SOUTHERN EMPIRE 「Another World」'23 メタル色も強いシンフォニック・ロックを展開してきた元UNITOPIAの鍵盤奏者で現UNITOPIAメンバーでもある Sean Timms率いるSOUTHERN EMPIREが、2023年にUNITOPIAがまさかの再結成し同年に5枚目のアルバムをリリースした上に年明け早々にシンガー兼ギタリストの Danny Loprestoが脱退した為『もうSOUTHERN EMPIREは解散か?』と危惧していた所に久々となる新譜がリリースされたのを少々遅れてGETしたのでご紹介。 2000年代オーストラリア・ネオプログレを代表するUNITOPIAの立ち上げコアメンバーで鍵盤奏者の Sean Timmsとヴォーカリスト Mark Trueackが2012年に4thアルバム『Covered Mirror Vol. 1 - Smooth As Silk』を発表後にバンドは分裂して Mark Trueack率いるUNITED PROGRESSIVE FRATERNITYと Sean Timms率いるSOUTHERN EMPIREが誕生、そして2016年にデヴュー・アルバムをリリース、その後も順調に活動を続けここでもご紹介した素晴らしい出来栄えの2nd『Civilisation」』’18 も発表と順風満帆に思えた彼等だったが突如全世界を襲ったパンデミックの影響は深刻だった模様で、その間音楽活動を自由に行えなかったのが切っ掛けなのか、まさかのUNITOPIAが再結成、しかもドラマーに Chester Thompson (ex:Frank Zappa & THE MOTHERS OF INVENTION、ex:WEATHER REPORT、ex:GENESIS、etc...)、ベーシストに Alphonso Johnson (ex:WEATHER REPORT、ex:SANTANA、ex:Phil Collins、etc...)という超々凄腕リズムセクションを招いた強力な新編成で2023年に新譜『Seven Chambers』リリース、そして先に述べた様に時を同じくしてSOUTHERN EMPIREはシンガーを失うなどファンからすると無視出来ぬ不安の兆しがあった訳だが、何はともあれこうして無事新作を5年ぶりに届けてくれた事をまずは素直に喜びたい。 さて新たに迎え入れられた注目のシンガーだが、近年オーストラリアのTVショー『The Voice』へ出演して注目を集め、続いて彼自身の名義でのソロアルバム発表、そして2010年頃から活動し既にアルバム数枚をリリースしている自身のプログレッシヴ・ロック・プロジェクトバンド PROJECTED TWIN、及びEARTH MEET WORLDを率いる Shaun Holtonを新ヴォーカリストとして本作は制作されており、SOUTHERN EMPIREの特徴であるHMサウンドを通過した21世紀型シンフォ・バンドならではの洗練されたシャープでコンパクトな演奏と、古き良きプログレッシヴ・ロックサウンドへの敬愛を詰め込んだ色彩豊かで叙情感あるドラマティックな音楽性から何一つ失われていないのは明白で、一層に研ぎ澄まされレベルアップしたメロディアスなフックあるヴォーカルと美麗で爽快なコーラスワーク、鋼の如きテンションとハッタリ抜群のド派手なキメの連発、そして捻りの効いた高速ユニゾン・バトルやテクニカルなインタープレイがスリリングに飛び交う、益々モダンになって更に迫力とキャッチーさに拍車をかけた超プロフェッショナルなハード・シンフォサウンドをバックに伸びやかでエモーショナルな歌声を聴かせ、彼のエネルギッシュで伸びやかな熱唱がバンドに迸る勢いと新たな息吹、そしてフレッシュな感覚をもたらしており、前任シンガー Danny Loprestoの抜けた影響を危惧するファンを間違いなく安心させ、そして歓喜させる事だろう。 Danny Loprestoはミドル・レンジがメインで、ちょっと高域で掠れるけれどストレートで朗らか、そしてパワフルで伸びやか、そして情感豊かな歌声が実に魅力的だったが、後を担う事になった Shaun Holtonはより若々しい感触で透明感ある伸びやかな歌声が特徴で、前作よりもキャッチーでフックあるバッキング・ヴォーカルや巧みなハーモニー・ヴォーカルがアルバムの全面に押し出されている印象の為か、よりポピュラー・ミュージック&ポップロックに接近したイメージのカラフルなヴォーカル・パートに見事にハマった歌唱を披露しており、エモーショナルな感触や情感の巧みさではまだ前任者に及ばぬかもしれないが、その見事な歌いっぷりには些かの不安も抱かせないのは流石だ。 因みにシンガーが交代しただけで他のメンツは前作と同様なバカテク集団なままですのでファンの方はご安心を。 デヴュー当時は、YES、KANSAS、SPOCK'S BEARD、Neal Morse、MOON SAFARI、U.K.、IT BITES等からの影響が伺えるポピュラリティーに富んだキャッチーなメロディ・ラインと、DREAM THEATER、CIRCUS MAXIMUS等からのソリッドなプログレッシヴ・メタルの影響が大雑把に伺え、加えてフュージョンっぽいタッチやJAZZやAORを思わすムーディーさ、更にオーストラリア産バンドならではの音使いやエキゾチックなフレーズ、そしてリズミックなプレイ、メロディアス・ロックやAOR等の小気味よい演奏スタイルや洒落た音楽要素も上手くMIXし、それらを一層モダンにシャープに洗練させ磨き上げた21世紀型モダンUSシンフォ系サウンドだった訳だが、久しぶりに届けられた本作は一聴して即前作以上にヘヴィ・タッチでアタック感の強いサウンドなのにまず驚かされるが、様々な音楽要素を伺わすハイセンスなサウンドが複雑に交差し絶妙なアレンジを効かせて展開する楽曲の上で、US系バンドを思わす抜けが良くキャッチーなメロディと怒涛の勢いで押しまくる鉄壁のアンサンブルが炸裂する、正にファンが待ち望んでいた期待以上に痛快な仕上がり具合の紛れもない傑作だ! 研ぎ澄まされた技術と前進する情熱、そして高い理想という三つの糸を巧みに組み合わせ洗練されたメロディを紡ぐ匠の技はさらに完成度と凄みを増し、疾走感あふれる演奏パート、不意を突く切り返しやファンキーでグルヴィーな緩急に富むリズム展開、ギターとキーボードの絶妙なコンビネーションと美麗なハーモニー、確かなテクニックに裏打ちされた高度な演奏の応酬が生み出す圧倒的な緊張感と爽快感、軽やかに歌い上げる瑞々しくしなやかなヴォーカルと分厚いハーモニー・ヴォーカルが渾然一体となって目まぐるしく万華鏡の如く千変万化し、クラシカルで荘厳な壮大さ、叙情香るセンチメンタルな美旋律、そして豊富なアイデアとロック・スピリット溢れるダイナミズムを随所に効かせつつ、ソリッドなHR風パートと技巧的なプログレ風パートの静と動のエレガントな対比が優美なコントラスを次々と描き出す楽曲群はどこを切り取っても劇的な上に宝石の様に眩く輝いていてケチのつけようが無く、文字通り最先端へ進化を加速させるモダン・シンフォ・サウンドを体現していると言えよう。 鍵盤奏者主導のバンドに有り勝ちなオーケストレーションを駆使しキーボード・サウンドの洪水を引き起こし、華やかなシンセと小気味よいピアノばかり耳につく軟弱な典型的印象は皆無で、まずリズム隊のアグレッシヴでパワフルな塊のようなズ太いボトムが強調されたHMにも通じる硬質な感触が大きく、ギタリスト Cam Bloklandのリードヴォーカル曲や Cam Bloklandと Shaun Holtonのデュエット曲で2人の歌声が生み出すコントラストなど情報過多で一辺倒に成り勝ちなシンフォ系楽曲に印象の差異やバラエティ豊富さを感じさせたり、フルート、サックス、ヴァイオリン等のゲスト奏者が奏でる格調高く上品で艶やかな音色も加わるだけでなく、ファンキーでグルーヴィーな雰囲気とドライヴ感ある巧みでメロディアスなベースやダークなトーンでエッジあるリフで攻めるパートなどメタリックで硬質なタッチのギター・サウンドがしっかりとバンドサウンドを引き締めており、シンフォニック・ロックのみならずユーロ・メロディアスHRやUSプログHMファンな方々でも間違いなく楽しめる事請け合いの充実作であります。 と、ここまで手放しで絶賛しておいて残念な事が一つありまして、前作でも述べましたがこれだけ素晴らしい作品をリリースして来ているSOUTHERN EMPIRE、未だに国内盤のリリースが見送られ続けているのが何故なのか納得いきません。 これだけテクニカルでシンフォニック、その上キャッチーでメロディアスなサウンドなのにユーロ圏のバンドのような重厚さは程々でスタイリッシュに纏め上げられ、それでいてポップな歌モノな印象も残るモダン・ロックサウンド、尚且つ米国産バンドのようなドライさや軽薄さは皆無に仕上げられているのは生半可なセンスやアレンジ力、そしてコンポーズ能力では不可能なのが明白なのに、SPOCK'S BEARDやTRANSATLANTIC、MOON SAFARI等が国内盤リリースされているのなら、同じ客層に絶対に訴求するのに何故リリースが見送られ続けるのか…(ツд`) 近い将来、きっと国内盤がリリースされるであろう本当に才能のあるバンドであり、演奏の強みを音楽で強調する術を心得ている期待の新鋭バンドとして、是非皆さんも今は外盤を購入して彼等を応援してあげて欲しいですね。 また、前作に引き続き多国籍なメンバーが名を連ねるTHE SAMURAI OF PROGからヴァイオリン&フルートを操る Steve Unruhがゲストに招かれアルバムに華を添え、華麗にして艶やかなプレイを披露しているのも朗報であります。 既述のバンド名にビビッと来た方や、UNITOPIAファンは無論の事、USプログHMファンやユーロ・メロディアスHR好きな方なんかにも是非お薦めしたい一枚ですので、ご興味あるようでしたら一度ご自身の耳でチェックしてみて下さい。 Track List: 01. Reaching Out 02. Face The Dawn 03. Hold On To Me 04. When You Return 05. Moving Through Tomorrow 06. White Shadows 07. Butterfly SOUTHERN EMPIRE Line-Up: Shaun Holton (Lead & Backing Vocals) Cam Blokland (Electric & Acoustic Guitars、Lead & Backing Vocals) Jez Martin (Fretted & Fretless Bass) Brody Green (Drums、Hand Percussion、Ridiculously High Backing Vocals ...again!) Sean Timms (Keyboards、Programming、Lap Steel Guitar、Backing Vocals) With: Danny Lopresto (Backing Vocals、Guitar) Steve Unruh (Violin & Flute :THE SAMURAI OF PROG) Adam Page (Tenor Saxophone) Marek Arnold (Soprano Saxophone) Lisa Wetton (Percussion、Narration on Track 4) Amanda Timms (Flute)
by malilion
| 2023-11-26 19:17
| 音楽
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