![]() YESへ電撃加入したヴォーカリスト Jon Davison(現在もしっかり在籍。立場、危ういけど…)が在籍していた元バンドとしてインディ・バンドながら世界中から注目を浴びる事となったUSシンフォ・バンドの、前作以来2年ぶりとなる18thをちょい遅れてGET。 Steve Babb(Keyboards、Bass、Backing Vocals、Lead Vocals)と Fred Schendel(Keyboards、Guitars、Backing Vocals)を中心に結成された本バンドは既に結成30周年を迎えているが、不変のメンバーでメインライターでもある2人を除きバンドメンツは常に流動的で殆どプロジェクトと呼んで差し支えない形態の音楽ユニットである事はファンならば誰もが知る事と思う。 バンド創始者の2人は、バンドとしての成立を放棄した初期以降リリースして来たアルバムを、彼等のビジョンにマッチするプレイヤーやヴォーカリストをその都度迎え入れる映画のキャスティング同様に考て制作に臨んでいる模様で、ソレを是とするか非とするかはバンドというモノに対するリスナーの捉え方で判断するしかないが、ともかく中心の2人のバックボーンであるプログレッシヴ・ミュージックは不変のままに招かれるプレイヤーが持ち込む音楽性を取り入れこれまで少々無節操に思える程に幅広い音楽性を表現して来た訳で、本作もその例外ではなく新しい顔触れやお馴染みの顔触れが登場する一作となっている。 注目の参加ミュージシャンだが、14年『Ode To Echo』から加入した Aaron Raulston(Drums)の名は健在なものの、長らくその歌声を披露してきた Susie Bogdanowicz嬢は1曲のみ参加となっており、前作までのコアメンバーとしての地位がアッサリ消え去ってしまった模様だ。 また、前作は現YESのヴォーカリスト Jon Davisonと長らく参加していたSALEM HILLの Carl Grovesに代わって参加の、同郷USプログ・バンドで以前からバンドと交流があるDISCIPLINEのリーダー Matthew Parmenter(Lead Vocals)とPatton Locke(Lead Vocals)なる新人ヴォーカリストによる男女3人のヴォーカリスト体制が構成されいたがその2人の名は既に無く、代わって前作でギタリスト(!?)としてゲスト参加していた Reese Boyd(Lead Vocals & Lead Guitars)と無名なプログレ系イギリス人ソロシンガー John Beagley(Lead Vocals)の2人をメインにした、こだわっていた男女3人のトリプル体制がアッサリ消えた本作はツイン男性ヴォーカル編成という事になっている。 前作で長らくギタリストであった Alan Shikohの名が消え、本作でもパーマネントなギタリストが在籍せぬままに、ヴォーカルをとる Reese Boydがリードギターを担当する他、引き続きゲスト・ギタリストが迎えられそれぞれの楽曲でプレイする流動的な体制なのは変わっていない。 Musicians: Steve Babb (Keyboards、Bass、Backing Vocals、Lead Vocals Track1、Track5、Track12) Fred Schendel (Keyboards、Guitars、Backing Vocals) Aaron Raulston(Drums) Reese Boyd (Lead Vocals Track2、Track11、Track12 & Lead Guitar Track1、Track5、Track12) John Beagley (Lead Vocals Track3、Track7、Track10) Susie Bogdanowicz(Lead Vocal Track8) Brian Brewer (Lead Guitar Track7、Track8 & Acoustic Guitar Track12) Joe Logan (Lead Vocals Track11) Special Guests: James Byron Schoen(Gguitar Track11) Barry Seroff (Flute Track2、Track11) さて、前作『Chronomonaut』も00年リリースのSFチックで冗談めいた『Chronometree』の続編コンセプト作だったが、本作も引き続きコンセプト作となっており、絶望に満ちた街から恋人を救出する為に様々な恐怖を戦い抜かなければならぬ絶望的な男の物語で、彼に与えられた時間はたったの3日しかない! と、いう定番(笑)の流れな剣と魔法のダーク・ファンタジーとなっている。 Steve Babbは、本作の音楽をスペース・ロック、ベルリン・スクール・エレクトロニカ、70年代のアメリカンHM、初期の英国プログレッシヴ・ロック等、いくつかのジャンルへのノスタルジックなオマージュ、と表現しており、彼曰く『アルバムのストーリーを伝える為に、『DREAMING CITY』は古いペーパーバックの冒険小説のような外観と雰囲気にしたんだ。それは没入型の体験であり、最初から最後まで楽しめ、曲は本の章のようにレイアウトされている。今までに無い試みだけど、ファンの皆様にはきっと気に入ってくれると思うよ』との事だ。 本作のサウンドについてだが、いきなりヘヴィでスピーディなメタリックサウンドが飛び出してきて、旧来からのファン程に本作のダークなHMサウンドに驚かされる事だろう。 前作も従来のイメージを覆す挑戦的なジャズロック的サウンドを提示してファンを驚かせたが、本作はさらに一歩変化を推し進めた作風で、パワフルな疾走感とヘヴィネスなギターリフで攻めまくるHM的緊張感と攻撃性が楽曲の至る所から臭い立つ挑戦的メロディアス・サウンドとなっており、前作で余り目立たなかった鍵盤類が本作では主にHR的な刻む使われ方やファンタジックな楽曲の雰囲気作り、そしてバッキング的な役割を担いつつ、ここぞというポイントでシンフォニック・ロックらしい重厚で壮麗なキーボードワークを披露している。 このダークでパワフルなドライヴ感あるサウンドは明らかに悲壮感あるダークファンタジーなコンセプト故だろうが、これまで大抵はギターが裏方でキーボードがリード楽器的な花形ポジションのプログレ&シンフォ系楽曲を提示してきた彼等からすると、楽曲の大半は主役がワイルドでヘヴィなギターと言える構成になっており、本作は彼等の一大転機と言える問題作となるのではないだろうか? 確かに本作のこの攻撃的な楽曲とコンセプトならば明らかにマッチしない Susie Bogdanowicz嬢の艶やかで可憐な歌声が除外されるのも納得だ。 あれだけ数作に渡ってこだわっていた男女3人のトリプル・ヴォーカル体制を捨ててでも表現したいコンセプト・サウンドが本作、という事なのだろうが、確かにこれだけの大きな変化や冒険作は通常のバンド形態ではなかなか難しいと予想されるので、そういう意味でも Steve Babbと Fred Schendelは安定を求めず、常に挑戦し発展しようとするプログレ的野心や実験心を忘れぬが為に2人中心のユニット体制を保っているのかもしれない。 無論、全く従来のサウンドが消え去った訳でなく、コンセプトが剣と魔法のダーク・ファンタジー物語である事から以前からのYES風味やEL&P的サウンドが物語を彩る重要な魅力的サウンドテクスチャーとして使われており、US勢にありがちなパワー押し一辺倒でウェットな叙情感が乏しいドライで薄っぺらなサウンドに陥っていないのは流石はベテランの仕事と言えるだろう。 彼等が初期に影響を受けただろうRUSH、JETHRO TALL、TANGERING DREAMっぽいサウンドやタッチを臭わせ、スペイシーさ漂う初期プログレッシヴ・サウンドやクラシックロックの雰囲気を感じさせながら、より直接的なアプローチで生々しくエッジあるギターサウンドが攻め立てるHM的な漲る疾走感と迫力を叩きつけ、これまで培ってきたデジタリーなプログラミングサウンドやドリーミーさ漂うアンビエントなサウンドも大胆にフィーチャーしつつ、プログレっぽい緻密なアンサンブルやスリリングなテクニカルパートも交え、時折入る涼やかなフルートや可憐なフィメール・ヴォーカル等だけでなく繊細なメロディを紡ぐアコギや美しいシンセが織り成すドラマチックで劇的な調べは、間違いなく20年代のGLASS HAMMERの代表作と呼ばれる事になるだろうアメリカン・シンフォニック・ロックの会心作だ(*´ω` *) 本作で一番驚かされたのは、HM的アプローチな楽曲だからだろうが意外な程に Steve Babbの切れ味鋭くヘヴィなエッジあるベースプレイが大活躍していた事で、スペクタクルな物語に相応しく様々な音楽スタイルの紆余曲折を経て描き出される悲壮感漂う叙事詩を力強く彩っており、彼がこんなにHM的な唸る攻撃的なベースをプレイ出来るとは、今まで迂闊にも気がつきませんでしたね。 今回ヴォーカリストとしても参加となった Reese Boydはミドルレンジ主体な優しげな歌声で、ファルセット等を使って高音域もカヴァーしており、取り立てて個性的な声質でも特筆すべき歌唱スキルを示すでもない英国のポンプ系&シンフォ系に多いジェントル系ヴォーカルと言えるだろうが、バンドサウンドにマッチした歌唱を披露しており、LIVEでインストパートが長くシンガーが手持ち無沙汰に成る本バンドではギター兼任(今回、やたらRUSHっぽいギターを弾いている…)でこれだけのヴォーカル・パートを担えるなら十分以上な人材と言えるだろう。 もう1人の新人ヴォーカルである John Beagleyの歌声は、正直余り印象に残らぬ、良く言えば Reese Boydとコーラスしても違和感ないミドルレンジ主体の涼やかで優しいアンダーソン系な歌声で、勿論専任シンガーなので音域は Reese Boydより広く高いパートも難なくこなしているが、特筆するような際立った個性のある歌声ではありませんでした。 まぁ、2人とも妙な癖のある歌声でもないし、これはこれでリリースしてきたアルバムの多様なサウンドや楽曲に対応出来るフレキシビリティが高いし、幅広いジャンルの音楽を取り込んでいるGLASS HAMMER的には適任なのでしょう。 もっとも超絶個性ある巧いヴォーカリストならこのバンドの雇われシンガー的立場に甘んじる訳ないので、まぁ、創設メンツの2人が中心な体制な限り2人と同等か上回るような新たな実力派シンガーがメンツに名を連ねる事はゲスト以外では無いんでしょうねぇ…その点はこの先もこのバンドの弱点として永遠に残り続ける問題なんじゃないでしょうか… また以前から指摘していた歌メロの駄目さ加減が本作ではストーリー仕立てな楽曲なのが幸いしたのか余り感じられず、その点でも新ヴォーカル2人の力量が仮に劣っていたとしても歌メロの駄目さ加減というデメリットは悪目立ちしなかったろうが、にも関わらず本作での2人の歌メロは以前の作品に比べればダンチの差でよろしくなっており、その点でも本作は心地よく聴ける嬉しい変化点と言えます。 前作は鍵盤類によるオーケストレーションは控え目に、代わりに派手目なブラス、ブルース、プログレッシヴロック、デジタルサウンド、アンビエント等の多様な音楽要素を組み合わせ、YESを筆頭に、GENESIS、VDGG、KING CRIMSON、PINK FLOYD、GENTLE GIANT、TANGERINE DREAM等の70年代プログレッシヴ・ロックバンドへのトリビュートを感じさせる、壮大で重厚、旋律的で叙情的な複雑なアレンジと構成から成る楽曲が詰め込まれた野心的な冒険心剥き出しの意欲的アルバムであったが、本作はより焦点が絞り込まれた、60年代から親しまれてきた古式ゆかしいファンタジックな冒険物語の形を借りて、モダンで聞きやすいドリーミングなデジタルサウンドとダークでヘヴィなHMサウンドの対比によって描き出されるドラマチックさと、シンフォニックさも保ちつつストレートなロックサウンドをパワフルに響かせた、さらにバンドサウンドをシンプルで聞き易いポピュラリティある方向へ前進させた意欲作と言えるので、以前のキーボードばかりでヴォーカルが殆ど無いバランスが悪いインディ丸出しなフォロワー・サウンドを聞いて辟易し彼等の活動をチェックするのを止めた方こそ、もう一度耳を傾けてみて欲しい、聴いてみる価値のあるアルバムだ。 もし本作に興味を持たれた方がいたならば、物語性のあるコンセプトアルバムを十分に味わう為にも、是非に物理的な本アルバムを入手して、スリーブノートに描かれたイラストを味わいつつこの物語へのガイドとし、彼等の描くファンタジックな剣と魔法の物語を楽しんで欲しいものです(*´ω` *)
by malilion
| 2020-06-01 13:31
| 音楽
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