GALAHAD 「The Long Goodbye」'23 かってネオプログレ・バンドLAHOSTのフロントマンであり、現在はサウンドエンジニア、プログラマー、アレンジャー、もこなす裏方作業メインなマルチ・ミュージシャンでTWELFTH NIGHTの7代目フロントマンでもある Mark Spencerを新ベーシストに迎えた前作と同じ編成でリリースされた、英国第二世代ポンプ勢の筆頭バンドGALAHADのオリジナル・フルアルバムとしては前作『The Last Great Adventure』'22 以来1年ぶりとなる13thアルバムを即GET! この最新作はコロナの緊急事態で全世界が騒然とする前、最中、そしてその後に、前作『The Last Great Adventurer』と同様にここ2、3年の間にレコーディングされたもので、オフ・シュート・プロジェクト GALAHAD ELECTRIC COMPANYの3rdアルバム『Soul Therapy』'21 はシンガー Stuart Nicholsonが長い闘病の末に最愛の母を亡くした心情を切々と歌い上げた、心に響く、感情的な作品であったが、本作ではなんと彼の父親が最近認知症と診断され、家族が父親の衰えという難題に直面するパーソナルな事柄を赤裸々に題材とし、立て続けに両親を襲った不幸がもたらした心痛がミュージシャンとしてシンガーとして創作意欲を加速させたのか、加齢のプロセスと、早期認知症という困難で厄介なテーマとした表題曲を筆頭に、人間関係における誤解がもたらす問題や20世紀初頭に中東を切り刻み、今日まで続く恨み、分裂、戦争の種をまいた旧帝国イギリス、フランス、ロシア等への糾弾など、何時にも増して深い考察と幅広い観察に満ちたディープでシリアスなトピックが取り上げられたアルバムで、成熟した感覚を特徴とし、ロックの持つパワフルさと芸術性、そして想像力豊かで繊細なテーマを探求している彼等のカタログ中でも一、二を争うエモーショナルでアーティスティックな力作だろう。 Stuart Nicholsonの気持ちを代弁するかの様な切なく物悲しい歌詞とデジタリーでダンサンブルな打ち込み要素も織り込んだ独自のポップ・センスが活かされたキャッチーな定番のポンプ・ロックと、メランコリックな浮遊感ある美旋律が醸し出す極上のプログレ・テイストを取り入れた意欲的で独創性高いスタイリッシュなシンフォニックHMサウンドは、メイン・テーマがテーマなので覚悟していたが思いの他に鎮痛で重苦しい雰囲気は感じられず、所々で空虚な残響や陰鬱な旋律は聴こえるものの総じてクリアなコンテンポラリーサウンドで彩られており、特に Stuart Nicholsonのエレガントなヴォーカルに導かれ描き出されるイマジネーションは圧巻で、当然だが彼の私小説でないので意外な程にエンターテイメント性に富んだ魅力的な楽曲が表題曲以外に詰め込まれており、GALAHADらしい重厚なアンサンブルと際立ったシンフォニック・アレンジが実に聴き応えあるアルバムに仕上がっている。 英国バンドらしいエレガントさも漂わせつつ、時にシネマティックで、ある時は瞑想的でメランコリックな、またある時にはファンキーにと、楽曲によって様々に表情を変える美旋律に Stuart Nicholsonの意外な程に飄々とした歌声がミステリーとサスペンスなタッチも加え、グルーヴィで複雑なリズムに導かれてスムースに流れゆく瑞々しい感性の輝きがあるダイナミックな鍵盤サウンドと前作以上に魅力を増した Lee Abrahamnの巧みでエモーショナルなギター・リフは聴く者の心を惹き付け、メンバー全員が一丸となって最高のパフォーマンスを披露しているのは無論の事、所々でGENESISやMARILLION、そして Peter Gabrielの楽曲のよく知られた歌詞の一節が顔を出したりと旧来からのプログレ&ポンプ・ファンをニヤリとさせるお遊びや影響を伺わせる瞬間があったりと、最初から最後まで聴衆を魅了し、幻惑し、所々で斬新な驚きも与える、キャリア38年を迎えたGALAHADが前作に引き続き今まさに創作意欲に燃え上がり更なる進化を魅せているのは、全くもって驚くべき事と言えるだろう。 エッヂあるエモーショナルでフィーリングたっぷりな伸びやかなギター、歯切れ良くテクニカルに叩きつけるソリッドなドラム、ファンキーで流麗なベース、そしてオーケストレーションも交えたシンフォニックでエレガントな美しいキーボード、当事者だからこそ真摯に語れる説得力あるハートフルなヴォーカルと印象的なコーラスも加わって、英国らしい気品、プログレ伝統のインテリジェンス、アーティスティツクな独創性と、様々な影響やスタイルを取り入れた魅力的なロック・ミュージックが鳴り響く様はGALAHADが未だに境界線を押し広げ、高品質で意義深い音楽を生み出し続けていると分かり、一級品のバンドに必要とされるモノが全て揃っているのは間違いない。 個人的に身内に痴呆症を患った者がいた身としては、本作で綴られる『お湯を沸かすヤツにお湯を入れているんだ、別の部屋に居る名前も分からない人達に飲み物を作っているんだ、知っているハズなのに、顔が分からない…』という、記憶もあやふやで物の名称さえ言葉に出来ない、認知症と向き合おうとする人物の気持ちを想像しながら一人称で書かれた歌詞が途方もなく絶大なインパクトを与え、平凡で慣れ親しんだモノさえも崩れ去り、遠ざかっていく独特の不安感が奇妙に混在したノスタルジックでどこかセンチメンタルなタッチの切ないメロディと物悲しく綴られる言葉がまるで心に突き刺さるように痛かった… 華麗にオーケストレーションされた感動的なフィナーレの後、最後の曲は優しく消え去り、Stuart Nicholsonの悲しげな呟きが『さようなら』とだけ告げ終える、この曲はGALAHAD史上最高の感動的な曲の一つであり、個人的には2023年最高のロック・ソングの一つだと感じています。 ボーナストラックの方はアルバム前半の楽曲と同じイメージのサウンドで、本作のシリアスなテーマから外れると思ってボーナス扱いなのか前半曲と同じイメージの楽曲が多過ぎると判断した為外されたのか、表題曲の印象を際立たせる為に敢えてアルバムの構成から除外し完成度を高めようという意図があったのかは不明ですが、楽曲単体で聴けば従来のファンに十分以上にアピールするポンプ風味ある如何にもGALAHADらしいちょっと物悲しく幻想的なプログHMサウンドが楽しめる佳曲だ。 何時もの様にプロデュース、ミックス、マスタリングは、00年代に消えかけていた彼等を華麗に復活させたお馴染みTHRESHOLDの Karl Groomが手がけているので品質に些かの疑いもないのでご安心を。 表題曲がディープな題材を扱った楽曲ではありますが、全体的にはキャッチーでモダンなサウンドと巧妙でスペクタクルな展開が融合した明朗で鮮やかなシンフォニック・ロック作でありますので、英国プログHM好きな方にもなんの問題もなくお薦めできますからご興味あるようでしたら一度ご自身の耳でチェックしてみて下さい。 Track List: 01. Behind The Veil Of A Smile 02. Everything's Changed 03. Shadow In The Corner 04. The Righteous And The Damned 05. The Long Goodbye 06. Darker Days [Bonus Track] 07. Open Water [Bonus Track] GALAHAD Line-Up: Stuart Nicholson (Lead & Backing Vocals) Dean Baker (Keyboards、Orchestration、Programming、Backing Vocals) Spencer Luckman (Drums、Percussion) Lee Abraham (Electric & Acoustic Guitars、Backing Vocals) Mark Spencer (Bass、、Backing Vocals) Karl Groom Engineer、Producer、Editor、Mixer、Masterer
by malilion
| 2023-10-14 20:21
| 音楽
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