![]() パンク色の強いシアトリカルでユニークなヴォーカルとニューウェーヴとNWOBHMの影響大なハード・シンフォサウンドが特徴だった、同時期デビューのポンプ勢の多くがエミュレートしようと試みていた70年代プログレの巨人達のサウンドから最も離れた位置に存在する特異点であり80年代UKポンプ・ロックの代表的グループの一つ TWELFTH NIGHTの、1994年以来初めてとなるスタジオレコーディング作が久しぶりにリリースされたので即GET! 07年再結成前の05年に、出るわ出るわの蔵出しLIVE音源の嵐と、続くボートラ追加再発既発リマスター盤攻勢、そして再結成という流れに嬉しいは嬉しいけど、今は亡きカリスマフロントマン Geoff Mannを出汁にした集金目的がアリアリで些か引いていた古参ファンも多かった事(かく言う、私もデス)でしょうが、本作の制作メンツは再結成に合わせてのLIVEに都合良く呼ばれたり呼ばれなかったりな元メンバー Andy Sears(Vo)に代わって、LIVE盤『MMX』'10 にてギタリストとしてプレイしていた、かってネオプログレ・バンドLAHOSTのフロントマンであり、現在はサウンドエンジニア、プログラマー、アレンジャー、もこなす裏方作業メインでマルチパート・セッションミュージシャン Mark Spencer(Vocals、Rhythm Guitar、Keyboards)が7代目フロントマンに迎えられており、後はオリジナルメンバーの Brian Devoil(Dr)と Andy Revell(G)の三人のみがバンドメンバーで、残りはサポートの Andy Faulkner(B ex:WALKING ON ICE、ex:JUMP)、そして同郷シンフォ・バンドGALAHADの Dean Baker(Key)の五名での制作となっている。 『Sequences』は、約40年前に最初に演奏されたインストゥルメンタル・トラックで、『Live at the Target』'81 にも収録されているバンド初期レパートリーの重要曲であり、LIVEでは Geoff Mannが軍服に着替えて勇敢な兵士のパフォーマンスを行う、ギグのクライマックス曲として幾度も演奏されてきた Geoff Mannの印象がとみに強い彼等の代表曲の一つでありました。 殆どバンド結成当初から存在していたと言える『Sequences』ですが、デモテープにその歌声を残すのみなアメリカ人女性ヴォーカリスト Electra Mcleod嬢をはじめ、このバンドを通り過ぎていった幾人ものヴォーカリスト達がその時々に歌詞の断片を残してきたが一向に完成する事はなく、けれど Geoff Mannがフロントマンの座につくと、彼の妻の祖父 Jack Parhamの従軍経験を元にした、イギリスのイングランド、チェシャーの町ウォリントンの若い男が軍隊のボランティアを経て、地元の南ランカシャー連隊(1881年から1958年にかけて存在した英国軍歩兵連隊)の入隊にサインし、第一次世界大戦の戦場へ出奔、そして変わり果てて故郷へ戻ってくる、という兵士の苦悩や栄光を描いたドラマチックな歌詞と物語を書き上げて遂に楽曲が完成するものの、Geoff Mannがバンド脱退を決意した為スタジオ録音される機会を逃し、The Marqueeでの Geoffのお別れLIVEでのプレイが録音され、84年リリースのLIVEアルバム『Live and Let Live』にその一部(約17分の有名なヴァージョン)が収録されるのみとなっていた、バンドメンバーにとってもファンにとっても馴染み深い、曰く尽きの古い古い楽曲であります。 本作はそんな『Sequences』の、2018年ヴァージョン(23分を越えるヴォーカル入り)、インストゥルメンタル・ヴァージョン、主要3セクションから成る組曲ピアノ・ヴァージョンという、同一曲3バージョンを初めてスタジオ録音にて再録したEPで、たった一曲『Sequences』だけ収録した作品ながら、収録時間は計57分とアルバムに匹敵するヴォリュームとなっており、如何に彼等がこの曲を大事に思っているかが伝わってくる入魂の仕上がりだ。 注目の Mark Spencerのヴォーカルについては、歌詞を完成させた作者に敬意を現す為か、それともかってのLIVEプレイに即した歌メロをなぞると必然的に似るのか、はたまたバンドの方向性的にそう求められたのか定かではありませんが、恐らくかなり意識して Geoff Mannっぽいパンク風でシアトリカルな歌い方をしているものの、声質が全く違うので Geoff Mannのコピーというネガティヴな感情は全くわかず、普通に下から上まで幅広い音域を持ち、その上さらに器用にどんな楽器もこなすミドルレンジ主体な歌の上手いフロントマンがTWELFTH NIGHTに迎えられて良かったなぁ、という印象しか持ちませんでした。 Mark Spencerのエモーショナルなヴォーカルが大活躍する2018年ヴァージョンは、当時のアレンジやフィーリングに全く囚われぬ、独創的で響きが強く、鮮明で印象的な楽曲へ見事にリビルドされた、まさに今風な英国シンフォニック・ロックへと仕上げられており、ヴァイオリンをフィーチャーしたスケールの大きいオーケストレーションや分厚く雄々しい合唱隊のコーラスを駆使したド迫力のサウンドで、死臭漂う激しい戦場の情景描写や兵士の悲痛な心情の吐露を訴えかけ、これまで発表されてきた『Sequences』に馴染んでいる旧来のファンにこそ、特に新鮮な感覚と新たな息吹を予感させる事でしょう。 新たに録音されたインストゥルメンタル・ヴァージョンは、映画サントラよろしく銃声や雄たけび、隊列の足音、囁くような無線の声、遠くで唸るように鳴る空襲警報、吹き荒ぶ風の音、高まる鼓動、雨音と雷鳴、そして兵士の叫び等の効果音や、悲壮な戦場を思わせるダークで重厚なコーラスなどが追加されており、『Live at the Target』'81 に収録された楽曲からさらに拡張したセクションが耳を惹き、いくつかのパートやフレーズは明らかにこれまで発表さて来たアレンジより素晴らしく、爪弾かれる哀愁漂うアコースティック・ギターをはじめ、不穏なシンセパートや荘厳なオーケストレーションを奏でるキーボードプレイの全てが、ほろ苦く感傷的なメロディで訴えかけ、セピアカラーのインナーの写真が思い起こさせるノスタルジックで歪な第一次世界大戦の兵士の苦悩や栄光、そして戦場という狂気の世界を圧巻のスケールで描き出していく。 Dean Bakerの華やかで繊細、そして物憂げで悲壮感漂うピアノが大活躍する主要3セクションから成る組曲ピアノ・ヴァージョンは、インストゥルメンタル・ヴァージョンをベースに、よりコンパクトでピアノ独奏曲風なタッチを加えたアレンジが楽曲に成されており、全てヴォーカルレスな楽曲だが、最初の希望あふれる軽やかな雰囲気から一転、汽車の音のSEが挿入され、兵士が故郷へ戻ってきた、けれど以前とは違う状況なのをピアノが同じ主旋律を弱々しく呟くように気怠げに響かせる事で暗示させる、エピローグ的な扱いの楽曲となっている。 なお、真っ赤なヒナゲシが美しく咲き乱れる草原を、亡霊のようなモノクロの兵士達(第一次大戦当時の兵士達の姿)が背を向けて進むジャケが実に印象的な本作は、1918年11月11日の停戦協定をもって終決した第一次世界大戦の終戦100周年を記念してリリースされており、本作の売り上げは、ロイヤル・ブリティッシュ・レギオン(英国軍の退役軍人の生涯サポートを提供する慈善団体)へ全て寄付される模様だ。 因みに、CD盤面には赤いヒナゲシの花輪(追悼の意と新たな人生の開始を表わしている)が印刷されており、CDを取り外すと、19世紀の英国詩人 Laurence Binyonの代表的な作品『Fall the Foren』から抜粋した“思い出の抒情詩”の、戦争のあらゆる犠牲者への賛辞を述べた有名な一節がサークル状に印刷されており、その中心には押し花の赤いヒナゲシが印刷されているのが目に飛び込んでくる仕掛けが施されており、この赤いヒナゲシ(scarlet corn poppy)は欧州では戦死者追悼の象徴で、対ナポレオン戦争で荒廃した欧州各国の戦場では、戦死者の遺体の周囲に赤いヒナゲシが生え、荒れた土地がヒナゲシの野原に変貌した事に由来している。 ニューメンバーを迎えたTWELFTH NIGHTの新録音源リリースが今回の終戦100周年記念の為だけのものなのか、それとも今後さらにメンツを補充、もしくは旧メンバーを呼び戻して(オリジナルベーシストで再結成にも参加してた Clive Mittenにも本作に参加して欲しかった…)再び精力的な活動を再開させるのか不明ではありますが、本作の極上の仕上がりを聞くに、まだまだ彼等は第一線で活躍出来るポテンシャルを持っているバンドなのは明らかなので、旧譜再発やLIVE音源メインのリリースをここらで一端休止させて、本格的に新しい楽曲を満たした新譜を届けて欲しいものであります。
by malilion
| 2018-11-24 13:24
| 音楽
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