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米国シアトル産インディ・プログレ・バンドが3年ぶりにレトロ・フューチャー風な2ndアルバムをリリース!!

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MOON LETTERS 「Thank You From The Future」'22

アメリカ西部ワシントン州のシアトルを拠点に活動する幾つかのローカル・プログ・メタル・バンドのメンバー達が集って2016年に結成された、J.R.R.Tolkienでお馴染みな『The Lord Of The Rings』に登場するドワーフが発明した秘密文書法からバンド名をとった5人組キーボード入りUSA産レトロ・プログレ・バンドが2019年のデヴュー・アルバム『Until They Feel The Sun』に続き2ndアルバムを3年ぶりに自主リリースしたのを即GET!

メンツは前作と変りなく、ギタリストの Dave Webb (SPACEBAG、WAH WAH EXIT WOUND)、リードヴォーカリスト兼フルート奏者の Michael Trew (AUTUMN ELECTRIC)、ドラマーの Kelly Mynes (PANTHER ATTACK!、BONE CAVE BALLET)、ベーシストの Mike Murphy (AUTHENTIC LUXURY)とキーボーディストの John Allday (CHAOS AND COSMOS)の5人で、全員未だに元のバンドにも所属して鋭意活動中だ。

海外のプレスに好評を博したデヴュー作は、初期GENESIS+YES風なシンフォ系あるあるサウンドをベースに、KANSAS、RUSH、KING CRIMSON等の影響をチラつかせつつ、フロントマン Michael Trewがフルートも奏でる事でJETHRO TULLっぽさを加味し、キーボーディストとベーシストが揃ってトランペットも演奏する事でオーケストラ風アレンジを施した管楽器サウンドをバンドへ持ち込んだ、より70年代初期風に寄せたサイケ風味も漂わす印象的でレトロタッチなサウンドであったが、続く本作ではメランコリックなメロディとレトロなタッチはそのままに、プログレ、HR、シンフォ、JAZZ、ブルース、サイケデリック等を融合させ、より多様なアプローチと前作同様なファンタジー風味に加えて今回はSF的想像力を刺激する空想も織り込んだひと捻り効いたユニークでモダンなスタイルを構築しながら、ジェットコースターの如く目まぐるしく展開し変則リズムを伴ってメロディが錯綜する、限界へ挑むかの様な風変わりな楽曲はさらなる成長を遂げた魅力的でオリジナリティー迸るモダン・プログレ・サウンドとなってリスナーに挑戦と関心を与えるに違いない。

フロントマの Michael Trewが語る所によると
『このアルバムでは、バンドとしての素晴らしい感覚が得られたと思う。曲のアイディアはあらゆる方面から持ち込まれ、かなりの量の共同作曲が行われた』
『デヴュー・アルバムとは異なり大きなコンセプトは無いけれど、トラック2~4はC.S.ルイスの宇宙三部作にインスパイアされた歌詞の“The Astral Projectionist”という3曲から成る組曲になっているんだ』
『トラック1と6は、青春、カルト・オブ・パーソナリティ、終末をテーマにした個人的な物語で、トラック5と7は、人間の現在と未来の苦境に触れているよ』という事らしい。

さて、本作を耳にしてまず誰もが驚かされるのはリードヴォーカルのスキル向上(実は歌の巧さはそれ程変わってないがアプローチが変化し良く聴こえてる)、及び爽快なヴォーカル・ハーモニーの技術向上が目覚ましい事だろう。

前作は米国産バンドながら野暮ったいヴォーカルや怪しい裏声ハーモニーがマイナー・インディ・バンド特有な独特の鄙びた味わいを醸し出していた訳だが、反面爽快感は少なくアメリカ産バンドらしい如何にもなキャッチーなフックやヴォーカル・パートの弱さが目立っていたのは否めず、そのウィークポイントをしっかり補強するだけでなく、前作では感じられなかったGENTLE GIANT風の多重コーラスや複雑に交差するハーモニー・ヴォーカル・パートを導入する事で個々のヴォーカル・スキルの低さを補いつつ、豪快さが持ち味なUSAプログレ・バンドらしい怒涛の畳み掛け疾走パートで圧倒する楽曲に、カラフルな彩りと独特なアクセントをつける事に成功している。

この辺りはメンバー全員が既に他のバンドでの活動で腕を磨いてきた事もあって、やはり本バンドの楽曲を観客の前で披露した時の反応をチェックし、何が欠けているのかを理解して己のサウンドを発展させていくLIVEサーキットを主軸に厳しいショ-ビジネス世界で活動する米国ミュージシャンらしい所で、完成度やアーティスティックな拘り故にスタジオに篭り勝ちなユーロ圏のミュージシャン達との明確な違いとも言えるだろう。

またサウンドの方も前作より幾分かレトロ・タッチが弱まって、特に Steve Hackettッポさを感じさせるギター・サウンドは硬質さとメタリックなタッチが増しているのが分り、単なる70年代リヴァイヴァル・サウンドから大きく踏み出した感が強まっていて、今回はIQ、EL&P、WOBBLER、などの影響も垣間見せる独特に屈折した米国産バンドらしからぬウェットな感触の強いメランコリックなメロディをベースに、歯切れ良くヘヴィなギター・リフの波状攻撃と奇妙なメロディを紡ぐソロ、伸びやかでパワフルなヴォーカル、涼やかさよりミステリアスさ増し増しなフルート、妖しげでムーディ、それでいて華麗で繊細な調べを奏でながら時にスペイシーで楽天的なシンセサイザーも飛び出しつつ如何にもプログレな音の壁(メロトロンもバッチリ!)を叩きつけるように構築するキーボード、Chris Squireを彷彿とさせる図太くウネるようなメロディアスで良く動くベース・サウンド、手数が多くドライヴ感ある鋭いドラムのビートが一体となってユニーク且つ魅惑的なシンフォ・サウンドを鳴り響かせ、ハッピーなファンタジーからダークなSF風まで様々に楽曲は表情を変えながらそれぞれがヘヴィなトーンに変化していき、よりシリアスなテイストとサウンドのエッジがアルバムが進むにつれて美しく力強く研ぎ澄まされていく、彼等が本作で1つ上のレベルへステップアップし魅力的で独自色強いモダン・サウンドへと脱皮する様を目の当たりにしたかのようなスリリングな興奮を与えてくれる!

前作は些かアイディア先行で頭デッカチなとっ散らかった纏まりの悪い所が目立っていたが、本作でそういった消化不良気味だった雑多な音楽要素が纏まりをみせてスタイリッシュさが増し、さらに前作以上にパワー圧しな楽曲展開が増えてサウンドの勢いが増したのが聴き易さの向上に大きく働いているようにも思えますネ。

全体的に楽天的に未来は明るい風に希望的な歌詞で綴られていくが、その実未来への不安や警告をしっかりと発していて、最終的にアルバムの他の部分が持つ空想的な性質とは対照的な非情で重苦しい現実を伺わす楽曲で締めくくられており、空想的で楽天的だった70年代のプログレ・バンド達と同じ事をプログレの巨匠達に挑まんとする彼等は繰り返していない。

我々の世界と、私達が自ら招いた病、冷酷な企業や無慈悲な特権階級の責任を問うことを拒んでいる現在進行中の地球規模の大災害に立ち向かわねばならないのに、何もせず手をこまねいている我々の怠慢や無秩序さを嘆き、我々が破壊しつつあるこの惑星に残された時間や、ユートピアを夢見ながらディストピアへと刻一刻と近づている現実への警告を、SFストーリーやミステリー、瞑想的に様々な神話的な生き物をモチーフに未来と過去を散りばめながら綴っている本作の歌詞は、プログレ・バンドにありがちな未来への警告、と大雑把に言ってしまえばそれまでだが、最終的に冷酷な現実を直視する点が現実逃避でファンタジックなサウンドへ逃げ込んでいたピッピー文化やサイケデリックな音楽を享受していた当時のアーティスト達とは一線を画する、21世紀のバンドとしてのシリアスな持ち味と言えるだろう。

ワシントン州シアトル出身のインディ・オルタナ・カントリー・バンドBAND OF HORSESの Robert Cheek とバンドによってシアトルでプロデュースが行われ、シュールレアリストの Mariano Peccinettiがレトロ・フューチャー風のカラフルなアートワーク『Visiting Of The Children』を手がけた本作は、決してUSAバンドお約束のキャッチーでハッピーなサウンドではないが、前作よりアメリカン・テイストが増してかなり聴き易くなっており、新鮮でオリジナリティありダイナミックな楽曲が心地よくも独特の奇妙な引っ掛かりのある屈折したメロディを響かせる、挑戦的で複雑な楽曲構成とレトロ・プログレ・サウンドは一聴の価値はありますので、他のUSAプログレ&シンフォ・バンドには無い、癖の強く独特で魅力的なサウンドを是非チェックしてみてください。

Track list
01. Sudden Sun
02. The Hrossa
03. Mother River
04. Isolation and Foreboding
05. Child of Tomorrow
06. Fate of the Alacorn
07. Yesterday Is Gone

MOON LETTERS Line-up:
Michael Trew   (Lead & Backing Vocals、Flute、Acoustic & 12-string Electric Guitar〈On Track 5〉、Percussion Experments、Barbaric Yawps)
Dave Webb   (Electric Guitars、Metal Toolbox、Shovel、Primordial Grunts)
John Allday   (Electric Piano、Organ、Synthesizers、Virtual Orchestra、vocals、Mercurial chant)
Mike Murphy   (Electric Fretted & Fretless Bass、Vocals、Percussion、Earthen Grumbles)
Kelly Mynes   (Drums & Percussion)



by malilion | 2022-08-27 18:45 | 音楽 | Trackback
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