CATHEDRAL 「Tom Doncourt And Mattias Olsson's Cathedral」'20 70年代英国プログレからの影響を見事にオリジナリティへ昇華したファンタジック・サウンドを構築した70年代末期カルトUSプログレ・バンドにして、USアンダーグラウンド・シーンに金字塔の如く輝き今なお70年代USプログレ屈指の超弩級作とされるに『Stained Glass Stories』'78 をリリースした事でその名を知られるCATHEDRALが13年ぶりに3rdアルバムをリリースしたのを、ちょい遅れてGET! '78 『Stained Glass Stories』 Line up Tom Doncourt (Keyboards、Glockenspiel、Percussion、Sounds) Fred Callan (Bass、Moog Bass Pedals、Vocals) Paul Seal (Lead Vocals、Percussion、Bass Pedals) Rudy Perrone (Acoustic & Electric Guitars、Vocals) Mercury Caronia Ⅳ (Drums、Cymbals、Gongs、Vibes、Bells、Kettle Drums、Assorted Devices、Percussion) 03年にオリジナル・ベーシストの Fred Callanの呼びかけで成された再結成の後、29年ぶりとなる2nd『The Bridge』'07 が生み出されるものの、その時点でオリジナル・ギタリスト Rudy Perroneに替わってシンセギターやチェロ、サックスまでプレイする David Doigが新たなギタリストとして迎えられ、それ以外はオリジナル編成でしばらくLIVE活動を続けるものの既に解散して長い年月を経ていた事もあって各メンバーの音楽的嗜好も異なっていた上に再結成の音頭取りであった Fred Callanが活動拠点をラスベガスへ移したのがきっかけとなり、バンドは再び09年に解散している。 '07 『The Bridge』 Line up Tom Doncourt (Keyboards、Mellotron、Theremin、Flute、Percussion) Fred Callan (4、5 & 8 String Basses、Fretless Bass、Moog Bass Pedals、Sounds) Paul Seal (Lead Vocals) David Doig (Acoustic、Electric & Synth Guitars、Sax、Cello) Mercury Caronia Ⅳ (Drums、Gongs、Bells、Tympanis、Assorted Percussion、Device) さて、13年ぶりの新譜となる本作は少々状況が異なっていて、まずタイトルが示すようにキーボーディスト Tom DoncourtとANGLAGARDの元ドラマー Mattias Olssonを中心に制作されたプロジェクト作であり、厳密な意味でのCATHEDRALの再々結成作でなく、さらに非常に残念な事に本作は Tom Doncourtの遺作となっている。 生前 Tom Doncourtが Mattias Olssonとのコラボを通じてCATHEDRALとANGLAGARDの音楽性をMIXしたような方向性の新作を構想していた事を考えると本来は新たな別プロジェクト・バンドを名乗るべきなのかもしれないが、もう Tom Doncourtの奏でる音楽は聴けないのだし、そもそもこの二人によるコラボレートは永遠に叶わぬのだから、記念的遺作として Tom Doncourtに敬意を表して Mattias OlssonがCATHEDRALの名を冠した作品にしたのかもしれない。 Tom Doncourtは文字通りバンド創設の中心人物だった訳だから、元メンバーの誰もその事で苦言を呈するような人はいないだろうしね。 一つ残念なのは、本作の音源は Tom Doncourtの命が尽きる前に全てが完成しなかった事で、2019年3月に亡くなった時点で『95%』完成していたのは二曲だけだったらしい…さぞ、無念だった事だろう… そういう訳で、生前に Mattias Olssonとディスカッションした内容や、楽曲のアイディア、楽曲構想のデモ等を元に Mattias Olssonが多くのゲスト奏者の力を借りて仕上げを行っており、ちょっと前にリリースされ、来年には続編2ndアルバムがリリースされる Robert Berryが Keith Emersonと生前に交わした楽曲アイディアや作曲データを元に一人でアルバムを完成させた『3.2』とイメージがダブってしまい、本プロジェクトにハッキと刻み込まれている深い悲しみと、同時にその刺激的な創作スタイルの為もあってか、なかなか冷静にその音楽に耳を傾ける事が出来ません…(´д⊂) 本作のもう一人の主人公である Mattias Olssonは、北欧ヴィンテージ・リバイバル・プログレ・バンドANGLAGARDでの活躍を筆頭に、THE DEVIL'S STAIRCASE、DOSKALLE、IL TEMPIO DELLE CLESSIDRE、IN THESE MURKY WATERS、ISOBAR、CAUCASUS、WHITE WILLOW、THE WINTER TREE等の英米国籍問わず様々なシンフォ&プログレ系バンド、プロジェクトだけでなく映画のサントラやセッション等への参加など、他にもジャンルが多岐に渡り過ぎて知られていない活動等も含めると信じられぬ程に生産性の高いミュージシャン、サウンドエンジニア、プロデューサーで、スウェーデンのストックホルム近郊でレコーディングスタジオも経営しており、そこで自身の音楽だけでなく、他のミュージシャンの音楽も録音・プロデュースしている人物で、自身の死期を悟っていた Tom Doncourtが全ての制約から解き放たれた最期の音楽活動の相棒に選んだだけあってその腕前は折り紙付きだ。 本作は二つの長い曲と短い曲で構成された九つの楽曲で構成されており、その殆どが二人の長所を生かした変化に富んだコンビネーションとアンサンブルが楽しめるインストゥルメンタル曲で、神秘的で清らかなシンフォニックなモノから繊細で感動的なメロディが美しいモノや、即興的で実験的な民族音楽的要素も漂う邪悪でヘヴィなダークなモノまで、収録曲の方向性は非常に幅広く、Tom Doncourtが操るメロトロンを筆頭にそのサウンド全般には期待通りにヴィンテージ・キーボードのテクスチャーがふんだんに使われてはいるが、Tom Doncourtと Mattias Olssonは CATHEDRALの名を使いながらもバンドのオリジナル・スタイルを再踏するのではなく新たに再構築したサウンドスタイルを提示し、結果的にソレがCATHEDRALとANGLAGARDの音楽性を彷彿とさせる独自性あるダークでシンフォニックなサウンドを生み出しており、それにも関わらず KING CRIMSON(“Red”期の)、GREENSLADE、GENESIS(Steve Hackettの『Voyage of the Acolyte』ッポくもある)、GENTLE GIANT、ISILDURS BANE(パーカッションの存在感が強い)等のバンドを思い浮かべる要素が透け見えるものの完全に一要素として音楽に溶け込んでいて、『歌』パートは少ないが、変わりにメロディックなキーボード・パッセージの多くが『ヴォーカル』的な使われ方をしている本作は、シンフォニック&プログレッシヴ・ミュージックを愛する人にとって非常に魅力的に聴こえるだろう。 Mattias Olssonが語る所によると『信じられない程リラックスしていて、オープンで楽しく、たくさんの話を共有したり、冗談を言ったり、議論したりした…これらの会話や思い出は永遠に私と一緒にあり、私の世界の聴き方や見方を変えてくれたよ』 『即興演奏をベースに、編集やコンピューター入力を殆ど行わず、可能な限りライヴで録音されたこの音楽は“安全ではなく、常にバラバラになりそうな状態である事”が求められていたんだ』 『変で、面白くて、うるさくて、正直に。綺麗にしてはいけない。インクの汚れ、音程のズレたメロトロン、そして奇妙なオフビートのTomのヒットを残しておくんだ。そこに本当の感情があるから….隠れて興奮して震えているんだ』 『私達が共有してきた友情と、お互いに持っていた愛と尊敬の念が、自由で安全に創造し、探求し、楽しむ事を可能にしてくれたという事を、このアルバムを“音のポラロイド”と呼んでいるんだが、ロングアイランドのあの部屋で実際に何度も何度も何度も聴いて、体験出来る何かがある事をとても誇りに思っている』 Mattias Olssonは、本作の共同作業プロセスを『お互いの音楽的な文章を仕上げる』と表現しているが、本作を聴いていると非常に魅力的なユルさが確かにサウンドのそこかしこから感じ取れ、主にスケッチや断片的なアイディアから構築された多様な録音データは非常に良くまとまっているし、シンフォニックな要素もあるがソレだけでは全てを語りきる事は出来ず、実験的な試みの余地を十分に残したその特異なサウンドは、緻密に計算され、手の込んだプロデュースを成されて創り上げられた音楽とは対極にある、自然体な無制約の音の奔流のような、即興的で危うく、非常にあやふやで、けれどそれがとても魅力的な、そんな不思議な感覚が伝わってくるのが分かると思う。 ヘヴィなリズムと荘厳でメランコリックな雰囲気を醸し出しているキーボード・サウンドが溶けるように広がり、複雑で繊細なサウンドがダークな叙情感ある楽曲を形作るかと思えば、アコースティック・ギターが散りばめられた、牧歌的なSteve Hackett時代のGENESISの雰囲気が漂い、甘く舞い上がるメロトロンと煌びやかなピアノ・パートが聳え立つ音の壁のように迫ったり、ダークで陰鬱なベース・リフと巧みな鍵盤捌きが交互に鳴り響く上を聖歌隊とKING CRIMSON風のエッジあるギターが交差するスリリングな楽曲や、繊細なアップライト・ピアノが奏でられ、フルート、ヴァイオリン、チェロ、女性コーラスが合わさって美しいオーケストラのようにウネるミステリアスなストリングス・サウンドとダイナミックで不協和音のようなパーカッシヴなトライバル・セクションが渦巻くサウンド等、そして楽曲のそこかしこに顔を出すボイスサンプルも使用した浮遊感あるヴォーカル・パートの数々がこのアルバムの不思議で、それでいて刺激的で絶望的な個性を際立たせているのは間違いない。 全体的なサウンドの印象は Mattias Olssonが仕上げた事からも予想出来るように、KING CRIMSON風サウンドを現代的なモダン・サウンドへ進化させつつレトロな感触を色濃く残した即興性あるシンフォ・サウンドとなっており、メロトロンを始め、ハモンド、ムーグ、ピアノ等にオーケストロンやオプティガンなどCATHEDRALらしいヴィンテージ系楽器を交えてANGLAGARD張りなダークな幽玄さと叙情感を醸し出しながらも、トライバルなパーカッションで軽やかにリズミックなボトムを構成する、ヘヴィでダークだけれど重苦しいばかりでなく、荘厳でシンフォニックだけれど奇妙な浮遊感がある、ある時は爽快で、ある時は感動的に美しく、ヴィンテージとモダンな音色が複雑に交差する摩訶不思議なサウンドであり、プログレッシヴ・ロックとして聴く価値が有るだけでなく、じっくりと時間を費やして味わうべき価値のある作品(Tom Doncourtの墓標でもある)だ。 なお、日本盤はボーナストラックを一曲収録しているので、音源マニアな方は少々割高だが国内盤を購入されるべきだろう。 CATHEDRAL Line-up: Tom Doncourt (Mellotron 400、Chamberlin M1、Moog 15 Modular、Hammond Organ、Grand Piano、Yamaha CS-30、Ondea、Bird Organ、Wurlitzer Electric Piano、Clavioline、Hammond Solovox) Mattias Olsson (Drums、Tuned、Untuned & Detuned Percussion、Electric Guitars、Baritone Guitars、Wurlitzer Electric Piano、Turntables、Speak & Read、Vako Orchestron、Optigan、Gizmotron、Chamberlin Rhythmmate) with: Hampus Nordgren-Hemlin (Electric Bass、Additional Electric & Acoustic Guitars、Fender VI、Jenco and Schiedmayer Celestes、Vako Orchestron、Hohner Bass 2、Hohner Guitaret、Omnichord) Jerry Jones (Electric Sitar) Akaba (Vocals) Stina Hellberg Agback (Harp on “Poppies”) Hanna Ekstrom (Violin & Viola on “Poppies”) Anna Dager (Cello on “Poppies”)
by malilion
| 2020-12-12 20:09
| 音楽
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