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英国ロック界にMARILLION在り! 讃美歌の様に抑えがたく美しい、けれど闇より深い絶望が殷々と木霊する新譜をリリース!!

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MARILLION 「An Hour Before It's Dark ~CD+DVD Limited Deluxe Edition~」'22

80年代以降の英国プログレッシヴ・ロックを代表するベテラン・バンドが、前作『F.E.A.R.』から6年振りとなる19枚目のスタジオ・アルバムをリリースしたのを、かなーり遅れて今さらご紹介。

絶賛されチャート上位にランクインした『F.E.A.R.』'16 は政府と国を動かす官僚に対する暗く非難的なコメントと強烈なメッセージ(EU脱退騒動やスコットランド独立問題等々色々ありましたからね…)作で英国人である彼等にとって身近な問題を扱ったアルバムだったのに対し、本作では前作のストイックさを継承しつつも気候変動やパンデミック等のよりワールドワイドな問題を扱っており『陽が落ちる迄まだ一時間ある』なる意味深なアルバム・タイトルも、世界を取り巻く様々なキナ臭い情勢と現在進行形の無視出来ぬ問題を憂えるバンドの心情を象徴しているのは間違いない。

プレスリリースによると本作のアルバムタイトルは『子供が外で遊ぶ事を許される最後の一時間、気候変動に関する時間との戦い、或いは人の人生の最後の数分間を指しているのかもしれない。何を表しているのかは、聴いた貴方自身が決めて下さい』との事で、黄昏時を象徴に据え相変わらず示唆に富んだ内容の作品を届けてくれるものだ。

こういった警鐘然としたややもすると説教染みた作風はエンターテイメント業界やショービジネス界では敬遠されがちだが、既に商業主義から解放され企業を介さずファンと直接やり取りしてバンド運営を行う音楽ビジネスに革新をもたらした英国で最も毅然とした孤高のバンド、Steve Hogarthをフロントマンに迎えた『Seasons End』'89 以来数十年変動の無い鉄壁の5人MARILLIONならではの作品と言えるだろう。

ジャケット裏に19曲と大量のクレジットが明記されいるが、実際には4章の劇的でドラマチックな組曲を中心とする7曲+ボーナス・トラックという構成となっており、組曲だから難解と敬遠するのは早計で、殆どの楽曲が四分台の小曲が連なって大きな楽曲を形作っている本作は、未来への希望が感じられぬ終末論的な思考やパンデミック・ウイルス、大量絶滅、気候変動等の問題を切々と Steve Hogarthが囁き続ける闇深い歌詞とは対照的に、只ひたすらメロディアスで抑えがたく美しい幽玄な旋律をバンドは奏で続け、特に浮遊感のあるコーラスとエモーショナルで咽び泣くかの様な Steve Rotheryの弾くギターが七変化に感情の叫びを上げながら滔々と流れ行き、気が付けば壮大な抒情詩がアッという間に終ってしまっている、まさにそんな不可思議な感覚に囚われる一作だ。

荒涼とした雰囲気と儚い希望、美しいメロディとダークで内省な歌詞、これら全てが蛇行し、捻じれ、回転し、けれどエネルギッシュに展開し、なのにヴォーカルは淡々とした歌唱中心で、Steve Hogarthの穏やかな歌声は相変わらず表現力豊かで思慮深く瞑想的でスピリチュアルなものの下手をすると地味で退屈な楽曲になりそうな所を Steve Rotheryの Dave Gilmourを思わす奇妙でエモーショナル、それでいてスリリングでダイナミックなギター・ワークは絶妙で、まるで救世主のように楽曲を蘇らす高揚感と陶酔感を伴ったエレガントな奔流の煌めきは、伊達にキャリアを重ねていないMARILLIONだけが成せる唯一無二の手法だろう。

物質主義の呪いと救いへの示唆、終末論的な思想を導く気候変動と環境破壊問題、大地を穢す犯罪行為と地球とそこに住む人々を大切に思う気持ち、パンデミックをテーマに世界の医療従事者に捧げる哀悼と感謝、といった重みのある4つのテーマを持った組曲の、仄暗く難解でけれど癒しと救いに満ちた美しい楽曲の数々は、ドライヴ感に満ちたアンサンブルと瑞々しい躍動感を放ちながら、室内管弦楽、ハープ、女性ヴォーカリスト、合唱団らを迎え、このバンドらしい清涼感と鮮やかな色彩に満ちた、さらなる発展、進化を遂げたバンドの真摯な姿とリリカル極まりないサウンドが味わえるドラマティックで素晴らしい一作に仕上がっているので、プログレあるあるな内省的で暗く説教臭い内容の作品はちょっと、と敬遠する方にこそ是非本作に耳を傾けて欲しいですね。

ただ、素晴らしい仕上がりのアルバムなのは確かなのですが『本作はプログレ、又はシンフォ作なのか?』という疑問は些か残るものの、Steve Hogarthの人道的、社会的な見解を示す己の感情を率直に表現した崇高な歌詞を発露するユニット=MARILLIONと半ば成りつつある現状、既に虚仮脅しやハッタリのテクニカル・プレイから完全に脱却して孤高の独自性と創造性を発揮する彼等に最早カテゴリーなど全く無意味なものでしかないに違いないのでしょう。

Peter GabrielのReal World Studioで本作は録音され、デラックス・エディションに付随するDVDに収められたメイキング・ドキュメンタリーもそこで撮影されており、絶望と希望と楽観に満ち溢れたこの素晴らしく魅惑的で美しいアルバムは、恐らくここ数年でMARILLIONがリリースした作品の中でも、一二を争う魅力的な作品だ♪(゚∀゚)

また、アートワークも非常に独創的で、お馴染みのコラボレーターである Simon Wardがデザインした色調見本やカラーガイドをもじってエンブレムのようなモダンなデザインになった一見不愛想で、けれど多くの示唆を含むジャケットが実に特徴的と言えましょう。

バンド名もタイトルも明記されていないシンプルなジャケットに、並々ならぬ本作の完成度への自信とベテランらしい風格を感じますよね。

予定通りなら、MARILLIONは9月にイングランドとスコットランドで9回のツアーを既に行ったハズだ。

叶う事なら是非、再び来日してそのエネルギッシュで素晴らしいライヴパフォーマンスと美旋律の数々を披露して欲しいものです(*´ω`*)

Tracklisting:
01. Be Hard On Yourself
 i. The Tear In The Big Picture
 ii. Lust For Luxury
 iii. You Can Learn
02. Reprogram The Gene
 i. Invincible
 ii. Trouble-Free Life
 iii. A Cure For Us?
03. Only A Kiss (Instrumental)
04. Murder Machines
05. The Crow And The Nightingale
06. Sierra Leone
 i. Chance In A Million
 ii. The White Sand
 iii. The Diamond
 iv. The Blue Warm Air
 v. More Than A Treasure
07. Care
 i. Maintenance Drugs
 ii. An Houre Before It’s Dark
 iii. Every Call
 iv. Angels Of Earth
08. Murder Machines (12inch Remix)

MARILLION Line-up
Steve Hogarth  (Lead & Backing Vocals、Keyboards、Percussion)
Steve Rothery  (Lead & Rhythm Guitars)
Mark Kelly     (Keyboards)
Pete Trewavas  (Bass、Backing Vocals)
Ian Mosley     (Drums)



by malilion | 2022-10-03 16:00 | 音楽 | Trackback
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