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東欧ポーランドのプログHMバンドANIMATEの21年デヴュー作を今頃ご紹介。

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ANIMATE 「Infinite Imagination」'21

東欧ポーランド南部の都市Bedzinにて、KRUKなるローカル・バンドで演奏していたベーシスト Przemek Skrzypiecを中心に2005年に結成された4人組プログHMバンドの、デジタル・フォーマットにてDL販売されていた3曲入りEP『2010』'10 でデヴューし、シングル『Back To Cold』'16 に続く初のフルレングス・アルバムを今頃にご紹介。

本アルバムはEPとシングルに収録されていた楽曲の再録ヴァージョンを含んでおり、EPの発売からほぼ11年後にリリースされた本作では、前任ヴォーカリストの歌声と2016年から加入した新シンガーの本作での歌唱力の違いや、バックのサウンドの完成度の向上具合も楽しめる一作となっている。

バンドは2005年に Przemek Skrzypiec (Bass、Samples、Synthesizers)と Marcin Trela (Guitar)、Sebastian Jezierski (Drums)で結成され、当初はRUSHタイプのサウンドを鳴らす3ピースのインストゥルメンタル・バンドであったが、長年に渡り Jesion Kowal、Andrzej Mista、Michal Gomulka、Tomasz Nowakowski、Robert Robin Niemiec等という複数のサポート・シンガー達に協力を仰いでTomasz Beksinski Progressive Rock Festivalへの参加や円形劇場での演奏などのLIVE活動やデモ制作を行い、次第に音楽性の変化と進化を遂げる中でEPやシングル音源を発表し、2018年から2019年にかけて録音された音源で構成されたデヴュー・フルアルバムを2021年にリリースするに至った。

フロントマン Robert Robin Niemiecの声質のせいでか、ちょっと聴き英国のベテラン・プログHMバンド THRESHOLDっぽく思える事もあるが、00年代以降のヘヴィさが際立っていた頃のDREAM THEATERのサウンドをベース(元々がRUSHタイプなバンドだったので自然な進化とも言える)に、東欧ポーランドらしいエキゾチックで冷ややかなメロディとモダンでデジタリーなタッチをサウンドに加え、随所に実験的な試みも行いつつ、ヴォーカルの伸びやかでキャッチーな歌メロを主軸に据えてテクニカルで複雑な展開は抑えめながらアレンジの妙で魅せる楽曲を披露している。

ダウンチューニングのダークでクランチーなギターは意外にメロディアスでアイディア豊富なリフが楽曲に絶えずフックを与え、デジタリーで所々にミステリアスでアトモスフェリックな雰囲気を醸し出すキーボードはあくまで主旋律を盛り立てる脇役ながらここぞと言う所で弾くカラフルでアクセントの多い耳を惹く旋律にセンスの良さが伺え、ギターとキーボードがユニゾンで紡ぐ素早いパッセージや巧みなリードパート、そして木目細かいクリーンなトーンのモダン・サウンドは如何にも東欧らしい美しいハーモニーを奏で、ソリッドでキレあるリズムワークは思いの他にドライヴしてHMらしいアグレッションとヘヴィなパワーを感じさせる見事な仕上がり具合だ。

ややもすると偉大な70年代の巨人達の残した遺産のエミュレートに陥り勝ちなプログレというジャンルではあるが、ゲーム・ミュージックからインスピレーションを得たシーケンシャルなキーボード・サウンドによる装飾が随所に施されている点などは、如何にも今風で70年代のバンド達には無かった要素を含む現代バンドの特徴と言えるだろう。

メロディアスでキャッチーなヴォーカルが軽やかに楽曲を彩る後ろで、ハードなグルーヴとメタリックなサウンドが奏でられる事で鮮烈なコントラストを成す瞬間や、一転アグレッシヴなザラつく咆哮が上手く調和する瞬間もあって、歌声と演奏のバランスをかなり考えて作曲されている事が分かり、伊達に長い年月を費やして練り上げた楽曲ではないのが伝わってくる所など、プログレ・ミュージシャンならではの高いインテリジェンスとプレイヤースキルが発揮された入魂のデヴュー作なのは間違いない。

ただ、だからと言って本作を絶賛するかと言うとそう言う訳でもなく、良い意味で悪目立ちする各プレイヤーのインタープレイが派手に飛び交う訳でもない、非常にバランスを考慮した総じて良くまとまっているアルバムなれど、際立つ程の独自性がある印象的なサウンドでもないし、驚く程に無謀な音楽的実験を行っている訳でもない、メロディアスな歌メロをパワフルに歌い上げるヴォーカルを楽曲の主軸に据えているからこそ変拍子を交え多彩に変化するバックの重厚で緻密なサウンドと比べると些か単調で起伏に乏しく深みが欠けて(歌唱スキル的に問題がある訳では無く、むしろかなり上手い)思え、東欧バンドにしてはUSプログHMバンド群に近しい感触のあるサウンドなのは珍しいが、こう言うとなんだがユーロ圏プログHMサウンドの範疇に行儀良く収まってしまっている、新人バンドならではの何か他バンドとの著しい差別化を感じさせる特徴的なプレイや音使いがもっと聴こえて欲しかった、丁寧に創られたB級ユーロ・プログHM作、それが本作への正直な感想でしょうか?

また、リーダーのベーシスト Przemek Skrzypiec が本作の楽曲の殆どを作詞しているのも関係しているのか、歌詞の方もプログレ系のお約束から外れる事ない、現実世界の残酷な風景を描き現状への警告を発し、様々な疑問を投げかけており、絶望や希望、激情と友愛を語るテーマを、シンガーの Robert Robin Niemiecはエモーショナルな歌唱で綴り精一杯表現しているが、些か楽曲のテーマの幅が狭くもう少しバラエティに富んだ題材や切り口、より深くパーソナルなシチュエーションから発せられた身近な言葉で語られる等の、定番から逸脱する冒険心やもっとヴォーカリストに自由に言葉を選ぶ裁量が与えられていたならば、もうちょっと個性的な音色や歌唱に繋がったかもしれない。

モダンUSプログHMバンド作ほどドライサウンドでパワーとスピードに任せグイグイと押しまくる展開が無い分、上品で耳に優しいサウンドとウェットなメロディに満ちたアルバムである点は大いに魅力的で個人的に大変好ましく、東欧産バンドならではのリリカルな音使いやメロディがもっと聴こえてくるとさらに良かったように思えますが、まぁデヴュー作に余り多くを求め過ぎるのも野暮なのは重々承知しているので、これ以上なんだかんだと文句を言うのは止めておきます。

とは言え、上記の文句は個性豊かな東欧プログHMバンドのデヴュー作として見た場合で、良く磨かれ、美しくプロデュースされ、丁寧にエンジニアリング(マスタリングはノイジーだが、これは生っぽさを強調する意図的なものだろう)された、メロディアスでキャッチーな歌メロを歌い上げるヴォーカリストを主軸に据えたモダン・ロック作としては十分以上に心地よく、自主制作盤と思えぬ高い完成度の作品だと言えますので、ハイテクをバリバリ聴かせる傾向の技巧的な作品をお求めでない、メロディアスなユーロ・ロック作がお好みな方ならちょっとテクニカルなプレイが聴こえてくる東欧ロック作品だな、くらいに思うだけで十分愛聴盤になるかもしれません。

残念ながら2019年末にフロントマンがチェンジし、現在は新シンガーに Janusz Rymarを迎え、また同じ時期に長らくオリジナル・メンバーであったドラマーの Sebastian Jezierskiも抜け、現在は Marcin Lipskiなる新ドラマーが迎え入れられているので、既に本作とバンド・サウンドのイメージが変化している事だろう。

現状、サウンドの質やプロダクションの質とは別に演っている音楽はB級プログHMなのは否めないので、さらなる向上とより深みあるアイディアと音色を聴かせてくれる事を期待して次作が今度は早く届けられるのを待つとしましょうか…

Tracks Listing:
01. Threshold
02. Force Gravity
03. Ghostmaker
04. Still Water
05. Back to Cold
06. A Web of Madness
07. Pleasant Addiction

ANIMATE Line-up:
Przemek Skrzypiec     (Bass、Samples、Synthesizers)
Marcin Trela         (Guitars)
Sebastian Jezierski     (Drums、Percussion)
Robert Robin Niemiec     (Vocals)


by malilion | 2023-04-03 09:46 | 音楽 | Trackback
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