HEART LINE 「Rock 'N' Roll Queen」'23 フランス人ギタリスト兼プロデューサーの Yvan Guillevic (YGAS、PYG、UNITED GUITARS、EMPTY SPACES)によって2020年に結成された新メロディアス・ロック・プロジェクトが前作『Back In The Game』'21 から2年ぶりに前作同様ドイツのメロハー・レーベル Pride & Joy Musicから新譜がリリースされたので即GET! メンツに変動は無く前作と同じくフランスのプログレッシヴHMバンドSHADYONのメンバー達と Yvan GuillevicのバンドメイトでEBHでも活動する Dominique Braudがベーシストを務めるキーボード入り5人編成バンドだ。 前作リリース後に幾度かのLIVEを経た事でどうやらバンドとして正式に起動した模様で、本作ではより一体感が増したタイトな演奏と前作で聴けたオクトジェニックな美旋律やコンパクトな楽曲はそのままに、より生々しいロック・フィーリングの増したダイナミックでキャッチーなAOR&コンテンポラリー・ロックを披露している。 Yvan Guillevicが陣頭指揮を執り、WHITESNAKEをはじめ、BAD ENGLISH、FOREIGNER、JOURNEY、WINGER、GIANT等の80年代~90年代前半にアメリカのメインストリームで持て囃されたアリーナロックやAOR&産業ロックから強くインスパイアされたクラシック・ロックをキーボード主導のキャッチーでオクトジェニックなメロディアス・サウンドで再現しつつ、前作よりキーボードのフィーチャー具合を幾分か抑え目にし、代わってギター・サウンドの比重を増やした、ヴォーカル・アプローチもよりロックらしいワイルドなフィール有るスタイルになっているのは、バンドが本格始動した事によって前作ではセッションマン的なヘルプ・プレイに終始していたメンバーからのインプットが増えたのとLIVEでの見栄えや盛り上がりを考慮した結果なのだろう、きっと。 前作でも感じたがかなりアメリカナイズされたそのAOR&ポップロック・サウンドは一聴するとフランス産バンドと思えないものの、所々にユーロ圏バンドらしいウェットなメロディや隠し切れぬ叙情感が漂っており、フランス人ミュージシャンが集ったHEART LINEならではの持ち味が容易に感じ取る事が出来るのも嬉しい所だ。 また、プロデューサー Yvan Guillevicの手腕が前作に引き続き十分に発揮されており、煌びやかなプロダクションに彩られた楽曲は隅々までコンポーズされ、加えて細やかなSEや気の利いたアレンジ、ハイレベルな演奏も相まって、とても新人インディ・バンドのアルバムと思えぬ高品質で成熟したサウンドをラウドに鳴り響かせており、間違いなくHEART LINEの強みとなっていると言えるだろう。 ただ、諸手を上げて本作を歓迎出来るかと言うと些か問題があり、新たな音楽性の選択とよりロック寄りになった歌唱アプローチが生み出すマイナーB級感は拭い難く、メジャー路線の中のメジャーであるAORやコンテンポラリー・ロックに接近すればする程に楽曲の出来は勿論の事、プレイヤー・スキルや特にヴォーカルのポテンシャルが重要視される訳だが、残念ながら本バンドのシンガー Emmanuel Creisはまだ十分にそういったメジャー路線の楽曲を歌いきるには実力不足だと図らずも本作で露呈してしまった。 綺羅星の様なトップ・プレイヤー達が多士済々とひしめき合っているメジャー・シーンの中でも特にヒット曲に直結するAORやコンテンポラリー・ロックのカテゴリーに属するシンガーは皆抜群の歌唱力を有しているのは皆さんご存じの事と思うが、その王道メジャー路線へ接近する程にどうしてもヴォーカリストの歌唱力に耳がいってしまうのは致し方がない事なんですよね… 前作では抑えめな歌唱だった事とポップでAORフレーバー香る楽曲に即した他所行きの歌い方をしていた為か強い悪印象にならなかったが、本作の幅広い表現力やエモーショナルな歌唱を求められる楽曲では、中域から高音域が中心で線が細くて今一つパワフルさに欠け、声の深みや情感タップリに歌い上げるといったポイントで薄味に聴こえ、求められる歌メロに応えようとして上ずり気味に高音域の声をふり絞っている事からその印象に拍車が掛かっているのかもしれないが、この手のメジャー感バリバリなコンテンポラリー・ミュージックを歌うには声の太さや求められるヴォーカル・メロディを余裕を持って歌い切れていないのが浮き彫りになってしまっている。 ハードドライヴィンするキャッチーなメロハー路線なら分厚いヴォーカル・ハーモニーで声の弱さや伸びやかさを補完したりスタジオワークで多少の修正を施す事も可能でしょうが、モロにヴォーカリストの歌唱力が全面に押し出されるスタイルのAORやコンテンポラリー・ロック路線には、現時点で Emmanuel Creisのヴォーカル・スキルでは十分に対応し切れておらず、バックのサウンドがキャッチーにゴージャスにフック満載で盛り上げようとすればする程にフラつき苦し気な歌声が居心地の悪さを強める悪循環に… 結果、80年代に良く居た楽曲はキャッチーで心地よいんだけど、ヴォーカルの歌声が弱くてブレイクし切れず数枚アルバムをリリースして姿を消していったB級産業ロック・バンドやB級メロディアスHRバンド達と彼等の姿がダブってしまうのが悲しい。 流石にその辺りの問題点にリーダーの Yvan Guillevicも気が付いているでしょうから、LIVEを重ねてさらに喉を鍛え Emmanuel Creisの歌唱力に磨きがかかるのをバンドらしく待つのか、それとも Emmanuel Creisのヴォーカル・スキルに合わせてバンドと言うか Yvan Guillevic自身の追求する音楽路線を多少変更するのか、はたまた新たにどんな要求にも応える実力派シンガーを連れて来るのか、まさかそのまま何も対策せずA級コンテンポラリー・ロックやAOR路線を追求しながらB級マイナー・バンドな立場に甘んじるとは考えづらいのですが、リーダーがどういう風に判断するのか次作でどういう選択をするのか続報を待ちたいですね。 フロントマンについてばかり厳しい文句を並べ立てましたが、バックのサウンドの方はと言うとリズム隊は完璧なコンビネーションを魅せソリッドで活力ある土台を形成し、キーボーディストも小洒落たセンスある音色や華やかなバッキングで楽曲を彩り、そして主役のギターはメロディアスにテクニカルにフックあるリフや魅力的でエモーショナルなソロを奏で、このアルバムで表現しようとしているメジャーなロックフィーリングを犠牲にする事なく巧みにポップミュージック的な感覚と非常にキャッチーな印象を備えている洗練されたサウンドを形成していて、前作よりも楽曲の密度が濃く、奏でる音色も深みが増しており、この手のAOR&ポップロックを好むリスナーに好意的に迎え入れられるのは間違いないだろう。 尚、フランス人のテクニカル・ギタリストでオランダのテクニカルHMバンドELEGYに在籍中の Patrick Rondatがゲストに招かれ、一曲で彼らしいテクニカルで流暢な速弾きギターソロ・パートを披露してアルバムに華を添えている。 とまれフロントマンについての苦言は全て私の独断と偏見によるものなのでそう思わない方や前作に引き続き如何にも80年代風なアルバム・ジャケットを見てビビッと何かを感じ取った方、上述したロックバンドのファンな方、そして80年代風メロハー・バンドがお好みであるならば本作はチェックしてみても決して損はしないだろう一枚であります。 Track List: 01. I Am The Night 02. Till The End Of Times 03. Call Of The Wild 04. The Last Time 05. Rock'N'Roll Queen 06. Living My Dreams 07. Hard To Believe 08. Call Me 09. Hard Life 10. Reach For The Stars 11. The Fire Still Burns 12. Keeper Of Desire HEART LINE Line-up: Yvan Guillevic (Guitars :YGAS、PYG、UNITED GUITARS、EMPTY SPACES) Emmanuel Shadyon Creis (Vocals :SHADYON、EQUINOX) Jorris Guilbaud (Keyboards :DEVOID、SHADYON) Dominique Braud (Bass :YGAS、EBH) Walter Francais (Drums :SHADYON)
by malilion
| 2023-06-21 14:00
| 音楽
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