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John Paul Strauss率いるUSシンフォ・バンドTEN JINNが、さらにスケール感を増した壮大なSFコンセプト作を6年ぶりに放つ!

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TEN JINN 「Ardis」'23

1991年に John Paul Straussと Jimmy Borelが中心になって米国Pennsylvania州で結成されたツイン・ギター&トリプル・キーボードの6人組プログレ・バンドTEN JINNが『Sisyphus』'17 に続き、間にギターピック付き限定100枚現物CD-R盤リリースの David Bowieトリビュート・アルバム『Ziggy Blackstar - A Tribute To David Bowie』'18を挟んで、オリジナル・アルバムとしては6年振りとなる5thアルバムをリリースしたので即GET!

バンドの歴史は30年以上となるが、これまでに僅か5枚しかアルバムをリリースしていない寡作な理由としては、結成初期から常時メンバーが流動的だった事や、中心人物でメインコンポーザー、そしてキーボード・プレイヤー、リードシンガーの John Paul Straussが3rdアルバム『Alone』'03を置き土産にスウェーデンへ移住するのに伴って、70年代に活躍した同郷USAプログレ・バンドHAPPY THE MAN譲りのクリアーなフュージョン的サウンドや、GENESIS、GENTLE GIANT、JETHRO TULL、QUEEN、SAGA等の一連のプログレ&ポンプ系のサウンドにAORやニューウェーブ、ハードロック要素や中世民族音楽等、様々な音楽要素を巧みに組み合わせ、キャッチーなメロディ、緩急あるダイナミクスで巧みな楽曲構成、精巧なオーケストレーション、そして耳を惹くインストゥルメンタル・パッセージをコンパクトにまとめ上げたUSバンドらしく鮮やかで爽快感のあるモダンでシャープな知性派シンフォニック・サウンドが好評だったにも関わらず十数年の活動でバンドが解散してしまった事が上げられるだろう。

バンド消失後、各メンバーもそれぞれの活動へ移り、中でもオリジナル・ギタリスト Mike MatierはUS産YES系シンフォバンドHELIOPOLISを結成し2014年にデヴュー作をリリースしたり別動隊バンドBOX OF SHAMANSでも2015年にデヴュー作をリリースするなどその人脈故にもUSアンダーグラウンド・プログレシーンで注目されるミュージシャンの最右翼へと名を上げていたり、初期作にゲストで招かれバンドに多大な貢献をしていたギタリスト Stan Whitakerは故郷Maryland州に戻り、HAPPY THE MANのメンバー達と新しいアルバムを作ったり、新バンドOBLIVION SUNで活動を開始しするなどローカルシーンでの活躍を続けていた。

TEN JINNは1999年から2000年にかけてSan Diego、Los Angeles、San Franciscoなど西海岸で絶えずギグを行い好評を博していた事から常にバンドの再結成が求められていたが、John Paul Straussは移住先スウェーデンのミュージシャン達とTEN JINNのセカンド・ギタリスト Kenneth Skoglundと新バンドを組んで活動中と元メンバー達の活発な動向もあってか再結成の気配は皆無であった。

このまま北欧の地で活動を続けると思われていた John Paul Straussだが、突如2004年に米国へ戻ると音楽学校へ入学し、2004年から2016年にかけて理論と作曲のM.M.(音楽修士)の学位を取得すると、学んだ知識とこれまでの経験を活かしたピアノとオーケストラの為に作曲された8つのパートから成る26分越えの交響曲『Sisyphus』を録音する為にTEN JINNを15年ぶりに再結成すると2017年に前作『Sisyphus』をリリースした訳ですね。

『Alone』制作時に北欧のスタジオ作業で環境が気に入り勢い移住したはいいものの即米国へ戻っるって、今から考えると『別に移住せんでも良かったじゃないか! 何故にTEN JINN解散させちゃったのよ!』とファンなら恨み言の一つも言いたくなるし、結果的に我流で無いハイレベルな作曲手法を正式に学んで創作者としてのレベルを John Paul Straussが上げる為にはTEN JINNの解散とここまでの長い長い時間が必要だったんだな、とは分かりはするんですが…まぁ、HELIOPOLISが生まれる切っ掛けにもなったし、良しとしますか…

メンバー全員にとって非常に重要な音楽的影響を与えたアーティスト、特に John Paul Straussのヴォーカリストとしての進化に最も影響を与えたアーティストに敬意を払う為、『Sisyphus』制作中の訃報を受けて David Bowieのトリビュート・アルバムの制作に『Sisyphus』'17 をリリースして直ぐに取り掛かったそうだが、残念ながらプログレ系の輸入盤店では取り扱われず、プログレ系メディアからも注目されていなかったので彼等の熱心なファンでもないとトリビュート・アルバムの存在を知らない方が殆どではないだろうか? 内容的にプログレでもなんでも無いのでプログレ系ファンはスルーしても特に問題はないだろうが、TEN JINNファン的には見逃せぬアイテムではあります。

さて久しぶりに届けられた新譜の内容ですが、本作は Jack Londonが1908年に発表した27世紀を舞台にした小説『The Iron Heel(鉄の踵)』からインスピレーションを得たコンセプトアルバムとなっており、700年前の20世紀初頭の米国では社会主義政党が下院と下院の両方で過半数を獲得し社会主義者の大統領が選出されアメリカを支配する寸前で、右翼は米国が社会主義国家になるのを警戒し、権力を掌握すると3世紀も続く悪質な全体主義国家を作り上げていた。

この抑圧的で独裁的な国家が崩壊すると新しい啓蒙の時代が始まり、B.O.M.(Brotherhood Of Man)と名付けられた年号が誕生する。

20世紀初頭の米国を支配するOligarchy(寡頭制)の物語が、混沌とした時代であるB.O.M.419年に『不思議の町』Ardisで働く学者 Anthony Meredithの目を通して語られていく。

彼は社会主義者 Ernest Everhardが寡頭制(アイアンヒール)の初期に書かれた原稿を発掘し、そこには新国家は主に労働力の搾取に基づいて成立する論説が記されていた。

この主張には裕福な科学者の娘 Avis Cunninghamや聖職者の Bishop Morehouseなど、誰もが賛同していた訳ではなかったが、自ら調査を行うと労働者達が如何に劣悪な環境で暮らしているかを知り、考えを改め Ernest Everhardの発掘した論説を受け入れる事に。

Avis Cunninghamは Ernest Everhardと結婚し、Bishop Morehouseは過激な説教を封じる為に国によって精神病院に閉じ込められ…

と、かなり複雑でダークな物語となっており、虐げられる人々は革命グループを結成し最終的に寡頭制政府を打破するまでの状況が描かれていく訳だが、そんな壮大な物語をアルバム一枚で描き切るのは難題だと誰もが予想する所なれども、バンドは果敢にこの困難に挑み小説の内容を知らなくともドラマチックで魅力的なサウンドトラックを提供してくれている。

楽曲は“映画的”に構成されており、前述の2つの時代、20世紀初頭と27世紀の過去と未来を行き来し、2つの視点を移動しながら、音楽的に対照的なストーリーを描くように仕組まれており、この正反対の2つの社会構造の並置こそが本作のミソであり、その為に物語の主要な登場人物についての具体的な言及は意図的に省かれ、リスナーの想像や考えに任せる仕掛けが施されている、良く有るプログレの小説インスパイア系コンセプト作とは一線を画す仕上がりとなっているTEN JINN渾身の力作だ (*´ω` *)

恒例のメンバー・チェンジも行われており、前作『Sisyphus』では専任ベーシストと専任キーボーディストを含まぬ4人編成だったが、David Bowieのトリビュート・アルバムの時点でゲストで招かれていた鍵盤奏者 Matt Brownがそのまま正式メンバーへ迎え入れられ、空席だったベーシストの座にはオリジナル・ベーシストで2nd以降バンドを脱退していた Matt Overholserが23年ぶりにバンドへ復帰、再結成作時に馳せ参じたセカンド・ギタリスト Ken Skoglundが脱退し、代わって彼等のデビュー作のプロデュースを担当し、以降もバンドのプロデュースやゲスト奏者として長年サポートに尽力してきた Kenneth Francisが初めて正式にギタリストとしてメンバーへ迎え入れられた新編成の6人組バンドとなっている。

再結成前はキーボードだけでなくMIDI Guitarも操るギタリスト Mike MatierのプレイやChapman Stickやキーボードも操るベーシスト Matt Overholtzerのプレイもあってシンセサウンド主体なSAGAっぽいカナダ産ポップスっぽく聴こえ、その印象に拍車をかけていたのがSAGAの Michael SadlerとVDGGの Peter Hammillを足して二で割ったような John Paul Straussの柔和で涼やかな歌声のイメージが大きく影響していたように思うが、再結成後はググッとサウンドに重みと壮大さ、艶やかさと深みが増した、ポンプ系の軽さが目だったキーボード・サウンドが華麗にして荘厳な所謂ユーロ・シンフォ・バンド群にも引けを取らぬクラシカルさとシアトリカルさが妖しくそして優雅に混ざり合った作風へと様変わりし、正にENID張りなド迫力のオーケストレーションをフィーチャーした美旋律の数々に驚かされた訳だが、続く本作では経年で初期よりもググッと渋味を増した John Paul Straussのエモーショナルな歌声と優雅に軽やかに舞い踊るかのような美しいピアノの音色を主軸に、Matt Brownのリズミックでグルーヴィなオルガンと Mike Matierの繊細でテクニカルなギターによる素晴らしいソロも盛り込みつつ、典型的な爽快感あるキャッチーなハーモニー・コーラスだけなく、移り変わる場面を描き出す不穏なイメージを思わす居心地の悪く不協和音の如くズレたYESっぽいコーラスなど手の込んだヴォーカル・アレンジ等が耳を惹く、パワフルでミステリアスな立体的リズム・ワークと斬り込んでくるシンセサイザーが意図的なレトロ・テイストで響き渡りながら、調和と不調和を繰り返しつつ螺旋を描くように一筋縄でいかぬ複雑で映画的な展開を見せ、摩訶不思議で幻想的な感覚を残して一気に駆け抜けていく。

一聴すると70年代末期、80年代初頭の混沌としたダークなUSプログレ風味の印象が耳を捉えるが、バンド一丸と成った勢い有る屈折して捻じれたような不穏感を与えるテクニカルな演奏とキャッチーなヴォーカルが絡み合いながら、ダークなメロトロン、リリカルなピアノ、繊細に爪弾かれるギター、優美なストリングス、SFっぽさを感じさせるシンセ、管楽器やヴァイオリンも加え、メロディアスにドラマチックに独特な翳りを漂わせつつどこか救いのある晴れやかな印象が残る高揚感と幻想美を湛えたシンフォニック・サウンドが、特に最後の数分間の70年代の偉大なプログレ・バンド達が取り入れ披露してきた様々なスタイルを示唆する多彩なキーボード・サウンドに導かれ、それまでの全てを総括しアルバムがポジティヴに締めくくられる流れは素晴らしいの一言に尽きるだろう。

前作から大きくサウンド・イメージを進化させ、アレンジ力や演奏技術のレベルを上げて来た印象が強い本作は、今までのアルバムは殆どの楽曲の作曲、作詞を John Paul Straussが一人で担当してきた訳だが、今回は殆どの楽曲でドラマー Mark Wickliffeが作曲に関与しており、それがコンセプト作という点以上に新たなサウンド・スタイルへ変化した最大の影響なのは間違いない。

初期作でお馴染みな元HAPPY THE MANの Stanley Whitakerがゲストで今回もギターを弾き、彼独特なプレイを聴かせてくれているのでHAPPY THE MANファンや彼個人のファンも要チェックであります。

色々と小難しいコンセプトや世界観なアルバムなので敬遠する方も多いかもしれないが、そう言った難解なポイントは全て無視してメロディアスで美しいサウンドに耳を傾けるだけでもテクニカルでキャッチーなシネマティックUSシンフォ・サウンドを楽しむ事も出来ますので、TEN JINNファンは勿論、ちょっとレトロ風味もあるリリカルでドラマチックなピアノが活躍するUSシンフォ・サウンド作がお好みな方や、壮大なサントラ風コンセプト作がお好きな方なんかにもお薦めな手の込んだ本作を、是非ご興味あるようでしたら一度チェックしてみて下さい。

Tracks Listing:
01. Elegy I
02. Brotherhood Of Man
03. Slaves Of The Machine
04. Say Aye / Bishop's Vision
05. Elegy II
06. Adumbrations: Beginning Of The End
07. The Red Virgin
08. Nightmare
09. Ardis / Elegy III

TEN JINN Line-up:
John Strauss     (Lead & Backing Vocals、Piano、Keyboards)
Mark Wickliffe    (Drums、Percussion、Bass、Electric Guitar、Keyboards、Backing Vocals)
Mike Matier     (Electric & Acoustic Guitars)
Matt Brown      (Keyboards & Backing Vocals)
Matt Overholser    (Bass)
Kenneth Francis   (Electric & Acoustic Guitars、Keyboards、Bass)

Special Guest:
Stanley Whitaker  Guitar solo “Say Aye”




by malilion | 2023-06-14 17:44 | 音楽 | Trackback
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