプログ・バンドMASCHINEでの活躍が知られ、近年 Francis Dunneryが再結成した Francis Dunnery's IT BITESでもギタリストを務める Luke Machinをリード・ギタリストに、ベースにはMAGENTAでも活動を共にしGODSTICKSにも在籍する Dan Nelsonを、THE FYREWORKや初期MAGENTAでも活動を共にした Tim Robinsonをドラムスに、Robert Reedのソロ作に何度か参加している英国人フィメール・シンガー Angharad Brinn嬢と今回初めてゲスト参加したイリアン・パイプ奏者の Troy Donockleyを迎え制作されており、チープだったアートワークもアルバムで綴られる物語を想像させるファンタジックな素晴らしいイラストへ一新され、アマチュア臭かったオリジナル作を遥かに凌駕する完成度とこれまで研鑽を積んで来たキャリアに裏打ちされた余裕と揺るぎない自信が全編に渡って漲っており、スケールとクオリティを大幅にアップグレードさせた一大絵巻が腕利きプレイヤー達によってドラマチックに奏でられる傑作シンフォニック・ロックへと生まれ変わったのに異論を唱える者は居ないだろう。 やはりなんと言ってもヴォーカル・パートのレベルアップが著しく、Nigel Voyleには悪いけれども Peter Jonesのエモーショナルで伸びやか、情感タップリに力強く歌い上げる抜群のヴォーカルを聴くだけでも全く違う曲に思えてしまうし、バックのサウンドもバランスを考慮しアンサンブルを想定した完全にバンド編成サウンドへと改められており、打ち込みによる無機質でグルーヴの無いリズム・パートから名うてのプレイヤー達によって構築されるスムースでグルーヴィ、タイトでスイングするボトム・サウンドへ再録されている為に全く違う作品に聴こえ、これだけオリジナルの面影が霞む叙情的で美麗な一級品のシンフォ・ロックサウンド作を再構築するなら全くの新作として創作しても良かったハズなのに、若かりし頃に思い描く通りの創作を果たせなかった後悔故なのか、今になってまるでデヴューしたてのシンフォ・バンドの如く尽きぬ情熱が奔流の如くあふれ出したかの様な瑞々しく鮮烈なサウンドへと結実しているように思えます。 適所に配された艶やかな美声のフィメール・バッキングヴォーカル、小気味よく軽やかなピアノ、薄っすら爪弾かれる美しいハープと軽快なイリアン・パイプ、そしてなんとも言えぬ温かなサウンドを紡ぎ続ける Peter Jonesの操るホイッスルと情熱的でムーディなサキスフォンの弾む音色が華やかに楽曲を彩り、Luke Machinの心打つ独特なロングトーン・ギターや物悲しく懊悩するようなチョーキングはまるでギターが咽び泣いているかの様で実に重厚なシンフォロック・サウンドに良く映え、迎えられた各ミュージシャン達の多大な貢献によってオリジナル作で感じられなかった英国バンドらしい上品な叙情感とほんのり漂う哀愁の香りが濃密に立ち込めるかの様で本当に堪りません♪ ('(゚∀゚∩ 音を無駄に重ねて厚塗りしたサウンドを鳴らしていたオリジナル作の作風を改め、代わってセンチメンタルでメロゥな美旋律をシンプルに奏で、ナチュラルな楽器の音色をシットリと響かせる優美で気品漂うパートが楽曲の随所で楽しめる心地よいサウンドへ変化したのが良く分かり、そういった面でも Robert Reedのミュージシャンとしての力量以上にアルバム全体を俯瞰してプロデュースする能力がMAGENTAを経て各種プロジェクトへの参加やセッション活動を通じてキャリアを積んだ事で段違いに向上したのが如実に伝ってきますね。 オリジナル作では終始鳴り響き楽曲を主導していたシンセ・サウンドがググッと控え目になった代わりに巧みなリズム隊のプレイと、深みあるエモーショナルなヴォーカル、そしてセンチメンタルなメロディを綴るギター・サウンドが大きくフィーチャーされており、どちらかと言うと主役の鍵盤は小洒落たアレンジの音色や裏方的なパートを小気味良く弾いている事が多いものの、ここぞの時はお得意のカラフル且つダイナミックで壮大なオーケストレーションをたっぷりフィーチャーした、気品漂う優美なメロディとウェットで艶やかな情緒が香るドラマティックなシンセサウンドの壁を構築して一気に前面に踊り出て流麗なピアノの調べも交えて瞬く間に Robert Reedカラーへ鮮やかに楽曲を染め上げていく瞬間などは、得も言われぬ感動が奔流のように背筋を駆け抜け、MAGENTAファンのみならず全シンフォ・ファンにとっても間違いなく痛快にして心躍る至福の一時なのは間違いない (*´∀`*) 尚、同梱されているDVDには本編『Pictures From The Other Side』の5.1 サラウンド・ミックスを収録し、さらにプロモ・ヴィデオと『The Quiet Room Session (Live Acoustic Performance)』6曲も収録しており、前リメイク作『For King and Country』の楽曲を Robert Reed (Grand Piano)、Luke Machin (Electric Guitar)、Peter Jones (Vocals & Saxophone)の3人のみで録音したアコースティック・スタジオ・ライヴ音源を収録しており、アルバムとは全く異なる優美な趣と穏やかな雰囲気のサウンドが楽しめるファンならマストなアイテムだ。 又、同時リリースされた『Pictures From Another Side Remix And Live - Limited Edition』'23 には、リメイク作『Pictures From The Other Side』のボーナス・ディスクとも言える音源が収録されており、Pictures From The Other Side (Orchestral Mix)、Solitary Angel (Orchestral Mix)、Tomorrow's Here Today (Original Arrangment)、Broken Man (Celtic Mix)のアルバムとは全く違う Angharad Brinn嬢の艶やかな美声が大きくフィーチャーされた優雅でクラシカルな仕上がり具合の艶やかな音色は一聴の価値があるリミックス音源が4曲と、同梱DVD収録の『The Quiet Room Session』と同じ編成でのアコースティック・スタジオ・ライヴ音源(本編同梱DVD収録音源と同一音源)となっており、前リメイク作を購入してその英国シンフォ・サウンドを気に入られた方や Robert Reedをはじめ参加している各ミュージシャンのファン、そしてCYANファンな方は是非とも入手しておくべきマニアックなレアアイテムと言えましょう。 唯一残念なのは廃盤になって久しいSIオリジナル盤音源の再発を期待していた方には申し訳ないけれども、殆ど別物と言える壮大にして華麗なサウンドにリメイクされた Robert Reed入魂の本作を今は是非楽しんで欲しいですね。 どちらも自主盤の限定リリースですのでお求めの方は早目に入手しておきましょう、ニッチなジャンルのプログレ系はなかなか再発されませんから…(涙 Disc 1 -CD Tracks Listing: 01. Broken Man 02. Pictures From The Other Side 03. Solitary Angel 04. Follow The Flow 05. Tomorrow's Here Today 06. Nosferatu Disc 2 -DVD Tracks Listing: 01.Full album in Dolby Digital and dts 5.1 surround 02.Promo Videos 03.I Defy The Sun - The Quiet Room session (Live Acoustic Performance) 04.Don't Turn Away - The Quiet Room session (Live Acoustic Performance) 05.Call Me - The Quiet Room session (Live Acoustic Performance) 06.Man Amongst Men/The Sorceror - The Quiet Room session (Live Acoustic Performance) 07.Snowbound - The Quiet Room session (Live Acoustic Performance) 08.For King And Country - The Quiet Room session (Live Acoustic Performance) CYAN Musicians: Robert Reed (Keyboards、Guitars、Backing Vocals) Luke Machin (Lead Guitars) Peter Jones (Lead Vocals、Saxophone、Whistles) Dan Nelson (Bass) with: Tim Robinson (Drums) Angharad Brinn (Backing Vocals) Troy Donockley (Uilleann Pipes) Produced and Mixed By Robert Reed
by malilion
| 2023-11-30 22:03
| 音楽
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