![]() 天才的ヴァイオリン奏者にしてマルチ・プレイヤー Andy Didorenko率いるロシアン・シンフォニックの最高峰バンドLOST WORLD BANDが、去年再録&リマスターされリイシューされた彼等の02年デヴュー・アルバム『Trajectories』以前に制作されていたカセットテープ作品2本を新録にてリメイクしたアルバムがリリースされたので即GET! ソ連崩壊(今や懐かしい出来事ですね…)直後の1992年3月から6月頃にかけて録音された本作は、1990年代初頭から Andy Didorenko(Violin、Vocals、Bass、Guitar、Keyboards、etc...)と Vassili Soloviev(Flute、Vocals )が最初期からLOST WORLD BANDのコアを形成し、90年代初頭の世界的な音楽の流行やメジャー・ミュージック・シーンとは一切無関係な、真に芸術的で冒険的な、若き音楽家がピュアな創作活動を行っていた記録と言えるアート・ロック作だ。 冒頭の1曲目はイントロダクションの様なものでオリジナルのカセット音源をそのまま再収録しているが、それ以外のオリジナル音源はもはや今日の品質基準を満たしていない低音質であった事から、カセット作はデモ音源と考えて新たに2018年~2020年に一からレコーディングし直し、アルバムのイメージを完全に再構築しつつ、さらにドラマーによるドラムムパートの初のレコーディング(デヴュー時の彼等はドラマー不在)音源と歌詞の書き下ろし等を含む新録音源集となっている。 2020年に再録&リマスター&ボートラ入りでリイシューされた『Trajectories』が、惜しくも早逝した Vassili Solovievの残した最後の音源かと思っておりましたが、2014年に本作の音源全体を再構築しなければならぬ事をメンバーが認識し、Vassili Solovievはフルートとヴォーカル・パートを『Spheres Aligned』'19 のレコーディングから間もない2018年6月某日に2日間にかけて録音しており、2018年5月から Andy Didorenkoが残りの全ての楽器パートを録音し直す(一部、オリジナルの演奏パートも収録している)作業を開始したと言う事から、本作のリレコーディング、そしてオリジナル演奏パートが Vassili Solovievの残した最後の音源と言う事になるのでしょう。 長年の相棒である Vassili Solovievの早逝だけでも大きなアクシデントだが、2020年は全世界的なパンデミックによって世界中のミュージシャンがその活動を停滞させる中、同じように Andy Didorenkoもアパートに閉じ込められてしまったらしい。 だが、めげることなく Andy Didorenkoは本作の作業を続け、オンラインで若く多才なフリーランサー・ドラマー Matt Brownを見つけると、ロンドンの彼のスタジオでのドラムトラック録音を依頼し、11月から12月にかけてミックス&マスタリングを行い、約30年ぶりに本作を完成させ、こうして無事リリースへ漕ぎつけた訳だ。 諸々のアクシデントを思うと、下手をすると本作は完成しなかった可能性が高かった訳で、これは偏に相棒 Vassili Solovievが遺した音源を無駄に出来ないと Andy Didorenkoが必死に作業をしてくれたお陰なんでしょうね……麗しき友情、ってヤツですな(*´ω`*) さて、本作の内容の方はと言うと、一聴して驚かされるのはデヴュー作で聴けた暴走列車の如き怒涛の勢いと迸るスピード感は見当たらず、ヒステリックなまでにハイテンションでスリリングな咽び泣くヴァイオリンが聴こえてこない点だろう。 寧ろ正反対な、柔らかく繊細なアコースティック・タッチなギターや、クラシカルで艶やかなストリングス、軽やかなフルートの音色が香る70年代初期のアートロック風サウンドで、デヴュー作『Trajectories』でも感じられた初期KING CRIM風な翳りのある密やかなタッチや、フルートの使われ方やアレンジにJETHRO TULLの影響を感じさせ、如何にもモスクワ音楽院出身らしいインテリジェンス漂うクラシカル・アンサンブルも織り交ぜたサウンドには叙情感が色濃く、そして隠しようもなくロシア然とした陰が見え隠れするメロディは儚く、孤独な郷愁を美しく響かせている。 ただ、完成度という点で見ると些か本作の印象は散漫と言わざるを得ず、公式デヴュー前のデモ的カセット作なのだから当然と言えば当然だが、まだまだ多岐にわたる音楽要素が整理されきっておらず、サイケデリック、カンタベリー、クラシック、ジャズ、フュージョン、プログレ、ポップス等のアイデアを貪欲に取り入れようとした弊害か、各音楽要素が異質過ぎた為か、インストゥルメンタル・テクスチャーがそれぞれ遊離したように聴こえる音楽的なまとまりに欠けた作品なのは残念な点と言えよう。 それでも再録されたサウンドは高品質だし、Andy Didorenkoが英語で歌う朴訥としたヴォーカル・パートもアートロック然とした本作には良くマッチしており、ヴァイオリン、フルート、ギター、ハープシコード、オルガン、ピアノをクラシカルに配した楽曲のリリカルな響きは後の他で聴く事が出来ぬ独特の魅力が既に見え隠れしており、暴走バカテク野郎のバックボーンが窺い知る事が出来る貴重な一作なのは変わりない。 尚、本作は限定自主制作デジパック盤なので、お求めの方はお早目に入手される事をお薦めします。 どうやら国内盤もリリースされる模様なので、オリジナル盤やデジパック盤にこだわらない方なら国内盤リリースを待ってもなんの問題もありませんけどね( ^ω^ ) LOST WORLD BAND Line-up: Andy Didorenko (Violin、Vocals、Bass、Guitar、Keyboards、etc...) Vassili Soloviev (Flute、Vocals ) Matt Brown (Drums)
by malilion
| 2021-02-25 19:54
| 音楽
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