TNT 「ⅩⅢ」'18
かつて『北欧メタル』を代表するバンドの一角に数えられこ、こ日本で絶大な人気を誇ったノルウェーが誇る北欧HMの雄 TNTが2010年の『A Farewell to Arms』以来8年ぶりとなるスタジオ・アルバム13thをリリースしたのを、ちょい遅れてGET! 本作の最大の話題は、なんと言っても再結成して以来フロントマンが常に定まらず二代目ヴォーカリスト Tony Harnellが出たり入ったりな状況だった問題が解消され、無名のスペイン人新人ヴォーカリスト Baol Bardot Bulsaraを四代目フロントマンに迎えた新体制による第一弾作である事だろう。 そもそものバンド解散の引き金となった Tony Harnellの脱退を経て、96年に再び彼を迎えての再結成を果たしたものの、89年の4th『INTUITION』を筆頭に北欧HMかくあるべしと言わんばかりの透明感あるキャッチーでホップ、それでいてハードエッジも保ったテクニカルなサウンドを再現する道を捨て、時流を強く意識したヘヴィでダークなグランジー要素入りのUSAナイズなサウンドが大方の予想通りファンに受け入れられずに人気が低迷し、80年代に人気を博したバンド群と同じく世界的トレンドに翻弄されて迷走した90年代のバンド活動に追い打ちをかけるように、近年 Tony Harnellが脱退を繰り返したのが、どう考えても再結成以降このバンドが長らく飛躍出来無ず終いだった原因なのはファンならば皆ご承知のはずですよね…('A`) 06年に Tony Harnellの後任として加入し三枚のアルバムで見事な歌声を披露した三代目ヴォーカリスト Tony Mills(元SHY、SIAM)が鈍い活動状況のバンドに業を煮やして13年に脱退した後、再び Tony Harnellが加入して来日公演を行なったまではいいものの、まさかのSKID ROW(!?)に加入する為に15年に再び脱退、しかし6カ月足らずでSKID ROWも脱退して再びTNTへ加入(!?!?)という熱心なファンでさえも愛想を尽かす謎過ぎる脱退劇を経て新作の制作に取りかかるものの、新譜創作途中の17年10月に再びバンドを脱退し、今回のスペイン人新シンガー Baol Bardot Bulsaraが迎えられた次第で、その為か新譜のそこここに Tony Harnell的な歌メロが散見する訳だが、最終的な仕上げやアレンジを Tony Harnell抜きで行った事や声質や歌唱方法が違う Baol Bardot Bulsaraが恐らく前任者を意識して歌い上げた事によって微妙なズレが生まれ、今までのTNTの音像っぽいけど決定的に違うという絶妙な変化を生む効果となったのは本作の一番面白い点と言えるでしょう。 注目の新フロントマン Baol Bardot Bulsaraの歌声ですが、中低域では Tony Harnell的な甘さを感じさせる爽やかな優しい歌声で、新人ですから仕方が無いのですがハイトーンになると少々線の細さと不安定さを露呈してしまい三代目ヴォーカリスト Tony Millsのような堂々とした歌いっぷりやシャープな高域での歌声を披露するに至っていないものの、これまでのどのアルバムよりもソフトケイスされAOR要素が強くなった本作においては実に良くマッチしていて、もし Tony Harnellが脱退せず歌っていたならば暑苦しさやクドさを感じたであろう楽曲でも柔和さと温かみ、そして爽快さを感じさせてくれる見事な歌いっぷりで、結果的に彼の涼やかな歌声がもたらした新鮮な風が、再結成以来ずっと彼等に期待され(周囲からも強いられていた?)ていた“INTUITION”時代の輝かしいメロディアスHRサウンドを再現する“焼き直し行為”にならず、それでいてリーダーの Ronnie Le Tekroが常々口にしている“変化を恐れぬ姿勢”を保ったニュー・バンドサウンドを確立する足がかりとなったように思えます。 所謂“CLASSIC TNT”的な往年の80年代北欧メロハー・サウンドの復活を多くのファンが待ち望んでいるのは重々承知しておりますが、再結成以降の音楽的方向性や以前からの Ronnie Le Tekroの発言を鑑みると、80年代サウンド再現をTNTが果たす事はないと誰もが容易く予想出来ますよね? 実際、バンドメンツも世界中で約500万枚のアルバム売り上げを誇った“CLASSIC TNT”時代とは大きく違い、再結成(オリジナル・ドラマー Diesel Dahlは居るけど)バンドとは言え既に当時のメンバーは Ronnie Le Tekroしか残っていない状況ですので、そもそもソレを求め強いるのも少々酷ではないかと… また本作においては三代目ヴォーカリスト Tony Millsと時を同じくして迎えられ長らく在籍した二代目ベーシスト Victor Borgeの姿もなく、新たに Ronnie Le Tekroのソロバンドでプレイしていた Ove Husemoenが三代目ベーシストとして迎えられた体制での初作品であるという点も地味ながら見逃せない変化ではないでしょうか? 新譜のサウントが前作よりハードさやヘヴィさに置いては大きく後退したのは否めませんが、Ronni Le Tekroの少し聞けば彼だと即分かる癖の強い独特で驚異的な、そして燃えるようなフレットワークは依然としてダイナミックで、テクニカルで屈折したギター・リフも未だに聞かせてくれるし、80年代より幾分落ち着いたナチュラル志向なサウンドは今でも十分に躍動感と透明感に溢れたメロディック・ロックサウンドであり、90年代からの音楽的実験や試行錯誤を経たのが無駄でなかった証明のように、多様なフォームの音楽的要素を奇妙に組み合わせて幾つかの味わいを加える為の音楽的ニュアンスを体現しており、加えて魔法のコードを奏でるエネルギッシュで奇妙なギター・サウンドとハーモナイズされた分厚く爽やかなヴォーカルというお馴染みのTNT印もしっかりと新譜サウンドには刻まれているのが聞き取れ、個人的には中途半端に“CLASSIC TNT”的なサウンドへ近づけていた Tony Mills時代の三枚のどのアルバムよりも本作の方が新鮮味を感じられ、アップテンポのバラードからキャッチーでライトなロックや果てはアリーナ・ロックに至るまで実に幅広いタイプの楽曲が詰め込まれた、洗練されたモダン・ハードポップ・アルバムで大変好ましく思えます。 以前のようなキンキンな煌びやかさや造り込まれたゴージャスなポップさ、ヘヴィさやスピードは無いものの、フックある魅力的なメロディーと美旋律が甘美な楽曲のアレンジにおいては近年作では随一と言える本作は、Ronnie Le Tekro(G)、Diesel Dahl(Ds)、Ove Husemoen(B)の組み合わせが生み出すマジックと新たなバンドの音楽的方向性に未だに未知の可能性が潜んでいる事を強く示唆しており、図らずも旧来のイメージを保つ事になった歌声を披露した Baol Bardot Bulsara(Vo)が最初から制作に参加するであろう次作で果たしてどのようなヴォーカル・パフォーマンスを示すのか、またソレが一体どのようにバンドサウンドと反応をするのか興味が尽きません。 最近デビューしてきているバンドが演っている80年代的リバイバル北欧HM好きな方には少々スリリングさやパワーに欠ける残念で軟弱なサウンドに聞こえ、旧来からのファンの期待に応えた汚名返上作とはなっていないかもしれないが、美しいメロディ愛聴家や北欧メロハー好き、そして朗らかで穏やかなサウンドをお好みのAORファンな方などにお薦めなメジャー志向なサウンドなので、幅広い音楽ファンにきっと受け入れられるだろうこの新譜、チェックしてみる価値があるのは確かですよ(*´ω` *)
by malilion
| 2018-06-29 13:46
| 音楽
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